ロル2
一人暮らしかあ、と谷織田は憧れのような吐息をこぼす。「私は自分家と咲希さん家しか知らないので、他の人の家って興味あります。まあ、咲希さんほど好奇心剥き出しってわけではないですけど。洋風のも憧れはあります。広いお風呂っていいですよね」ふふふ、と無邪気に笑う姿は年相応にしか見えない。まあ、こんなときくらいは、ゲームのことを忘れたっていいだろう。やがて、大浴場に着く。
「そーお? 人の家なんて、その人の内心を表すようなものよ。進んで見るようなものでもないと思うわ」まあ、広いお風呂は確かに良いわよね、と肯定して嶺は目を細める。激務の合間を縫って入る風呂には、命の洗濯のような快さがあるのは否定しない。からから、と引き戸を開けて大浴場の前、脱衣所を覗いた。「あら、和風ね」檜の香りが鼻に届き、嶺は微笑む。
広津の意見に特に反論はしない。咲希と交流があるだけあって、谷織田にもあまり人の意見に踏みいるという概念がないらしい。和風の内装に、咲希さん喜ぶだろうな、と呟く。洋風のものに理解がないわけではないのだが、咲希としては和風の方が肌に合って安心するらしい。
「けど……不自然なほどに新しいわねぇ」この感じだと建築してから一年経っているか経っていないかじゃない、と呟けば中に入り、嶺は軽く胸元のボタンを緩める。それから辺りを見回して、まああまり使えそうなものはないわよね、と頷いた。
確かに、経年劣化が見られないことを谷織田は周囲を見る。「うーん、和風のものは時間が経つほど味が出るのが特徴ですからね。製作者の趣味は反映されているかもしれませんが、プレイヤーのために作ったって感じではなさそうですね。体裁を整えるとかそんな感じの意図を感じます」それでも風呂は風呂だ、と谷織田も服を脱ぎ始めていく。
「ま、お風呂は広い方がいいわ」服を脱いでいき、嶺は息を抜いた。しばらく着替えていなかったせいか、少し解放感があるらしい。目を細め、耳に髪を掛ける。「ええと、タオルは貸し出しされてるようね。んー、髪のタオルだけ持っていきましょうか……」
そうですね、とタオルを手に取る。ここはおそらく公共施設のような扱いだろうから、タオルを湯船につけるのはよくないだろう。「施設、ねぇ……」谷織田が目を細める。この謎の空間は一体どうなっているのだろう。
「ふぅ……」タオルを携えると息を吐き出し、他に何か持っていくべきものはあるかと辺りを見回す。が、特に見当たらないのでそのまま浴室に入ることにした。がらりと戸を開ける。檜の香りが強い。あら、と呟いた。「ここ、二人で使うには広いわね」
うわあ、と谷織田は声をこぼす。広いお風呂には雨野家で慣れていたつもりだが、やはり広いと驚いてしまう。確かに二人で使うには広いように感じられた。「どういう嗜好なんでしょうね」不思議そうにしながら、まずは体を洗いに向かう。
「うーん……まあ、広いにこしたことはないのだけれど……」二人で使うには落ち着かないわね、と呟きシャワーの栓を捻った。頭から湯を浴び、久方ぶりの風呂に深く息を吐き出す。汗を流し、汚れを流し、リラックスしていく。ああ、快い。
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