POP out ACT! 雑多ボード
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IDee (プロフ) [2023年2月14日 17時] [固定リンク] [違反報告]ACT『Happy Happy Valentine』派生
イベントにご参加下さった方を中心に俳優くんをお借りして、SSなどを投稿します。バレンタイン関連の派生作品なら形式は不問なので、皆様も何かご提供下さる際はこちらのボードをご利用されても構いません。2月中は書き込みを続ける予定です。
IDee (プロフ) [2023年2月14日 17時] 1番目の返信 [違反報告]ちょこちょこ更新していこうと思います。
まずはCM撮影頼ちゃん
───
「ええんですか? ふふ、おおきにありがとうございます」
小首を僅かに傾けてにこっと微笑み、薄い台本と可愛らしく茶色い包装紙でラッピングされた直方体を受け取ったのは城崎頼。舌に馴染んだ京ことばで感謝を述べ、去るスタッフさんを見送ってから楽屋に引っ込む。
パタン、と扉が閉まったのを確認した頼は、上機嫌に鼻歌を奏でた。なぞるメロディは巷で人気のバレンタインソング。透き通るような音色は、楽屋の中にだけ響く。
四角い鏡の前の白い椅子に腰をかけた頼は、その口ずさむ歌の詩を調べに乗せて、白い紙をぺらりとめくった。
2月14日。バレンタインデー。その特別な日に向けて撮影される、チョコレートの広告CMの台本である。
新作のチョコを含めPRされるのは6種であり、それぞれの長さはさほどない。それゆえ捲ったページは白が映えるほど簡素なものだったが、
「ん~……」
難儀な声を上げる頼。両腕の肘を白い机に置き、かるく握った二つの拳に頬を置く。ぺた、と開いた掌で頬を包むとじんわりと熱が伝わった。
『ぼくでかまへんの?』
これがキャラクターのセリフならば良かった。キャラと向き合い真摯に受け止めるので精一杯で、そこに自分の私情なんかは入らない。
しかしこの台本、キャラなどは想定されておらず、城崎頼本人が言うことを前提に書かれている。
「はぁ……恥ずかしいわあ……」
胸に込み上げる羞恥と赤く染まる頬を隠すように、台本と共にいただいたチョコレート、ピールハーツを口にして鏡から目を逸らした。
IDee (プロフ) [2023年2月22日 21時] 3番目の返信 [違反報告]第一弾!
呼び方や話し方など間違いがあると思うので、その際はご連絡下さい!
───
バレンタイン当日。
多くの恋する乙女が甘いチョコに想いを込める日。別の恋に走る乙女たちは大きなショッピングモールのバレンタインブース──とは少し離れた場所にあるイベントブースに集ってそわそわとその時を待っていた。
『Happy Happy Valentine』
そう題されたこのイベントは大手菓子メーカーのチョコレートのイメージキャラクターを、今をときめく俳優6名が務め、
「握手会、か……」
2月14日、バレンタインデーのこの日。
チョコレートの宣伝と共に握手会を開催し、ファンとの交流をするのである。
6人が控えるにはいささか狭いその控室には、既に4人の俳優が各々準備をしながら集まっていた。
どこか実感がなさそうに呟いたのは、ライトグリーンの瞳で差し入れされた6種類のチョコレートをちらと一瞥したルカだった。
丁寧に6脚用意された椅子の一つに座った彼の隣の椅子に体重を掛けて目蓋を閉じていた物静かな青年、海来は彼の呟きに反応したように翠色の目を開く。
「緊張……してる?」
その瞳はぼんやりと天井の蛍光灯に向いたままだったが、問いかけの言葉はルカに飛ばされる。
反応が来るとは思いもよらなかったルカは少し目を見開いたが、一つ息を吐いて緩慢に頬杖をついた。
「ああ、いや……緊張というか、僕自身がこういう仕事を今まであまりしてこなかったから、何が正解なのか分からなくて」
IDee (プロフ) [2023年2月22日 21時] 4番目の返信 [違反報告]カチコチと壁掛け時計の秒針が進む。
そこまで思い悩む必要もないのかもしれないけれど、とルカは溢したが、
「正解、か。その気持ちは分かるかもしれない。俺も演技では、俺の思う完璧を追い求めて演じる癖があるからな」
彼の斜め前でスマホの画面をじっと見つめていたはずの中がいつのまにか電源を切って答えた。
「役作りの資料集めは終わりなの」
前髪を直す中へルカが言う。
何のこと、と不思議そうに視線を移した海来は先ほどの眠気まなこはどこへやら、真っ暗になった中のスマホ画面と中、ルカの顔を順に見る。その心を代弁するように中本人が問うた。
「……何故分かった?」
「同じグループなら、それくらい分かるよ」
あっけらかんと答えるその様子に、
「へえ、凄いですね。僕が同室の考えていることがなんとなく分かる感じと一緒ですか」
驚く第一声を上げたのは、中と同じようにスマホを凝視して考え事をしていた直巳だった。スマホにはあるゲームのキャラ紹介が浮かんでいる。
「ああ、それ……俺も見ていた」
「公演のオーディションがかかるって話ですよね」
「ああ。……そうだ、お前はこのキャラが似合いそうだな。上手く役にハマりそうだ」
「あっ、そのキャラ気になってたんですよ。あの人気舞台の2nd公演ですし、キャラ研究も原作ゲームだけじゃなくて舞台の方も観ていこうと──」
「ねえ。握手会の正解の話……」
どこいったの、と新ACTの話に花が咲く中と直巳に海来は首を傾げた。
IDee (プロフ) [2023年2月22日 21時] 5番目の返信 [違反報告]ガチャッ──!
「はぁっ、はぁっ……大変な目にあってもうたわぁ……」
「大丈夫? 頼くん」
「何で息一つ乱れてへんの……」
弾かれたようにドアを開けて控室にやってきたのは、走ってきたとみられる司と頼だった。
「わ、どうしたんです。ファンに追われでもしました」
冗談のように軽く問う中だったが、
「大正解」
「嘘でしょ」
困り笑顔で言う司に、思わずルカは軽妙にツッコんだ。
「え、何があったんですか」
興味深そうな中の質問に、当事者の二人は荷物を机に置きながら、
「いや、それがね。ここに来る直前に俺がファンの子に見つかっちゃって。軽く人だかりができて少し困ってたらね、」
「ぼくが後から来てそれに気付いたんよ。大変や、助けてやらんと司くん動けへんわぁ思うて司くんの腕を掴んで逃げようとしたんよ」
「そうしたら俺が……」
「ぼくのことファンの一人や思うたのか知らへんけど、やんわりぼくの手ぇ退けようとしたんよ~!」
「ふふっ、っあ、すみません。笑ったりして……っ……」
「もぉ~……まあ構へんけど……あ、そんでぼくがね、」
「『ぼくやよ!』って勢いよくマスク下げて大声で言うから更に騒ぎになっちゃって」
「舞台俳優の声量でですね」
「はは、何で暴露しちゃったかな」
「それはぼくも、やってしもたぁって思うたけど……そうでもせえへんかったら気付いてくれへんかったやろ~!」
高身長の司の前でぎゅっと両手の拳を握り口を尖らせる頼に、司は眉を下げごめんごめんと平謝りする。
IDee (プロフ) [2023年2月22日 21時] 6番目の返信 [違反報告]ドタバタとしたやり取りで、先程よりだいぶ賑わった控室には笑顔が溢れだした。
「自然体……」
「え?」
海来がポツリと呟いた言葉に、ルカは振り向く。
「自然体……で、良いんじゃない」
「ああ、さっきの話……」
演技ではない、握手会という自分自身とファンの対話の正解は、
「もうSNSで拡散されてますよ!」
「司くん人気やからぁ!」
端から正解などありはしないのかもしれないが、
「頼くんが人気なんじゃない?」
「二人とも自分たちが人気俳優なの理解されてます?」
敢えて一つ正解を挙げるとしたなら、
「自然体。そうだね」
「うん」
目の前で繰り広げられる愉快な、取り繕わない彼らの喜怒哀楽に、ルカも海来も晴れやかな表情をしていた。
IDee (プロフ) [2023年2月26日 21時] 8番目の返信 [違反報告]「なんや急いで来たけど思ったより時間あったなあ」
足を揃えて椅子に座った頼は壁にかかっていた銀縁の時計を見やって呑気に腕をぐっと伸ばす。特段緊張はしていないのか、頼は立ち上がって鼻唄を奏でながらうろうろと理由もなく歩き回った。
「あ、それ……」
「『Ghost Order』のナンバーですか。最近稽古が始まった」
「そやよ、リーエメインのやね。ディンメインの曲も好きでなあ、耳で覚えて歌えるようになってもうたわ」
気を抜いて座っていたルカの後ろにまで回って、頼は彼の役であるディンのソロパートを歌う。真似にしては拙いものだったが揚々と歌う姿にルカも気分が向いたのか、その仕草さえも再現して逆にリーエのソロパートを口ずさんだ。
「おお、上手いな。頼さんの声真似」
「ルカくんって原作に寄せるタイプだもんね。俺も同じ~」
感心する中の隣で、司が共感するように頷く。原作の声に寄せることと声真似をすることは通ずるところがありながら若干の違いはあるものの、やはり模倣というのは演技の基礎にもなる。
「凄いですね……! 僕もある程度は意識しますけど、もっと原作寄りを突き詰めていった方が良いんですかね」
歴的にはどちらかというとまだ新人に分類される直巳は、まだ自分の芝居を固めきれていないのか、悩むように一つ唸った。
2.5次元という、ドラマや通常の舞台とは一癖も二癖も強いキャラクターを演じねばいけないこの世界の俳優であれば誰しもが一度は直面する問題だろう。
「まあ僕は声色とか呼吸を操作するのが得意ってだけだから、なるべく近くなるように研究してるけど、そうでもない人もいるんじゃない」
そう言ったのはルカだった。彼の肩に両手を乗せて立っている頼も、彼の発言に頷いた。
「そやね、ぼくは寄せるのあんまり得意やないし」
「俺だからこそ完成されるキャラもあると思っている。 原作は正解であるとも言えるが、それが完全なゴールであるとも限らない」
「わ、良えこと言うねえ」
「なるほど……」
「そうかもしれない。……でも、元に近付けるスキルは……あって損はない、きっと」
IDee (プロフ) [2023年2月26日 21時] 9番目の返信 [違反報告]「じゃあ、特訓しない?」
横向きのスマホを片手に、イタズラな笑顔で言ったのは司だった。その画面には彼らが撮影したバレンタインのCMが流れ、丁度直巳の甘い笑顔とチョコレートが映し出されている。
「特訓ですか?」
「そう。俺たちのこのCMを演じてみるの。他の人のをシャッフルでね。どう? やってみない?」
司の提案に、「面白そう」「まあたまには」と興が乗った一同は、適当に元となるCMに番号をつけて有り合わせの雑紙で作ったクジを引き、それぞれの割り当てを決めた。
「俺は3番。ということは直巳くんのCapucineだね。直巳くんか……爽やかに格好よく、かな」
「おれは5番だった。ヴェルメリオ……大人っぽい感じ……?」
「………………。」
人物とCM被ることなく上手い具合にシャッフルされた。個人で再現のイメージを膨らまし自分に落とし込む作業に入っていたのだが、唯一渋い顔で4番の紙切れを眺めるのは中だった。
「どうしたの?」
そのビターな表情に気づいたルカは、中に問う。少し言いづらそうに鮮やかな赤色を揺らしたが、やがて決心したように言う。
「演技とはいえ、180cmオーバーの男がこれはキツいだろう」
4番のCMが中のスマホから流れる。
その四角い画面の中では、頼がハート型の箱と己の握った手を顔の傍にあざとく寄せている。人を選ぶポーズである。
「キツいね」
「バッサリ言いますね……」
「じゃあ直巳くんがやってみる?」
「えっ!? いやでも、僕にも似合わないというか……」
「はっきり言って?」
「キツいというか……」
司とルカの提案と追い討ちに苦笑いの直巳である。その傍で、中は引いて"しまった"4番の紙を握りしめた。
「せめて海来が引いてくれれば……」
「交換は、受け付けない」
「ぼくのCM、腫れ物扱いせんでよ」
IDee (プロフ) [2023年2月26日 21時] 10番目の返信 [違反報告]丁度良いし実物も使おう、とスタッフから差し入れされていた6種類の実物のチョコレートを手に、
『接吻とチョコレート、どっちが口に合う?』
『もう、おれじゃなきゃダメだよね』
『オトナだって、甘えたい』
『恋はしてもらうものじゃなくて落とすもの』
『君の"特別"は僕だけでしょ?』
『ふふ、ぼくでかまへんの?』
CMの甘いパンチワードをそれぞれ順番に披露していく面々。ここに、何も知らずにイベントホールへ集まるファンがいたら大歓喜の黄色い声が上がること間違いなしだが、生憎男である俳優当人たちしかいないわけで、感心の声や笑い声しか上がらない。
「駄目だ、キャラじゃなくて知人の真似を本気でやるとかもう……はは、笑っちゃう」
「みんな、上手……」
「わあ、中くん可愛えねえ! ふふ、恥ずかしがらんで。とっても可愛かったよ」
「頼さん、撫でないで下さい……」
司と海来の言うように、俳優であるゆえの観察眼と演技力で初めての物真似とは思えない出来映えであったが、その模倣する対象が気心の知れた相手であることが彼らの気恥ずかしさを擽った。
一人上機嫌な頼と褒められまくってタジタジな中の視界外で、こっそりとスマホを操作していたルカが直巳に言う。
「僕、実はさ」
動画ファイルが開かれ、簡素な楽屋の壁をバックに互いを演じ合う6人が代わる代わるに写り込む。
「撮ってたんだよね」
「えっ、わ、恥ずかし……」
人差し指を立てたルカは「言わないで」と、驚いた様子の直巳に暗に示して、
「これどうしようかな」
彼にしては珍しい茶目っ気のある笑みを口元にこしらえた。忘れた頃にでも見せようかな、なんて考えるルカの横顔を、直巳はハラハラとした気持ちで見つめていた。