い、
来ました
いらっしゃいませ。どのように始めますかね
何でもこなせるかと……まあ学校では癖のあるタイプなので気に掛けられていてもおかしくないかと思いますよ
じゃあ、授業中に当てるみたいな感じで……教科数学でいいですか?
はい、僕自身得意なのでどんとこいですっ
では始めますね。*高校の午後イチの授業とは、ただでさえ日だまりと満腹感で眠気に誘われるものだが。「えー、ここでですね、先程覚えた公式に……」いやに柔らかい声が耳朶を優しく撫で、眠気に拍車をかける。この授業を果たして一時間乗り切れる者は何人いるのだろうか。──なんて、教師として悩ましく思いながら、八月一日は教鞭をとっていた。「では、次の例題を、神辺くん、解いてくれるかな」日だまりに似た色を持つ目を、八月一日は特徴的な色を持つ生徒、神辺に向けた。
何となく、本当に何となく圭は窓から外を見ていた。何もないことが解っていても、教師である咲哉の、あの優しい声に眠らされてしまわないように……とは考えてみたものの、実際はただ単に、静かに過ごせる少ない時間を満喫しているだけである。ふと、そこで咲哉からの指名が掛かる。面倒に思いながらも仕方ないかと諦め、圭は口を開いた。「うーっす」
神辺の返事に、よかった、起きてた、という安堵をひっそりする。「皆さん、眠いのはわかりますがね、ひとまずこらえてくださいな。次の時間は現代文ですか。面白い先生が担当すると聞いています。ここで眠ると眠気残っちゃいますよ」よくわからない説得をしつつ、生徒を優しく起こして回る。
そこのところとかで舐められてるんだよなぁ、などと誰に言うわけでもなく胸中で呟き、圭は教科書に視線を落とした。どうしようもないか、と同時に俺には関係ないな、という考えもあり、圭は例題を軽く解いていく。
ようやく粗方の生徒が起きる頃には、授業の半分の時間は経過していた。「ふむ、神辺くん、正解ですね」黒板の解かれた例題を使い、訥々と解説していく。時折舟を漕ぐ生徒ににっこり微笑みかけながら。
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