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(出会い目的の書込は法律で罰せられます→ルール)

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「邦彦はどこの高校にするんだ?」
発端は兄が発したこの疑問だった。
桜舞う春。僕も兄も、それぞれの学校の最高学年になったばかりのときだった。
僕は毎日一日一日が楽しく過ごせればそれでよかったから、進路なんて適当で、結構なあなあに過ごしてきた。
だから僕はその問いにぼんやりと浮かべていた、正しくも間違った意味の適当な答えを言った。
「兄ちゃんと同じ学校」
「……おいおい」
そう答えると、兄は呆れたような……珍しく、怒ったような声音で返してきた。
「そんな適当でいいのか? 将来とかちゃんと考えてんのかよ?」
その言葉には苛立ちが多分に含まれていた。苛立ちというのは、軽薄な喋りが疎まれる僕からすると慣れきった感情だったので、全くもって気にならなかったのだが、それが「兄から放たれている」という事実が問題だった。
兄は普段、喋り倒す僕とは対照的に非常に物静かな性格をしていた。声を荒らげて怒るところなんて見たことがない。父や母の言うことには「はい」と頷くくらいしかなかったし、反抗期が欠如しているんじゃないか、と思ったくらいだ。
そんな兄が、こればかりは譲れないとばかりに僕に迫ってきて、僕は驚かざるを得なかった。
「邦彦、お前、ちゃんと将来何なりたいとか決めて高校のこと言ってんのか? まさか『兄が行った学校だから』なんて理由じゃないよな、志望理由」
「え……そうだけど」
「はぁっ!?そんなんでお前、大丈夫なのかよ!?父さんや母さんに何か言われないのか!?」
「何かって……? 僕は、僕の好きにしろって言われたけど?」
そう答えると、兄の顔が、他の誰でも見たことないくらいに真っ青になり……気づいたら僕は、胸ぐらを掴まれていた。
殴られる、怒鳴られる、と反射的に目を瞑ったが、兄はぶるぶると手を震わせるだけで、結局何も言わず、僕を解放した。
いや、吐き捨てるように、こう言ってたっけかな。
「なんでお前ばっかり自由なんだよ、何も言われないんだよ……」
「……え?」
僕は兄のその一言が、しばらく理解できないまま、呆然として、部屋を出ていく兄の背を見送った。
その背中は、やるせなさを負っていた。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月16日 2時] 2番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

振り返ってみると、どうだろう?
僕と兄に何か違いはなかったか? ──僕は兄にお前と俺は違うんだと指摘されて、その事実を見定めようと、呆然と記憶を辿った。
*
僕が物心ついた頃。
兄は小学校入学に向けて、保育園で一所懸命ひらがなの練習をしていた。外で同じクラスの友達と遊ぶこともせずに、熱心に紙に鉛筆を滑らせてにらめっこする兄を、なんとなくカッコいいなぁ、と眺めていたけれど、あれはもしかして。
『学校に入る前に他の子と差をつけておきなさい。いっぱいお勉強して、頭のいい子になって』
そんなことを、母さんが兄ちゃんに言っていた気がする。
僕はといえば、
『友達と自由に遊びなさい』
だった気がする。
*
小学校に入ってから、母さんは兄ちゃんがテストで100点じゃないと怒ってた。
僕は別に、80点採れば、頑張ったな、とか父さんや母さんに褒められていた。
かけっこも兄ちゃんは一番になれるよう、いっぱい練習していた。授業以外でも。
僕は、ただクラスメイトと戯れていただけ。
僕はちゃんと走れば走るだけで「頑張ったね」って褒められた。
兄ちゃんは、一等賞じゃないと、見向きもされなかった。そういえば、陰で泣いていた気がする。……悔し泣き。
*
中学に入ると、兄ちゃんは前より僕と遊んでくれなくなった。
中学に上がると部活があって大変だからってだけだと思っていた。
でも、よく考えると、部活から帰った兄ちゃんは、いつもすぐに机に向かっていた。
……一体いつ、休んでいたのだろう?
*
そして、僕の知らない兄ちゃんの高校受験の話。
一度ちらりと見た兄ちゃんの将来の夢のアンケートには「公務員」という堅い文字が、兄ちゃんの綺麗な字で書かれていた。
「公務員になれば将来は安泰だ。だから公務員になれ。公務員になれなくても普通科の学校に行けば大学進学、専門学校……色々な幅が拓ける。だから普通科の学校にしなさい……そう言われて、俺が昔からの夢を諦めさせられた。なあ、邦彦、お前にこの気持ちがわかるか?」
僕は記憶を遡る。
確か保育園の頃、兄ちゃんと夢の話をしていた。
「くるまがすきだから、くるまのおなおしするおしごとしたい」
それは小学校の頃も変わらなかった。将来の夢は? なんてアンケートが兄ちゃんの机にあって、ちらりと見たら、「自動車整備士」ってあったんだ。
別に、専門の学校に行かなきゃなれないってわけじゃないけど、専門学校、あるから行きたかっただろうな。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月16日 2時] 3番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

明らかになった事実に僕は愕然とした。
兄に、自由なんてなかったのだ。
親の理屈に束縛されて、具体的に持っていた理想を捨てさせられた。勉強も運動も一番であることを強要されていた。
これのどこに自由がある? 僕と兄とじゃ、正反対じゃないか。
僕はその事実に、絶望とも失望ともとれぬ感情を抱きながら、ようやく、「自分について」得られた自由をフルに使って考えた。
平凡な人生を送ってきた僕が望むのはやはり、平凡な人生だった。漫画かなんかに描かれるような……友達とわちゃわちゃやって、面白おかしく生きる。それが僕の性分に合っている気がした。
それとは別に、ちゃんと将来どう生きるか、というのに向き合った。兄ちゃんの分までっていうとあれだけど、選択の自由を無為に受け流すのは、兄ちゃんの激昂を聞いてからじゃ、とてもできなかった。
僕は、ゆったりのんびり暮らせる生活を望んだ。幸い情報社会。おぼろげながら、手段は見つかった。
それが、内職。
世間には様々な内職があって、まあ稼ぎはそれほどでないにしても、ある程度掛け持てば、生活に苦にならない程度の稼ぎは得られる、と。
保険として、技術的な知識とか内職募集を見つけるための情報収集に役立つよう、コンピュータを使いこなせるようになろう、と、当初とは違う、情報技術学科というのがある、専門学校に入った。
奇しくもそこは兄が入りたかったであろう、自動車科という学科がある学校だった。
兄は優秀だったから、公務員試験に高卒で一発で受かった。
そんな兄に父母は、申し訳なさそうな目を向けていた。けれどもう兄は既に諦めきっていて、父母に敷かれたレールに従順に走っていった。
高校が決まった僕と、就職が決まった兄は、話をした。なんてことない、将来の話。……今は以前と重みが違うけれど。
「お前が自由な道を歩むことに俺は異論はないよ、邦彦」
「でも、兄ちゃんは……」
兄は心配する僕に苦笑を向けた。決まっちまったもんは仕方ない、と。
「なあ、邦彦、お前には、もっと自由な生活をしてほしいんだ」
「どういうこと?」
すると、兄は不動産のチラシを一枚、僕に渡した。そこにはそこそこ立派な一軒家。
「父さんと母さんのことは俺に任せて、一人暮らし、してみろよ」
異論はなかった。
けど、やっぱり兄の自由を奪っているようで後ろめたい。
でも、振り仰いだ兄はもう拭いきれない諦念を持っていて──俺はその案を受け入れた。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月16日 3時] 4番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

元々能天気に見られる僕だけど、一人暮らしするに当たって、一つだけ、悩みがあった。
小学校も中学校も……結局高校もそうなっちゃったんだけど、
僕にはクラスメイトはいても、友達はいなかった。
だから、家に帰って、家族のいない空虚を満たしてくれる人がいなかった。
……もしかしたら、これは兄の密やかなる僕に対する仕返しなのかもしれない。
*
育てられ方の違いを兄に指摘されてから、色々調べたんだ。
よく、長男長女はしっかり者、と言われるその理由。見事に僕ん家は該当したからさ。
そしたら、こうだって。
「一番最初に生まれた子どもは、どうやって育てたらいいのか手探りの状態。だからつい細かいことに目がいき、厳しく育てられてしまう傾向がある」
と。
つまり統計に取られるほど、うちの一家の現状は当たり前なのだった。
……でもそれじゃあ、兄ちゃんがあんまりに報われないや、と胸の中に秘めて罰にしては軽く感じる孤独を胸に秘めながら、僕は一人暮らしている。
いつの間にか、アラクなんて呼んでくれる人さえいなくなったけど、持ち前の明るさで吹き飛ばす。
……まあ、本当の話、まだまだ友達募集中だけどね。
そんなことを考えながらも、僕は今日も淡々と過ごす。
気まぐれでいいから誰かが友達らしく、「アラク」と呼んでくれる日を願って。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月16日 3時] 5番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

普通ということ

(^ー^) (プロフ) [2019年3月1日 17時] 6番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

僕は当然のように何をやっても一番な、成績優秀の判を押された人間だった。
金髪碧眼の絵に描いたような端麗な容姿。いつも鏡を見るたび人間めいていないと感じた。
でもまあ容姿は生まれ持ったものだから、今更変えようがない、と鏡を見ては言い聞かせ、諦めていた。自分の容姿は好きではないが、嫌いでもなかったから。
ただもう少し、人間っぽくありたかった。故に僕はせめて、性格だけは人間らしくあろうと、受験で受かった学校の小難しい本を読んでは人間について勉強していた。
読んでいたのは小難しいといっても少々対象年齢が上なだけの小説だ。どの本も、主人公は正義感に溢れ、どこか欠如があるが、誰からも慕われていた。
僕は……主人公には興味を持てなかった。何故なら僕は、主人公になりたいわけではなかったから。僕がなりたいのは、普通の人間。平凡な人間になりたかった。
今思えば、生まれ上無理な願いだったが、それでも僕は、主人公になりきらない、そう、勇者の仲間の魔法使いみたいな、ご飯で言ったら主菜じゃなく副菜みたいな存在になろうとした。
でも、正しいと思っていることは貫きたかったから、泥棒を捕まえるのだとかはやめなかったが。
思い返すと、僕は主人公ではなかったが、魔法使いにもなれなかった。その二つのどちらにもなりきれなかった、宙ぶらりんな存在。……まあ、悪くはないと思う。
自分なりに納得のいく生活を送り……僕の齢はいつしか15ほどになった。
あの頃は、周りがいがいがしていてひどかった。なんだろう、意味もなく、周囲を全部嫌うやつがいるかと思えば、誰彼構わず媚を売るやつがいて、そんな中純粋に笑う女の子とか、ちょっとツンツンした男の子とか……色々いたあの時期を僕は、本で調べた情緒不安定というやつだと理解した。
そういう風になる年頃であることも理解していたから、僕は誰の言葉も行動も責めはしなかった。
するとどうだろうか。僕の周りにはいつしか、両の手には余るほどの……僕には余るほどの人が集まっていた。
よかったのか悪かったのかは、今でも判別つかない。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月19日 21時] 6番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

男女というのはどうあるべきか。
学生当時から、僕はそれについてちゃんと考えていた。
というのも、やはり僕の「タルデス社社長子息」という地位は大きく、地位目当てに言い寄ってくる女子は何人もいた。
僕としてはそんな人間が僕を好きになってくれるわけないし、そもそも僕を好きで寄ってきてくれたわけじゃないだろうと判断し、丁重に断った。……いつも悲痛な表情を浮かべて僕の返事を聞く女の子の顔を見るのは心苦しかったけど……僕はまだ、恋愛感情というものが、美しく清いものであると信じていた。権力地位のためのどろどろした感情は嫌悪や憎悪……そんなものは抱くべきではない、と思っていた。今にしてみると、笑ってしまうけれど。
愛を信じていたんだ。
*
苛む過去の夢は、やがて一人の少女のところへ辿り着く。
今日も君か、と思った。まあ、それだけ僕の記憶に色濃く残っているのだろう。
ルチルという少女は。
彼女は僕と同じ金髪に透き通る琥珀色の瞳を持った、容姿端麗な人物だった。
才色兼備とは彼女のためにあるのだろうという人物で、学業成績においては常に僕と競り合っていて、いい切磋琢磨の相手だと僕は思っていた。
あまりクラスが一緒になることはなかったから、直接の交流はなかったけれど。
……なかったけれど、彼女はいつも僕を見ていた。
最初は、ライバルだから、かもしれない。
彼女も潔い性格で、ライバルだから気に食わないとか小さい考えではなく、切磋琢磨を求める人物だった。
だから、僕はいい相手だったのだと思う。
あるとき、彼女と僕が同じクラスになったときは、学校中が軽く騒ぎになった。
これは惚れた腫れたの話が出るかもしれないとか。
そうざわめく女子の声を、馬鹿らしいと思っていたのだが。
「イリクくん」
放課後、自主勉強で残っていた僕の隣に何気なく座った彼女が声をかけてきた。ライバルだけど別段仲の悪くない僕たちは、時折互いに教え合いをしていたから、その日、彼女が声をかけてきたのもそのことだと思った。
けれど、振り向いた先の彼女の目は、何故か緊張に潤んでいて、頬は紅を散らしたように赤らんでいた。
「あの、ね、答えはわかってるつもりだけど、言うね。わたしの気持ちを収めるために……だから、聞いてほしいんだ」
「なんですか?」
「……好きです」

(^ー^) (プロフ) [2017年9月21日 22時] 7番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

好きという感情を僕は理解できなかった。当たり前だ。僕は生まれついての欠陥品。特に恋愛感情なんててんで理解できなかった。恋愛小説なんか読んでも全然楽しくなかった。
結論、僕は、僕が愛を持てないから申し訳ないと言い訳して、今まで告白してきた少女たちを突き放していたわけである。
ルチルも例に漏れない。
ただ……僕は告白されて、一瞬頭が真っ白になった。
そう、こんなシチュエーションは初めてだったのだ。
放課後の教室に二人きり。小手先の手段など使わずに、ただただ真っ直ぐと僕の心に「好きです」と呼び掛けてくるルチル。
今までそんな子、いなかった。
ラブレターなんて書いたりして、どこか臆病に拙くすり寄ろうとしてくる少女ばかりだったんだ。彼女らに恋心なんて微塵もなかった……と否定するような権限は僕にはないが、僕と反りの合わないであろうことを察して、切り捨ててきた。
けれど今、目の前の彼女はなんて言っただろう?
『答えはわかってるつもり』
『でも自分の気持ちを収めるために』
──聞いたことのない、言葉の羅列。
それもそうだろう。普通恋愛感情を伴った告白なんて、諦めて行うものではない。どんなに愚かしくても、自分ならできるんじゃないか、なんて希望を持って、……あるいは欲望を持って、やるものだ。
それが……『自分の気持ちを収めるため』『答えはわかってるつもり』
「君は……随分とよく、僕を見てきたんだね」
「…………うん」
告白する前から、フラれるのはわかっている。けれど自分のどうしようもないくらいの感情にケリをつけるためだけに、僕にこんな、告白をした。
そう、彼女は肯定した。
答えをわかっているなら、言わなくてもいいだろう、と囁く自分もいた。けれど、それは違う気がした。
何故そう思ったかって……今までいなかったんだ。ルチルくらい、僕を真摯に見つめてくれた子。
だから戸惑って、でも結局答えなんてルチルの予想通り、僕の中では決まっていた。
ルチルはわかっているんだから、答えなくてもいいかな、ということもできた。
けれどそのときの僕に、そんな彼女の誠実さを無に帰すような真似は、とてもできなかったんだ。
残酷なことはわかっている。けれど僕は彼女をその瞬間……もっと前からかもしれないけど、人として、尊敬していたから。
「ごめんね。僕は恋愛がわからないんだ、わからないから興味もない。だから、君の思いは受け取れない」
息苦しくそう、吐き出した。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月22日 0時] 8番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

僕は吐き出した瞬間、ルチルの顔を直視できなかった。
ルチルがどんな表情で僕の言葉を受け止めているのか、見たくなかった。これまで何人もの告白を断り、誠実であるために目と目を合わせて断っていたのに、ルチルにはそれができなかった。
そう、ルチルのその「好き」という感情は、
……本物の恋愛感情だって、心のどこかで気づいていたから。
僕とルチルの告白の一幕は今までと全く違ったんだ。とても自然に行われ……とても自然に消えてしまった。
どんな女の子に告白されて断っても何も感じなかった僕が、何故かルチルに対してだけ、感情のようなものを覚えたんだ。
恋愛感情なんてわからない。それなのに、断ってしまった。いつものことなのに、辛い、苦しい。きっと、僕以上にルチルが辛くて、彼女は僕の返事を聞くなり、「そっか。ありがとう」──なんて、言ってくれて。
いつもは、みんな、僕が断ると「ごめんなさい」って逃げていくのに。
ルチルはその後笑って──心持ちすっきりした顔で、それからいつも通り教科書を広げて何もなかったように勉強し始めた。その日の彼女はいつよりも勉強に没頭していた。無機質な顔で、すらすらと問題を解いて、躓いたところで僕に声をかけて──少しぎこちないけれど、日常に戻そうとしてくれて。
何故だろう。女の子からの告白はいつものことなのに、ルチルからの告白は今までに感じたことなく苦しくて、その日、僕は後悔にばかり埋め尽くされていた。
家に帰って、珍しく引きこもって、何故か僕の両目から溢れ出すものと嗚咽が収まらなかった。
──それを何を勘違いしたのか。
父が動いた。ルチルのことなんて、大企業社長の手にかかれば、すぐ手に入った。
一人息子を苦しめた悪女に、相応の罰を、なんて目論んで……僕はそれに気づかず、いつの間にかいなくなってしまったルチルの姿に、彼女の空席に瞠目し、呆気に取られた。
教師から聞いた。彼女は、退学届を出した、と。
何があったかは知らないが、泣きながら寂しそうに、彼女は学校を立ち去った、と。
僕は、それを聞いて、絶望した。父が手を回しているなんて知らなかったから。
僕の答えが、彼女を傷つけてそんな風に追いやったのだと。
後悔にまみれて慟哭した。
*
未だに恋愛感情なんてわからないけれど、
ルチルは、僕の初恋だったのかもしれない……自分で断ち切ったせいで、もう叶いやしないんだけど。
夢の中のルチルはいつも微笑んでいるから、苦しいんだ。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月22日 0時] 9番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

その一件以来、僕は恋愛感情なんてものを、一切信じなくなったんだ。正確に言えば、抱かなくなった。
僕が恋愛感情で苦しむと相手も苦しめていなくなってしまう。辛い思いをさせてしまう。
ルチルの一件は、女嫌いとまではいかなくても、僕を女性との関係から遠ざけるには、あまりにも充分な出来事だった。
だから僕は女性に優しくしても、一線を引いて踏み込まない。
それが一種の世渡り術になっていった。
*
それから数年経って、父から副社長兼次期社長の地位を与えられ、その最中、DNA検査に至る、というわけである。
最低だ。
母──つまりは夫人が不倫をしていたというのなら、まあ間違いなく不義の子の判を押され、僕は母と路頭に迷う……程度で済んだだろう。
だが、何が最悪と言えば検査結果からするに、不倫をしていたのはタルデス社社長という最高地位に君臨する父であるということだ。
この場合、父の失墜はもちろん、僕の不義の子扱いももちろん、黙認した以外に特段罪はないであろう夫人、果てには会社の社員、しかも子会社を含めての全てが破綻することは確実だ。
僕は、これ以上の波乱はいらなかった。せめて心を掻き乱されるのは、ルチルへの感情だけで充分だった。
だから、楽な道を選んだ。
楽な道というのは権力地位の安寧。
譬、それが正しくない道だとしても、僕はこれ以上苦しみたくなかった。
──それでも、苦しみが消えない。
そんなときのために、裏では最低最悪と罵られる父を真似て、火遊びをするようになった。けれど、女を相手にすることはなかった。だって女相手にやってしまったら、罷り間違って子どもができたとき、その子どもに自分と同じ苦しい思いをさせるかもしれないだろう? そんなのは僕一人で充分なんだ。
だから、相手は決まって男にした。別に、僕は男食家ではないし、当然両性愛者でもない。ただの捌け口にいいと思ったのが男だっただけだ。
僕の行為に、愛なんてない。当たり前だろう? 愛を信じていない上に、信じかけた愛をぶち壊されたのだから。
──だから僕は、壊れた人間なんだよ。

(^ー^) (プロフ) [2017年9月22日 1時] 10番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

アリアは文字通り、路頭に迷った。家には通されず、無理を通そうと思えば、暴力で解決された。暴力となればアリアに勝ち目はない。アリアはただの女の子である。まだ齢十にも満たない少女が、大人の暴力に勝てるはずもなかった。
アリアは己の無力を知り、呪った。自分にもっと力があったなら、自分がもっと年嵩があったなら、色々考えた。
けれど考えるだけで未来が構築されることはなく、アリアは街の隅をさまよいながら、何か一矢報いる方法はないか、と考えていたのだ。
街の薄暗い細路地。そこには幼いながらも逞しく──盗みなど世間一般では許されない行為を繰り返してではあるが、生きている子どもたちがいた。齢は自分と同じくらい。
アリアは彼らの在り方を好んでいた。自由で、強くて、羨ましいと。自分の両手を見下ろし、思う。この細腕に、一体何が成せるのだろう、と。
アリアにできることと言えば、隅に縮こまっていること、あとは髪の世話くらいなものだ。アリアは自分の金糸の髪を二つに結い上げていた。白いリボン二つで。それくらいはできる程度に、アリアは器用だった。
その器用さが子どもたちには珍しかったらしく、アリアに髪を整えてもらおうと寄ってくる者は少なくなかった。アリアはというと、それを拒むことはなかった。むしろ、自分にもできることがあるのだと喜んだ。
それはほんの少しだけれど、幸せな一時だった。おそらく、他の子どもたちにとってもそうだったにちがいない。……そうだったと願いたい、とその話をするたび、アリアは語っていた。祈るように。
そんな幸せも一時にて儚く散る。
もうお察しかと思うが、ほどなくしてその細路地にアリアを追い出したのとは違った類の大人が幸せを踏み荒らしに来たのだ。我らがマスター……こと、竜鱗細胞実験チームである。
竜鱗細胞を適合するにはあまり年を取っていてはいけない。それは実験済だった。故に、幼い命と同調させ、人体と同時に成長させていけば、より有用な力となる。そう踏んで、実験チームは子どもを探していた。
彼らが細路地に来たのにはわけがある。あまりあからさまな拉致誘拐はできないからだ。当たり前のことではあるが。故に、いなくなっても誰も気にしない、捨て子を拾いに来たわけである。
幼い子どもたちはどことなくその危険な臭いに怯えていた。
──それを守るべく、代表として立ったのが、アリアである。
私を連れていきなさい、と。

(^ー^) (プロフ) [2017年8月20日 19時] 2番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「私だけを連れて行って、他の子は見逃して」
アリアのその要求は実験チーム側に何の益もないものだったが、元々利益に頓着しない実験だけが能の人間が相手だったことが幸いし、アリアの要求は受け入れられた。
まあ、それにも当然裏はある。
被験者は他にもたくさんいたからだ。
富豪の財産を狙う者が大量にいるように、細路地の捨て子も掃いて捨てるほどいるのである。世の中は、そういう風になっていた。
アリアはその事実に悲しんだ。掃いて捨てるほどいる子どものたった数人を救っただけだったのだ。それだけでも充分な偉業と言えるだろうが、アリアのいた細路地の子どもたちのその後は知らないため、断定はできない。
ここからはデータでの話になるが、アリアははっきり言って、竜鱗細胞の適合者たり得なかった。
そもそも、被験者01、フラン以外に竜鱗細胞の適合率90%以上という数値を出した者はいないのだ。
フランはぶっちぎりの成績だった。
それにすがりつくように、成績を叩き出していたのは、アリアだった。
それでも適合率50%以下。
てんで使いものにならない。
けれど、アリアは諦めなかった。
力が手に入ると思えば。
竜鱗細胞は、確かに「力」だった。アリアに適するかどうかは別として。
アリアは力が欲しかった。だから頑張った。
……実験に一所懸命になる、アリアの姿に疑問を抱いて声をかけたのが、フランだった。
既に被験者01の称号を得ていたフラン。けれど実験を誰より憎んでいた。
フランとアリアは対照的な二人だったと言えるだろう。

(^ー^) (プロフ) [2017年8月20日 20時] 3番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「……お前さ」
フランのアリアへの初対面の一言は同年代の女の子にかけるにはいささか乱暴な口調だった。
「なんでこんな研究に協力してやるわけ?」
「……え」
アリアは少年の問いが不思議でならなかった。アリアはただ、欲するもののために努力を惜しまない、それだけだった。竜鱗細胞がどのような力かちゃんとわかっているわけではなかったが、アリアは欲しかったのだ。そのために認められようと努力している。結果はついてきていないが。
それを貶されたようなものだ。しかも相手は皮肉なことに竜鱗細胞に最も適合している被験者。自分の存在理由を否定されているようなものだった。
けれど、アリアは優しく笑って応えた。
「だって、実験に成功したいんだもん」
答えは単純なものだった。けれど実験に協力する謂れのない、研究所での行動理由のないフランには理解不能な論理だった。
「お前、毎日毎日死ぬような思いさせられて、あいつらの思い通りになることが、自分のやりたいことだっていうのか?」
「そうだよ。正確に言うと、ちょっと違うけどね」
アリアはフランにちょっと苦く、けれどどこか満ち足りているような複雑な表情を浮かべた。
そこでアリアは自分の経緯というものを、フランに語って聞かせた。復讐。まとめてしまえばその一言で終わってしまう行動理由は達成の可能性から考えて、知る者は少ないに越したことはないのだが、そこはアリアもまだまだ普通の子どもだったということだろう。
自分を知ってもらいたかった。同じ年頃の子とお喋りを楽しみたかった。そんな、ある種、純朴な願いが、フランと関わるきっかけだった。
アリアが話せば、フランの話も聞かせてほしいとなった。フランは辿々しく、自らの生い立ちを語った。といってもフランはただの捨て子。細路地の先客に育てられたというだけの話だった。
あまり明るい話題はない。それでも他者と言葉を交わせるのは、アリアの楽しみであった。それに感化されてか、フランも会話を楽しむようになった。
アリアはフランのぼさぼさの髪を気にした。それである日、リボンを渡した。髪をとかして、綺麗な翡翠色だなぁ、と羨みながら、整えてやった。フランはくすぐったそうにしていたが、リボンを「お揃いだよ」と言うと、なんだか嬉しそうに笑っていた。
それはやはり、二人にとっての幸せだった。

(^ー^) (プロフ) [2017年8月20日 21時] 4番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

それはほどなくして引き裂かれる。
竜鱗細胞適合実験。一番の目玉とも言えよう、本物の細胞を一時的に体に移植し、適合率を測る実験だ。具体的に言うと、腕の細胞の一部を抉り取り、そこに竜鱗細胞を入れるのである。
竜鱗細胞は怪我の回復能力などを上げるとされているため、抉り取った部分に植えつけ、適合に成功した場合、その箇所は竜鱗細胞と溶け合い、傷が塞がる、という風になるはずだ。痛みも和らぐ。
痛みの緩和の具合も調べたい研究グループが、麻酔なんて用意するわけもなく、被験者たちの腕を躊躇いなくメスで切り裂き、突き刺し、抉り取る。
被験者たちは誰もが悲鳴を上げた。アリアやフランも耐えこそしたが呻きを抑えることはできなかった。
腕の一部に穴と称しても間違いではないだろう大きさのものができる。そこに見た目はゼリーのように見える物体……竜鱗細胞を埋め込む。接合作業はしない。竜鱗細胞が勝手に肉体の細胞と結合するからだ。
異物感に耐えられず、嘔吐するものが多くいる中、フランはさすがというべきか、竜鱗細胞にすぐ適応し、傷が塞がった。
一方、アリアは……嘔吐こそしなかったが、倒れた。
フランが必死にアリアの名を叫んでいた。アリアは脂汗を大量に流しながら、フランに一つ笑みを向けると、意識を失った。
研究員がありとあらゆる検査で調べた結果、アリアの体は適合という形ではなく、竜鱗細胞に体を乗っ取られ、細胞を食い尽くされていた。腕全体が美しい鱗の覆うものとなっていたが、人間の面影は残らない。肩まで上り詰めた竜鱗細胞は既に内蔵も作り替えんと食い荒らしており、アリアの人間としての生命機能は停止へと向かっていた。
これは失敗である。
竜鱗細胞自体に意志というものはないが、生存本能のようなものがあり、弱肉強食の論理がそこにはある。アリアの生命力が強すぎたか、弱すぎたか、定かではないが、竜鱗細胞が食らい尽くすほどのものであったことは確かだ。
研究の目的は竜鱗細胞と人体の統合により生まれる意志及び理性を持った竜人体の作成である。
アリアのこの状態は人間の意志すらなくなる……つまりは脳まで食らい尽くさんばかりの状態だったわけである。
全身が竜鱗細胞に支配されれば、制御の利かない竜人体になることは確実。そうなれば脅威でしかない。
故に、研究グループは被験者02──アリアの殺処分を決定した。
アリアは、人間であるうちに殺されたのだ。
喉に刃を突き立てられて。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年8月26日 11時] 5番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「お前ら、なんてことするんだよ!」
喉に刃を突き立てられたアリアの姿に憤慨したのは、やはりフランだった。彼女を一番大切に思っていた被験者だ。その反目は当然と言えよう。
しかし研究員は首を傾げる。
「被験者02は失敗作だ。処分するのは当然だろう?」
「失敗作? あんたらのせいだろ! なんでアリアが苦しんで死ななきゃならないんだ!?」
「ああ、確かに我々の失敗だ。故に我々が手ずから処分を施す。それが何か間違っているか?」
人の倫理など研究への妄執に囚われた研究員には届かなかった。
「幸い、竜鱗細胞が脳まで回っていないようだから、これだけしておけばやがて出血多量で死ぬだろう。万が一のときのために適合者の01は02を見張っていろ」
そう残して研究員は二人を隔離部屋に放り込んだ。
「俺たちは01でも02でもない、ちゃんと、フランとアリアって名前があるんだよ……!」
「……っ、ら」
そう悔しげに叫んだフランの耳にごぽりという音に混じってアリアの声が聞こえた。微かではあるが、確かにフランの名前を呼んでいた。
フランはがばっと振り向き、呼び掛ける。
「アリア、アリア!」
「……ら、ん……」
口から零れていく血のせいでアリアは上手く喋れないらしい。そんなアリアを、フランは抱きしめた。それがどんな感情からの行動かは判断しかねるが、フランはぼろぼろと泣きながら抱きしめていた。強く強く。
アリアはなけなしの体力でそろりと、まだ人間の形をしている方の手を上げる。それは肩口で緩く結われたフランの髪のリボンに伸ばされていた。
「……アリア?」
アリアの行動の意味を探るべく、アリアを見つめる。するとアリアはフランのリボンをつまんで微笑んだ。
「…………て、ね」
何かを言い、直後ごぽりと血を吐く。言い様のない焦燥と恐怖がフランの心を侵食していく。フランはそれに耐えるようにアリアを抱きしめ、口元に耳を近づけて、「何?」と訊ねた。
「たいせつに、してね」
その一言、直後に吐血。咳き込み、息も絶え絶えになり、それ以降、アリアは言葉を紡げなくなった。フランの呼び掛けだけが虚しく響き、アリアは血を吐き続ける。
やがて彼女は力尽き、絶命した。
最期の最期まで彼女は他人を慈しんでいた。
本当は復讐なんて二の次だった。ただ普通に生きたかった。
そんな少女の最期を看取ったのは、フラン。
遺されてしまった彼は、彼女の体を抱き、慟哭した。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年8月26日 12時] 6番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

言うまでもなく、ミーナ姉さんはしばらく床に臥せった。
僕は、意識を取り戻してから、罪悪感に苛まれ、ミーナ姉さんに──姉上に会うことさえ、もう怖くて仕方ないほどになった。
ごめんなさいの一言くらい伝えたかったけれど、また会ったら儀式のときと同じように食らい尽くしてしまいそうで、怖くて屋敷に引きこもったまま、数日を過ごした。もう誰とも会いたくない、死んでしまいたいとさえ思った。
僕は、俺は、藍色という存在を忌んだ。俺の瞳の中に住む化け物。俺は、化け物。──そんな現実から逃れたくて、俺は自分の忌まわしい目を隠すようにぐるぐると包帯を巻いた。
特に不自由はない。巻き方を工夫すれば、外の様子だって知れたし、自分の身体能力をフルに使えば、他の感覚器官だけでも充分に普通の生活が送れた。
数日して、そんな俺の元に姉上がやってきた。
「リーダ……」
姉上は何を言ったらいいかわからないというように、珍しく言い淀んだ。俺は返す。
「体は大丈夫ですか、姉上」
「っ!?」
姉上──そんな、一線を引いたような呼び方に姉上が息を飲んだのがわかった。
名前を、呼ばない。俺はそう決めた。実際、姉と一線を引かなければ危ないのだ。俺や、藍色や、姉上が。
だから、もう、呼んじゃいけない。
俺は悲しく、姉上の愛を拒絶した。
だって、仕方ないだろう?
その愛を受け入れてしまったら、俺は姉上を傷つけてしまう。他に俺を愛してくれる人が現れたとしてもそうだ。きっと乾いた心のままにその人物を殺してしまうだろう。
これ以上、傷つけたくなかったし、傷つきたくなかった。
俺はただただ臆病に、そんな道に逃げて、一人になることを選んだ。
千年も永く生きなければならないとしても、俺は孤独でかまわない。
誰も、寄らないで。
俺は、孤独でいいんだよ。
姉上の肩に残った爪痕を見て、俺はそう、誓った。
とこしえに近い時を独りで生きようと。
だから誰も、扉を叩かないで。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年8月30日 14時] 7番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

**

(^ー^) (プロフ) [2017年9月2日 23時] 8番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

結局自分を呪うことしかできなかった力ある無力な吸血鬼

(^ー^) (プロフ) [2017年9月2日 23時] 9番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

next→sideアルミナ

(^ー^) (プロフ) [2017年9月2日 23時] 10番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

私の弟は、封印の器に相応しい吸血鬼として生まれた。
封印というのは、遥か昔……聞いたところによれば、5000年ほど前に、人間との戦争にたった一人で勝利した英雄であり、人間吸血鬼関係なく殺戮を行った悪鬼である吸血鬼の魂を器の中に閉じ込める、というものだ。二度と惨劇を起こさないために。
封印の器に使われるのは、当時のその吸血鬼と容姿が似通った者が好ましいのだという。曰く、赤髪に藍色の瞳。私の双子の弟は、その両方を持って生まれた。千年に一人の人材だと、吸血鬼たちが喚いていたのを覚えている。
双子なのに、私と弟は全然似ていない。私は金色の目をしていて、それはそれで美しいと称えられたりしたけれど、あまり嬉しくなかった。
どちらかというと、私は弟の目と同じ、藍色の自分の髪の方が好きになれた。共通点、お揃い。そんな普遍的な言葉を、私は求めていたのだ。
封印の話を聞いたときから、弟が普通の人生を歩めないのは、なんとなく察していた。弟が器にされる前の器の人に会ったけれど、それで尚のこと確信した。
その人は寿命を越えて尚、生かされ続けた。ただ、悪鬼の封印の器という理由だけで。
その人の家族や兄弟はもう生きていないだろう。吸血鬼が生きられるのは、せいぜい数百年なのだ。
残りの数百年を、一人孤独に生き続けなければならない。死ぬことを許されない。その人は何もしていないというのに、そんな生き地獄を味あわなければならないのだ。──無論、弟も。
その孤独を癒す方法はないだろうか。私は寄り添い続けてあげられないだろうか。
そう考えるのは、ごく自然なことだった。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年9月3日 12時] 11番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

あの日。
あの日も休日で、デートしていました。
なんてことない、街の片隅を散歩するだけのものです。
竜渡さんは珍しく、自分から行きたいと提案してきました。
彼女の願いですよ。聞き届けないわけないじゃないですか。
慣れてきた手を繋いで、二人で歩いていたんです。
「こないだ買った服ですね」
「あ、あぁ、やっぱり変か?」
「こないだ僕が一番似合うって言った服じゃないですか」
それを指摘すると、彼女は耳まで赤くなり、小さく小さく、「ばか」と言いました。
空色のワンピースと、白い薄手のカーディガン。いつも、制服以外はジーパンしか穿かない彼女のスカート姿は、なんとも愛らしく、やっぱり似合っているなぁ、と思いました。
もしかして、僕が似合うって言ったから買ったんでしょうか。僕が似合うって言ったから、今日着てきたんでしょうか。
だとしたら、ますます可愛いな、なんて思って。
彼女の手を握りしめていました。
「ところで今日はどこに向かっているんですか?」
今日のデートコースは彼女任せです。だいぶ街の外れまで来ていました。
彼女はふふ、と笑い、口元に人差し指を当てて、着くまで内緒、と言いました。その仕種も可愛らしかったです。
なんだろうなぁ、と期待に胸を膨らませているとここだよ、と彼女が止まりました。
見ると、そこは教会。色鮮やかなステンドグラスがありました。
「ここは牧師がいなくなって、もうすぐ取り壊しになるらしいんだ。取り壊しの業者が来る前に、柏田とやっておきたいことがあって」
「? 僕と、ですか?」
なんでしょう、と疑問符を浮かべると中に連れ込まれました。
中は誰もいない、ステンドグラスが太陽を通した光がやけに神々しく映えるだけの内装。赤いカーペットが敷かれた道をゆったり歩いていきます。
ここまでくれば、なんとなく、彼女が何をしたいのかわかりました。わかると同時、戸惑いました。
「僕でいいんですか?」
その問いかけに、彼女はいつかのように応えます。
「あなたがいいんだ」
そう言った彼女の腕がすらりと僕の後頭部に回り、僕を引き寄せます。僕は引き寄せられるままに……口付けを交わそうとしました。
けれど、
「っ、柏田、伏せろっ!!」
彼女に突き飛ばされ、わけがわからない僕の耳朶を、
パァンッ
乱暴にその音が打ったのです。

(^ー^) (プロフ) [2017年8月11日 23時] 6番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

なんとなく、その音が何かはわかりました。けれど、初めて聞くものでした。
銃声です。
初めて聞くのは当たり前でしょう。平凡に暮らしていたら、聞くことのない音です。
……そんなことは、どうでもいいんです。
目の前の光景を説明してください。
何故、彼女が倒れているんですか?
何故、彼女のカーディガンを、じわじわと赤が浸食しているんですか?
何故、彼女の口から血が零れているんですか?
彼女が何をしたっていうんですか。少し他者より秀でたところのある、けれどただそれだけの子じゃないですか。
照れたり驚いたり笑ったり、平凡な日常を描く女の子じゃないですか。
何故、殺されなければならない?
僕は咄嗟に弾が飛んできたと思われる方向を見ました。教会の上の戸が開いています。そう遠くないビルに動く影が見えました。
──狙撃手。
ゲームやマンガでしか聞いたことのない単語がすぐに閃きました。けれど、それは僕の問いかけの答えにはなり得ません。
僕は急いで救急車を呼ぼうとしましたがそれはまだ息のあった竜渡さんに止められました。
「何故です!?」
「理由は、言えない……警察にも、連絡するな。代わりに、親父に連絡を……」
よく動かないのであろう手で、携帯端末が差し出される。僕は、何か言い返したかったけれど、何も言えずに、彼女の父親に電話をかけました。娘さんが銃で撃たれた、と。そう告げた声は自分のものと思えないくらい乾いていました。
場所だけ聞くと電話は切れ、僕は呆然と彼女を見ました。
「竜渡、さん……」
「かし、わ、だ……」
こぽりと、彼女の口から血の塊が零れます。
信じられない、現実から剥離してしまったような心地で、僕は竜渡さんに手を伸ばしました。何をしたいのかは自分でもわかりませんでした。抱き起こせば、胸に開いた小さな、けれど確実に命を奪う穴が見えて。
「ごめんな……」
竜渡さんはそう言いました。
「巻き込んで、ごめんな」
「何を、謝っているんですか?」
「私の、我が儘……でも、本当に」
続いた言葉と、彼女の表情に、僕は耐えられませんでした。
『本当に好きだった、直記』
そう言って、彼女は事切れたのです。
笑顔で──

(^ー^) (プロフ) [2017年8月12日 0時] 7番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

駆けつけた彼女の父親とその連れらしき人たちはとても堅気とは言えなさそうな威圧感を持つ人たちばかりでした。
曰く、彼女の家はこの辺りを牛耳る『竜渡会』の首領で、彼女は首領の愛娘だったそう。
父親によると、跡取りが他にいないため、竜渡さんに組織を継がせようとしていたのだとか。
彼女が自由でいられるのは、今年が最後。
それなら、一度は「平凡に」生きてみたいというのが彼女の願いだったらしい。
日記を渡された。
そこにはつらつらと、彼女の自由が奪われゆくまでのカウントダウンのように日常が綴られていた。
『組を継いだら恋愛だなんだもご法度だ。今のうちに、平凡な恋愛っていうのを味わっておきたい。
誰が好きかと言われると、まず私には「好き」ってのがわからないからな。
ただ、気になるやつはいる。名前は確か、柏田直記。
私と違って平凡の中に生きてるやつだ。今度、声をかけてみようか』
『か、柏田と付き合うことになった。まあ、きっと組を継いだら別れることになるから、「恋人になってくれ」とだけ言った。
柏田、随分嬉しそうだったな。
うわ、なんか今日の字全部震えてる!』
ぱらぱらとめくるほど、僕と竜渡さんとの思い出が細やかに綴られていく。いつしか空白のページになり、それでも僕は呆然とぱらぱらめくった。
すると、最後のページにまた文字の羅列。
『あー、失敗したなぁ。恋なんてするんじゃなかった。
本気で好きになっちまったじゃんか。
でもあいつはどう足掻いたって堅気の人間なんだ。巻き込みたくない、巻き込むわけにはいかない。
お別れはしなきゃいけない。
だからどうか、私の分まで平凡に生きてほしいと思う。直記には……な』
それを読み、僕は絶叫した。
泣き叫び、泣き叫び……一つ、決意をした。

(^ー^) (プロフ) [2017年8月12日 0時] 8番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「お前……何故この世界に来た?」
僕がよく訊かれることです。
目の前にいるのは今は『敵』の人物。
僕は裏社会に足を踏み入れ、潜入工作員として活動しています。この平凡な顔は、どこに行ったって不審がられませんし、非常に役に立っています。今だってほら、目の前の人物は、僕が潜入工作員だとここまで全く気づいていませんでした。
そのくらい僕は裏社会に不似合いな堅気の顔をしているんです。
何故という疑問を抱くのは当然でしょう。裏社会にいるような強面でもなければ、エリートじみた美青年というわけでもない。そんな「普通」で「平凡」な僕が裏社会という「非凡」だらけの場所にいる理由なんて、きっと誰にもわからない。
明かすつもりはありませんでした。
「とても単純明快で、平凡な理由ですよ」
「この期に及んで平凡と抜かすかよ……!」
「ええ、僕は平凡です」
かちゃり、と銃を構える。彼女の命を奪った武器を、今度は僕が構えて命を奪う。
「『復讐』──なんて、あまりに平凡じゃあないですか」
手向けにそんな言葉を添えて。
僕は命を奪う側になった。
きっと、彼女の最後の願いには背いていることでしょう。
それでも、復讐──彼女を殺したやつを見つけるために裏の世界にいることは、僕の中で何よりも固い誓いでした。
僕から平凡を奪った罰を、
彼女から幸せを奪った罰を、
そいつは与えられるべきなんです。
裏にいるやつらは大抵法で裁けない。彼女が「竜渡会」という裏の人間の顔を持っていたのなら、下手人は裏の人間である可能性が高い。つまり法では裁いてくれないのです。
それなら、僕が断罪しましょう。
その目的を果たしたなら、貴女の望み通り、僕は平凡に戻ります。
……いや、おかしなことを言いました。
今でも僕は平凡らしいですよ。
──もしかしたら僕は、この世界で死ぬかもしれません。
それでも、その前に仇は取ります。貴女への手向けに。
じゃなきゃ死んでも死にきれませんからね。
僕はそのために今日も「平凡」を装って、生き続けるのです。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年8月12日 12時] 9番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

非凡なる平凡人間の生き方
end──

(^ー^) (プロフ) [2017年8月12日 18時] 10番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

柳刃包丁さんの愛と相と哀

ペンネグラタン (プロフ) [2017年6月15日 1時] [固定リンク] 携帯から [違反報告・ブロック]

瑠色さんには黒いもやもや……もとい、怨霊は憑いていないようです。名残惜しいことですが、こういう指定されたモノを呼び出し主が持っていない場合は、真名を呼ばれなくても還ることができます。
けれどわたしは、待ちました。
瑠色さんがわたしを「柳刃包丁さん」と呼ぶのを。
還されるのは悲しいですが、わたしのその真名を口にするときの瑠色さんは、とても胸をぽかぽかとさせる表情をするのです。
そのぽかぽかがいつも好きで。
「……今日は僕を切ろうとはしないんだね」
不思議そうにする瑠色さんにわたしは軽く説明しました。
「いつも瑠色さんは病を切らせるためにわたしを呼ぶのです。瑠色さんの中にも病があれば切ります。それがケイヤクなのです。でも今回は怨霊です。怨霊は瑠色さんの中にはないのです」
「なるほど」
瑠色さんは説明を聞いて、お母さんを布団に寝かせると、唐突に──わたしから包丁を奪いました。
「あっ、えっ?」
わたしは驚いて、包丁を持ったまま、逃げる瑠色さんを追います。包丁がないと、わたしは還れません。嬉しいような、悲しいような。
導かれるようにして辿り着いたのは、縁側でした。瑠色さんは縁に腰掛けると、とんとんと隣を示しました。
「おいで。今日は話をしよう」
そんな、意外な提案に、
「はい」
わたしは笑顔で頷きました。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年7月7日 1時] 8番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「実はね、今日で最後にしようと思ってるんだ。君を呼ぶの」
「……え?」
告げられたのは、受け入れがたい一言でした。
「さい、ご、ですか?」
「そう、今日で最後。僕はそう長くないからね」
何が長くないのかくらいは、わかりました。でも、それって……
「病のせい……」
「あ、やっぱりわかるんだ。誰にも黙っていたんだけどね、僕は何かの病にかかっているらしいんだ。医者にもかかっていないけど」
瑠色さんは透明な瞳で、ここにはないナニカを見つめているようでした。
「僕はいつからか、病み子と呼ばれるようになるくらい、病を撒き散らす存在として、人々から疎まれてきたんだ。実際、僕の周りの人々は何かしら病を患うことが多かった。それをどうにかしようと、噂で聞いた包丁さん……君を呼んで、ある程度対処したのさ」
家の不名誉を拭うためにね、と瑠色さんは笑った。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年7月7日 1時] 9番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「でもさ」
微笑みが苦くなる。
「一度ついてしまった汚名っていうのはなかなか取れてくれなくて……。そうしたら、母さんが病んでしまったんだ。でも病とは違うみたいで、調べたら怨霊だった。そうしてまた、君を呼んだ。
……そして、これで終わりにしようと思う」
「なぜ、ですか?」
聞きたくないような気がしたけれど、出た言葉は戻らず、瑠色さんは答えを紡ぐ。
「うちを安定させるためにやってたことがさ、お母さんを病ませてしまったのなら、元も子もないし、意味がないじゃない。ちょうど病も限界を訴えてるんだ。やっぱり最初から、こうすべきだった。僕が、死ぬべきだったんだ」
瑠色さんはそう言って、包丁を逆手に持ちました。不穏なものを察して、わたしは刃が指を切り裂くのもかまわず、刀身を捕まえて止めました。つう、と指から血が流れていきます。……カミサマになっても、元は人だったので、赤い血が、流れていきます。
「どうして止めるんだい?」
瑠色さんがあまりにも優しい声音で言うので、わたしの中のナニカは決壊しました。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年7月7日 1時] 10番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「死なないでください、死なないでください、病でもなんでも、死んでしまうくらいになるのなら、わたしに切らせてくれればよかったでしょう? わたしは病を切るのです。包丁さんは病を切るカミサマなのです!!」
わたしは気づけば泣き叫んでいました。生前なら、きっとしなかった。
けれど今、とても悲しかったのです。この人を救う力があったわたしが、今何もできないことが。この人が今、死のうとしていることが。
瑠色さんはそっと……わたしの頭を撫でました。ごめんね、と囁きました。
「病はあまり刻を許してくれないんだ。でも、わかった。君の前では、死なないことにしよう」
死なないとは、約束してくれなかった。
「呼び出したのに、還さないままというのも、いささか無責任だしね」
「名前を呼べば還るのです」
「うん、いつもそうだったね」
「包丁がないと還れないのです」
はい、とあっさり瑠色さんは包丁を還してくる。
でもわたしは、受け取らなかった。
「……手が痛いのです」
本当は傷なんて、どうとでもなります。カミサマですから勝手に治るのです。
けれどそれを縁面通りに受け止めた瑠色さんは簡単に治療してくれました。くるくると巻かれた包帯は、少し温かかったです。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年7月7日 1時] 11番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

それからわたしは包丁を受け取るのに、手を差し出しました。同時に、名前を呼んでほしい、と言いました。
最後でも、必要なくても、聞きたかったんです。瑠色さんの声が好きだから。
瑠色さんが好きだから。
「わかった。じゃあね、柳刃包丁さ……」
不自然に声が途切れ、わたしとすれ違うように、瑠色さんが、瑠色さんが、倒れました。
「瑠色、さん……?」
わたしは名前を呼びました。
「瑠色さん? 瑠色さん、瑠色さん、瑠色さん」
我が儘も言ってみました。
「瑠色さん、掠れてよく聞こえなかったですよ! もう一度ちゃんと呼んでください。わたしを、わたし、を」
わたしの目からはぼろぼろと、
「『柳刃包丁さん』って……」
雨が降り注いでいました。
わたしは瑠色さんのもう冷たい体を抱きしめて泣きました。
なんとなく、色んなことがわかりました。
これが、愛なんだなぁ。
これが、哀なんだなぁ。
これが、相なんだなぁ。
短すぎる生涯では学びきれなかった感情と関係とを理解して。
わたしはもう、『柳刃包丁さん』と呼ばれなくなりました。

ペンネグラタン (プロフ) [2017年7月7日 2時] 12番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

夢を、見ていた。
あたしの幼い頃の夢だ。母親の歌声を聞いて、テレビの向こう側の人が、こっちに来たみたいな感覚で、無邪気に喜んでいたあたし。
けれど、そんな母が誰より愛したのはあたしではなく、父だった。
父は不思議な文章を書く人だった。なんだか誰にも想像がつかないような発想なのに、頭の中に、目の中に、世界が飛び込んでくるような、そんな文章がたくさんあった。時々母に楽曲提供をしているそうだ。
そんな父が一番に愛したのも、あたしではなく、母だった。
そこにはプラトニックな愛があった。純粋で純朴な愛しているという言葉があった。
子どもは一人いるからもういらない、と二人は言った。だからあたしは一人っ子だった。
周囲の兄弟持ちが楽しそうにしているのを、羨ましく思わないわけではなかったが、父と母に漬け入る隙がなかった。
それくらい、うちの中には好きという言葉が溢れていて、そのどれ一つも、あたしには向けられていなかった。
嫉妬は愛があるからこそ生まれた感情だという。
あたしに向けられる、愛はなかった。あたしは友愛や親愛で満足しておけばいいのに、やがて恋愛に足を突っ込んだ。それが一番危険な愛だとは知らずに。
恋愛の恐ろしさは学んだ。相楽の首を絞めた白崎には戦慄したし、ゆきの執着にはいつも鳥肌が立つ。執着は、してはいけないと思った。
けれど、愛を求める感情に蓋ができるわけでもなく、だからあたしは嫉妬の能力に覚醒してしまったのだろうと思う。
愛を求める、浅ましい能力。
悲しいな。
自分では口にできない気持ちが、能力になって溢れ出るんだ。
夏帆に愛される西園になりたくて憂鬱を。
夏帆の笑顔に憧れて希望を。
大切なものを守るためのかなくんの強欲を。
相楽をとことん愛せる白崎の傲慢を。
使ったことはないけれど、誰にでも愛される相楽の力だって、やろうと思えば模倣できるだろうと思う。
あたしは誰にでも嫉妬できてしまうんだ。そんなあたしが一番醜いことなんて、知ってる。
あたしはいつも、死にたくて死にたくてたまらないんだ。誰かの一番になれたらって、強欲で傲慢な自分がいる。けれど、誰の一番にもなれなくて、虚飾で繕っている。……あの憎たらしいゆきにすら、嫉妬するんだ。

(^ー^) (プロフ) [2019年8月13日 23時] 103番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

ゆるり、と目を開けると、白崎を探した。そしたら、白崎の部下のようなものがあたしに寄ってきた。
「長は用で出かけています。拘束具は外したので、自由にお帰りください、とのことです」
腕や足を見ると、もう枷はなかった。若干の怠さがそこに残っているだけである。
「わかった。世話になったな。一応謝礼を伝えておいてくれ」
あたしはさっさと立ち去る。
仕事をいくつかすっぽかしたらしく、今日は仕事詰めになりそうだ。
*
「……ふう」
なんだか最近、仕事が増えてきているような気がする。かなくんの言った通り、東雲春子の人気が高まっているのかもしれない。
あたしは平穏に過ごしたいんだけどなあ……
「春子ちゃん、新しく番組ナレーションの話が来てるんだけど」
「……断ってもらえます?」
「春子ちゃん、大口の仕事いつも断るよね。出世のチャンスなのに」
出世か。したら目立つんだろうな。
「今はまだそういう気になれないんです」
「クールだよねぇ。普通なら食いつくんだけどなぁ」
あたしは普通じゃないので、という言葉はぎりぎり飲み込んだ。表社会のこの人に裏社会の話をしても仕方ない。
「もう春子ちゃんはファンついてるんだから、次のステップに進まないと、後進が上って来られないよ?」
うーん、未来の芽を摘むのは考えものか。
「考えておきます」
かなくんや相楽のように自営業だったら楽なのだが、まあ、世の中そう簡単にはいかないということだろう。
「打ち上げ行かない?」
「いいですけど、あたし早く帰りますよ?」
「いつもそうだよね。彼氏でもいるの? 結婚はしてないって聞いてるけど」
「まあ、家族みたいな人はたくさんいるので」
口が裂けても派閥の話はできない。きちんとあいつらを見回りに行ってやらないと、時々とんでもないどんぱちが起こっていることがある。憂鬱辺りがデバフかけて抑えようとしているが、それでは足りないのが複雑なところである。
連れられて適当な店に入ろうとしたとき。
「あら、春子ちゃん」
とてつもなく聞きたくない声がした。
さすがは元マドンナ、と言わんばかりのきらきらした笑顔で、さも親しい間柄であるかのように話しかけてきたのは、紛れもなく、ゆきだった。
冷や汗がこめかみを伝った。

(^ー^) (プロフ) [2019年8月14日 12時] 104番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「うわあっ、可愛い子だねっ。春子ちゃん知り合い?」
「え、はい、まあ」
苦笑いしか出てこない。知り合いといえば知り合いだ。
「知り合いだなんてよそよそしいこと言わないでよ。私たち、友達でしょ?」
ゆきが無駄にきらきらオーラを出しながら言う。ほう、友達ね。友達って、顔を合わせるたびに殺し合うような仲のことを言うのかね。
「悪いが、これから、用事なんだ」
「あら、飲み会でしょう? そちらの方さえよければ、ご同席しても?」
「あっ、もちろんです!」
うわぁ、完全にゆきの何もしなければただの美少女オーラにやられてるよ。可哀想なことだ。
いやいやそれより。飲みの席にこいつがいるのか……やりにくいな……仲がいい設定にこいつが勝手にしちゃってるし。
絶対酔ったあたしをころす気しかないな。ああ怖い。もう帰っていいかな。
などと思うが口にできず、あたしは腕を引っ張られ、飲み屋に引きずり込まれるのだった。
*
ゆきの存在が気になって仕方がないあたしは、酔うこともできず──まあ、元々酒には強いのだが──べろんべろんになったマネージャーをタクシーに放り込んで帰ろうとした。
が、そうは問屋が卸さない。
「……お前さ」
首に刺さった針を抜きながら言う。
「最近毒が来てるわけ?」
針なんて攻撃力が薄そうなものを打つ理由なんて、それくらいしかない。どんな毒かはわからないが、少しずつ体に痺れを感じ始めていた。
ゆきは悪びれた様子もなく、ナイフを弄んでいる。
「こないだは狂死させようと思ったんだけど、上手くいかなかったんだよねぇ。大切な人全員自分で殺しちゃったら、自ら死を選ぶと思ったし。でもね、白崎くんが現れてくれたから、毒っていうのはいいなぁって思うんだ」
「白崎が現れたのはあくまでも偶然だ。今回もやつが来るとは限らない」
「来るよ。何か知らないけど、春子ちゃんには負い目があるみたいだし。それに、哀音くんからの呼び出しなら来るでしょ?」
「それは、相楽が危ないかもしれないからだろう」
「春子ちゃんはなぁんにもわかってないなぁ」
むかつくから死んじゃいなよ、と言い放って、体の自由が利かなくなってきたあたしの意識を刈り取った。
みんな、お願いだから逃げてくれ……

(^ー^) (プロフ) [2019年8月14日 16時] 105番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

風の音が耳を仰ぐ。それに紛れて、くすくすと笑う声がした。
その声に聞き覚えがありすぎて、あたしはばっと目を見開き、直後迫ってきた白刃をなんとか避けた。
喉を迷いなく貫こうとしていた凶刃を睨み付け、あたしは状況を把握しようとした。
目の前にいるのは、予想に違わず、ゆきである。ゆきは避けられたことを悔しがる様子もなく、笑っている。
そして、ここは、とても見慣れた場所。
あたしが能力を覚醒した学校の校舎裏だ。ゆきが能力を覚醒させた場所でもある。ここに来たということは、死に戻りしたのか。
死に戻り直後というのは危ない。能力者は死に戻りするから普通の方法では殺せないが、死に戻り直後に喉を突き刺すと完全に死ぬらしい。
死に戻り直後は能力を覚醒したときの状態に戻り、眠るように死んだとしても、死に戻りした瞬間に目が覚める。つまりあたしは今死に戻りしたてほやほやの危ない状態である。
おそらく、遅効性の毒か何かを仕込んだか、あたしが死んだ直後にゆきも死んだかのどちらかだ。能力の発現場所が同じというのは厄介である。
これで何回、危ない状態で死闘を繰り広げたことか。
武器を持っていることから、おそらく死に戻りしたわけではないのだろう。ゆきは。
武器があれば喉笛を突き刺してやるのに。
──傲慢。
地面を凍らせる。ゆきの動きが鈍くなった。
逃げるか、ゆきをころすか。
「とても楽しかったわあ」
不意に、ゆきの声。
「毒で死にかけのあなたを連れていったら、みんな回復をかけたり、解毒の能力を引こうとしたり、てんやわんやで。みんなが決死の表情で、『死なないで』って叫んでたわよ?」
そこでくつくつと笑うゆき。
「とても滑稽だったわ。あなたが死ぬ瞬間のみんなの表情も、さぞかし面白かったのでしょうね。私はあなたをころすために移動しなきゃならなかったけど」
ぶちん、と何かが切れる音がした。あたしの中で。
「随分立派な悪女さまになったじゃねぇか、ゆき。今度いい役紹介してやるから、女優にでもなったらどうだ?」
並行発動、希望。
並行発動、傲慢。
並行発動、虚飾。
氷と雷撃の入り交じった攻撃の中を駆け抜ける体。痛みも何もかも置き去りにして、ただゆきへと向かう。
ナイフを奪い取って、雷撃を込めながら喉に刺してやった。
殺意しか、そこになかった。

(^ー^) (プロフ) [2019年8月14日 16時] 106番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

「まあ、てめえに次なんてないがな!」
死に戻り地点に戻り、ゆきの体が出来上がるのを待ち、ナイフを振り下ろした。が、かわされる。
「ふふふっ、春子ちゃんとの殺し合いって、毎回楽しいわねぇ!」
「この、人でなしが!!」
「あら、あなただって、似たようなものじゃない」
びく、と固まる。声が、真後ろからした。
虚飾のフェイントか。
「西園くんの好意に気づかず、一番じゃないからって哀音くんを捨てて、一番になれない、一番になれないって惨めったらしく叫んで」
「それが惨めじゃなくて何が惨めなんだよっ!!」
ナイフを振り抜く。だが、ゆきには掠めただけ。
「感情のままに振るったところで、素人のナイフなんか当たらないわよ」
──希望、雷電装填。
「それも見飽きちゃった、がっ」
──並行発動、傲慢。
氷の槍がゆきを貫く。
「……喉以外じゃ、意味がなくってよ?」
死に戻りしたゆき。
「五月蝿いっ」
「あなたって可哀想な人ね。私から見たら、あなたの方がよほど人でなしだわ」
あんなに想ってくれる人たちを無視して。
鼓膜を震わすその言葉に、あたしは叫んだ。とても言葉とは呼べない雄叫びを。
それから、逃げた。
これ以上こいつと話していたら壊れる。──本能がそう判断した。
「弱虫ね」
ゆきの刃は喉を貫かなかったが、あたしの息を止めるには充分だった。
*
それから、あたしはどうやってそこに辿り着いたかよく覚えていない。
いつの間にか、拠点にいた。荒れているあたしの様子に、憂鬱がデバフをかけて、なんとか他の人員と協力してあたしを押さえつけたらしい。
がしゃがしゃ、と鎖の耳障りな音がする。あたしは拘束具をつけられていた。能力を使えば引きちぎれるかもしれないのに、それをしないまま、あたしは最後の理性で能力を使わなかったのかもしれない。
……大勢を、泣かせてしまった。美徳寄りの憂鬱を始め、いつもなら襲いかかってくるやつらすら、あたしの様子にしゅんとしていた。
「戻ってきてください、リーダー」
そんな言葉が何回も鼓膜を叩いて、あたしはいつの間にか泣いていた。もらい泣きかもしれない。
落ち着いた頃に、一人一人の頭を撫でて、すまなかった、と呟いた。
ああ、あたしは何が、したいんだろう。

(^ー^) (プロフ) [2019年8月14日 17時] 107番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

そうやって目を泳がせていると、隣の椅子に寝かせられている存在に気づいた。ボクは目を見張った。
ぞわり、と肌が粟立つのを感じた。ボクは手首を痛いと思うくらいに握りしめる。そうしないと、自分でも何をしてしまうかわからないからだ。
隣の椅子に横たわる女の子は、ボクにはとても美しく見えた。閉ざされた瞼、整った横顔。今すぐにでも飛びかかりたくなりそうな赤い髪。少し色が抜けて淡い。苦労というやつをこの子もしてきたんだろうか。
ボクだって、全く苦労して来なかったわけではない。ボクの認識ではさして変わりないけれど、ボクの赤みがかった金髪も、年々色が淡くなってきている。
ふと、神父さまの髪を見た。彼は真っ白だ。人は苦労すると髪が白くなっていくらしい。ボクやこの子──アカリも、いつか神父さまの髪みたいに真っ白になれるかな。
ボクのこの衝動も真っ白になってしまったらいいのにな。
アカリの寝顔を見ながら、そんなことを考えていると、神父さまが近づいて、落ち着かせるようにボクの肩を優しく撫でた。
「ヒカリ、この子はアカリ。君と同じ、色覚衝動症候群という奇病に侵された女の子だ。おまけに紫の目をしていて、奇病がなくとも、差別の対象になっている。……アカリと、友達になってくれるかい?」
「神父さま、その前に一つ、聞きたいことがあります」
「なんだい?」
ボクには不思議で仕方ないことが一つあった。
「なんでアカリは、ボクの刃を受け入れたんですか?」
すると、神父さまは暗い顔をした。聞いちゃいけないことだったかな?
神父さまは重たそうに口を開いた。
「それは、アカリの衝動が、自殺衝動だからだよ」
*
自殺衝動。
ボクの殺人衝動とは似て非なるものだ。自分で死にたいと思う衝動。怖い。
アカリのトリガーは緑。緑なんて、どこにでもある。赤同様、ありふれた色だ。ボクと同じく、厄介なトリガーと衝動を持った上に差別を受ける亜人? とかいうやつなのだから、普通の人が手を焼くのもわかる。
──異端の者にも、救いをくれるのですね。
アカリの言葉が、やけに胸をじくじくと痛ませる。きっと、アカリはボク以上に差別されて生きてきた。その上で、衝動と救いを混同してしまっているんだ。
アカリの自殺衝動が遂げられたとき──つまり、アカリが死んでしまったとき、アカリの魂は救われる、アカリはそう勘違いしている。
「……救われることなんて、あるものか」

(^ー^) (プロフ) [2019年2月12日 14時] 114番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

ボクが誰かを衝動で殺したとしよう。その衝動を成し遂げたことで、ボクは救われるだろうか。──答えは否だ。
でも。
「……ボクらに救いがないなんてこと、ないって信じたいよね」
ボクは手首を押さえたまま、アカリを見つめた。
触れられないのがもどかしい。
でも、この手を野放しにしたら、ボクはまた、アカリを……
その想像にぞっとしながら、どこかうっとりしている自分が怖かった。
もしもこの手で殺せたら……
*
──なんて、神父さまを困らせるようなことはしない。ボクを拾ってくれた恩人だ。
ただ、この教会は貧乏だ。明日のご飯を食べるのも危うい。そんな教会にアカリの傷を治療できるほどのお金があるわけもなく。幸い、神父さまが医術の心得があったので、アカリは一命をとりとめていた。
「ヒカリ、辛いだろうが、こらえてくれ。アカリにはもう行き場がないんだ。君と同じで」
紫の目の差別は聞いたことがある。大昔に根絶やしにされた一族の話だ。その民に何の罪があったかはわからない。ただ、紫の目を持つその人たちは片っ端から殺され、今でもよく思われていない、とか。根絶やしにしたなら、生き残りなんかいるはずがないのに、適当な言いがかりばかりご立派で。
ボクはぎり、と手を握りしめた。
差別される亜人、不治の奇病。そんな二つの重い荷を背負わされたアカリ。
赤い髪の彼女を、ボクは不思議と殺したいとは思わなかった。むしろ、守りたいと思った。
ボクが守らなきゃ、ボクが寄り添わなきゃ、一体誰が、彼女を救えるっていうんだ。
……そう思い立ってから、ボクはアカリを守ることに決めた。
アカリを守る。それがボクの絶対だった。もちろん、神父さまも守る。
ボクは幸か不幸か、戦うことには慣れていた。そう、この奇病のために、人をころすにはどうしたらいいのか、知っていたのだ。とんでもない皮肉だけど、今は皮肉だろうと何だろうと、アカリと神父さまさえ守れるのなら何でもよかった。
元々、ボクに選択肢なんて用意されていない。それなら、一つしかない選択肢にしがみついて、抗ってやるんだ。
それが譬、神父さまが望まなくても。
だって、願うだけならなんでもないでしょう?

(^ー^) (プロフ) [2019年2月12日 14時] 115番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

ボクは目に包帯を巻いて過ごさなければならないアカリの目になるようにと神父さまに言われていた。
ボクがアカリの光になる。それはボクの名前と重なって、まるで天命のようでもあった。
アカリは目隠ししていても歩き慣れていて、ボクが手を貸すなんてことしなくても過ごしていけそうだったけれどね。まあ、ちょっと悔しいっちゃ悔しい。
自分ができることをボクは必死に探した。アカリが転びそうになったら支えるし、アカリの読みたい本を読み聞かせたりした。ボクは元々そんなに学がないから、本を読むためだけに字を覚える勉強もいっぱいした。それでやっとすらすら読めるようになった。
アカリに食事を摂らせるのも、ボクがやった。食事は栄養バランスっていうのを考えて、野菜もいっぱいある。野菜はどこかしらに緑があるから、やっぱりアカリが直視して食べるのは無理だ。それに、これはボクの訓練にもなった。ボクが如何に衝動を抑えられるか。赤は緑と同じでそこら中にある。当然、食事の中にも。だから、ボクらにとって、食事は地獄の時間だった。
まさか、ボクまで目を塞ぐわけにもいかない。ボクはアカリの目になってあげなきゃいけないんだから。
慣れるまで、大変だった。理性っていう、衝動じゃない部分をはたらかせるのが大変だった。ボクは今まで、本能のままに生きてきたから、理性なんて知らなかった。赤い食材を見ると、それだけで誰かを殺したくなる。フォークでアカリの手を刺してしまったことも何回もあった。
罪悪感にまみれて謝るボクに、アカリはいつもこう言って微笑む。
「大丈夫、痛みには慣れてるから」
「でも、ボクのせいで」
「ヒカリのせいじゃないよ。これは私たちに巣食う奇病のせい。ヒカリは何も悪くない。それどころか、ヒカリはその病気と一所懸命戦っているじゃない。それは立派な戦士の証よ」
*
戦士なんて、おとぎ話で称えられるような立派な存在だと言われたことなんか、当然なかった。
ボクはいつだって殺人鬼。もう既にこの病気で何人か殺しているし、重傷を負わせた人だって、何人もいる。だからお尋ね者のボクはたくさんの施設をたらい回しにされた挙げ句、この辺鄙な教会まで来ることになったんだ。
別に今の生活に不満はない。神父さまは優しいし、アカリも優しいし、ボクを差別しない。石を投げてこない。ボクを縛りつけない。ボクを自由でいさせてくれる。

(^ー^) (プロフ) [2019年2月12日 14時] 116番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

神父さまに至っては、ボクとアカリのために、教会には必ずあると言われているステンドグラスを壊した。ステンドグラスには鮮やかな赤と緑が決まって使われるからだ。だから、教会には透明なガラスしかない。こんな治療法もわからない奇病患者のために身を削ってまで優しくしてくれる神父さまが、他にどこにいるのだろうか。
ステンドグラスがないせいで、この教会は教会として見られず、礼拝に来る人は少ない。
それどころか、この教会の有り様を蔑む人までいた。神父さまはこんなにも優しいのに。自分に与えられた恵みを僕たちのためにって……身を削っていてくれるのに。
人間はあまりにもひどい。
*
「どうして神父さまは神様に祈るの?」
すると、神父さまは優しく微笑んだ。
「いつか神様が……慈母神様が救ってくださると、信じているからですよ」
「慈母神様?」
「はい、人々を慈しみ、愛してくれる神様です」
「ふぅん……」
神様の像だっていうのは、女の人の姿をしていた。女の人だから、慈母なのかな。
ボクは母親なんて知らないからわからない。ボクが母親を殺したらしいし? 大した興味も湧かない。
そんなことより、アカリといる方が楽しかった。
同じ病気を持っているから、わかり合えることが多くていい。
アカリは言ってくれた。
「もし、ヒカリが暴走したなら、私が身を持って止めてみせます」
……アカリったらずるいや。
そんなことを言われたら、ボク、暴走なんてできるわけないじゃん。
「ボクはもう二度と誰も傷つけたくないよ。それはアカリと出会ったからなんだ。……アカリのことも、もう二度と、傷つけたりしない」
ボクは窓から射し込む光の中でにっと笑った。
「だって、もうボクたち、家族で、友達でしょう? 後にも先にも、ボクにアカリ以上の存在なんてないよ」
……けれど、そんな幸せは長続きしなくなった。

(^ー^) (プロフ) [2019年2月12日 14時] 117番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

アカリは紫の目を除けば普通に過ごせる子だ。自殺衝動もちょっと非情ではあるが、他人には害がない。
だから、アカリにはすぐ里親が見つかった。寂しいけど、お別れだ。
アカリが最後に、ボクの手に触れて言った。
「離ればなれになっても、ヒカリは大事な友達です。決して忘れません。だからヒカリも、覚えていてくれたら嬉しいです」
「もちろんだよ」
寂しいけれど、それを心の燈に。
そう思って、生きようと思った。
*けれど、前を向いたボクに待っていたのは、射殺された神父さま。
「人畜無害な娘をころすのは偲びないからなぁ。でもあの娘ももういない。だからお前たちはもう──死んじまえ!!」
ボクは目の前が真っ暗になった。震える手を見下ろす。
守ると誓った神父さまが殺された。ボクは何もできなかった。それどころか、ボクが生きているせいで神父さまは殺されてしまった。一体ボクの存在意義とは何だろうか。
──そんな下らないこと、考える必要ないだろう?
そんな声が囁いた途端、目の前が真っ赤に染まった。
そうか。もういいんだ。
守るもののなくなったボクは、
死ぬまで殺していいんだ。
そうしてボクは神父さまの命を奪ったやつらを八つ裂きにして、何の遠慮もなく、暴走した。
*
最期に聞いたのは、ボクを貫いた狙撃銃の音だった。

(^ー^) (プロフ) [2019年2月12日 14時] 118番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

僕のキャラ名簿をご覧になる方々、大丈夫です、二人共存在する世界でやってくださいな(((
半ばから気づかないふりをしている共依存みたいな感じでうまうまでした(((((

ペンネグラタン (プロフ) [2017年5月17日 19時] 235番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

本当に美味しかったです((((
これを読んだ方で都市伝説キャラを作りたくなったら僕のお勧めを使っても良いですよ()
・ドッペルゲンガー
・メリーさんの電話
・窓際の女性
・影法師

666 (プロフ) [2017年5月17日 19時] 236番目の返信 スマホ [違反報告・ブロック]

窓際の女性と影法師がわからないです、師匠(((((

ペンネグラタン (プロフ) [2017年5月17日 19時] 237番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]

ググりましょう((((

666 (プロフ) [2017年5月17日 19時] 238番目の返信 スマホ [違反報告・ブロック]

OK,Googl(((((

ペンネグラタン (プロフ) [2017年5月17日 19時] 239番目の返信 携帯から [違反報告・ブロック]
(C) COMMU