佐崎さん
スレ立てありがとうございます
「♪~」鼻歌混じりに今日も半澤は花に水をやる。時間の流れのない幽世学園であるにも拘らず、半澤は花が育つように、水をやるのだ。ふと、人の気配に半澤は顔を上げた。
「………」ふらり、と征花は学園の花壇沿いを歩いていた。足取りはしっかりしているものの、時折花壇に足を取られかけている。理由は単純、前が良く見えていないのだ。異能力制御の訓練をしていたのだが、何をどう間違えたのかキャパシティを超えて、フィードバックにより視力が落ちてしまっているのである
「あ、ええと、佐崎さん」記憶から名前を引っ張り出して呼び止める。危なっかしい足取りの上に、自分にぶつかりそうだったから。だが、彼女もすぐ止まれるわけでもなく、半澤は困ったような笑みを浮かべながら彼女の肩を抱くようにして止めた。
「あぁ……?」いきなり動きを止められ、不思議そうにそして不機嫌そうに声を発すると、征花は眉間に皺を寄せてぼんやりとしか見えないその人物を必死に見ようとする。僅かに見える輪郭線と服の色、そして声から誰か察すると口を開いた「……半澤?」
「そう、半澤だよ。大丈夫? フィードバックだっけ?」ぼんやりと征花の能力を思い出す。透視能力だったか。能力の発動条件が楽な自分に比べて、フィードバックなんかがある他の生徒は大変だなぁ、と思う。……自分は、この学園を卒業して、現世に戻る気などないというのに、世の中とは残酷なものだ。「大丈夫? ちゃんと見えるようになってから歩いた方がいいよ」征花の手を取り、手近な階段へ誘導して座らせた。
「あぁ……すまない」誘導されながら征花は謝る。いつもなら眼鏡をする等して解決するのだが、予想外の事案だったため、眼鏡は寮の自室だ。自業自得ながら自分のことを使えないな、と心の中で罵りつつ、さてどうしたものか、と考え始めた。彼に寮まで付き添ってもらうのは悪いし、かといって眼鏡なしでは怪我をせず寮まで辿り着ける気がしない。矢張り見えるようになるまで、留まるしかないか
「ねぇ、もしかして眼鏡とかあったら、解決できる?」もしかしたら力になれるかもしれない、と半澤は言い出す。「僕の能力は写真や絵を具現化するものなんだ。眼鏡の写真は生憎ないんだけど……って、あ」僕の能力って、僕の手や体から離れたら無効になるんだった、と笑う。「女子寮の手前までなら案内できるけど……」中に入るのはさすがにまずいと思っているらしい。
「……いいのか?」ぼんやりとした目で声のする方を見て、征花は少し驚いたいような声でそう言う。まさか、相手方から付き添いの申し出があるとは思わなかったのだ。だがそこで、人への執着…そしてそれが行き過ぎた故の人に頼ることをよしとしてない性質が素直に承諾することにストップをかけてしまう。「……いや、やっぱ申し訳ないし、いいよ。少し回復したら自分で帰るさ」
「そっか」じゃあ回復するまでちゃんとここで休んでいるんだよ、と征花の頭をぽん、と撫でて、花の水やりに戻る。静かながら、朗らかな空気がその空間に漂っていた。
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