ロル
生まれた時から、通常の家庭で育って来なかった征花は、それなりに奇怪な状況には慣れていた……つもり、だったのだが。流石に目が覚めたら知らぬ空間に他人と閉じこめられて脱出を要されるなど、そんな事案に遭遇したことは無い。「……今時ラノベだってこんな陳腐でデフォルトじゃないわ。」不機嫌そうに言葉を吐き捨てた
「最近の残虐なマンガだってここまで陳腐じゃない、とは思うけど」静かに廻智は呟き、それから集合した九人の顔を眺めた。その視線に反応してか、螢がふむ、と頷く。「はいはーい、こっちにちゅーもーく」手を叩いて注意を促すと、螢はへらりと笑ってこれから話すけど良いね? と首を傾げた。「ちょっとまだ状況がよく分かんないけど、ケイさんたちはここに集められたってことでいいと思うんだよね~。だから、取り敢えず自己紹介……しないかな?」
「そうですなぁ。脱出しようとする以上、ある程度協力せなアカンことも出てくるやろしぃ……それがえぇでしょうなぁ。」征花の隣でにこにこと人当たり良さそうな笑顔を浮かべて小さく首をかしげた琥珀は、のほほんとした口調で言葉を紡ぐ。一方、他の8人から明らかに一歩下がって距離をとっている淕空は不機嫌ここに極まれりと言った表情である。
「そうですなぁ……」他人に聞こえないよう舌打ちをかました櫂も、淕空に劣らず内心は大荒れだ。が、それでも繕いを保つ程度の余裕はある。先に兄さんから名乗って貰えます? と警戒心をチラリと見せて、櫂は螢へ目を向けた。へらりと笑い、内心を晒さないように相対する。「いいよー。まあどうせ、最初に名乗るつもりだったし」「そうなんですかぁ?」「やっぱり信用を得るには行動が必要だからねえ。……ケイさんは、佐原螢。巡査じゃないけど刑事さんだよぉ」よろしくねぇ、とまず螢が名乗りを上げる。
「じゃあ、次はうちが……金木琥珀、いいます。しがない社畜の事務員やさかいお手柔らかに、よろしゅうお頼もうします。」名乗りを上げた螢に続いて、琥珀が名乗りを上げる。螢のことを軽く一瞥して、警察さん、なあ、と笑う。「あまり一人で行動とかせんといてくださいよ?何が起こるかわからへんし。」暗に出過ぎた行動、怪しい行動はするな、と遠回しに言って琥珀は笑っている。
「あはは~。綺麗なお姉さんにそういうこと言われちゃうとその気になっちゃうな~」冗談めかして返せば次行けるかい、と憐に目を遣り、何故か女性陣へ威嚇するような様子を見せる彼女の肩を叩く。「……僕は、加藤憐」ぷい、とそっぽを向いた彼女にあららぁ、と螢は声を零し、ふむ、と空気を保たせるように廻智が口を開いた。「次はボクが。ボクは廻智と言います。医学部生です。どうぞよろしく」と、櫂が一瞬動揺して、目を泳がせた。別人なのは見れば分かるが、名前が同じである。多少は驚いたのだろう。
櫂が動揺したように、淕空もまた動揺の感情を表情に出して、廻智の方を見る。別人なのはわかり切っているのだが、それでも反応せずにはいられないあたり、淕空らしいというか。視線を向けたせいで廻智と視線がかち合い、淕空はふい、と急に視線を逸らす。が、その行動が目立って一歩下がっていたにも関わらず全員の注目が淕空に集まって内心悪態を着いた。「……曽田淕空いいます。あんま人と関わりたないんで、必要な時以外声かけんといてください。」
おやおや、と内心苦笑するが櫂も同類だ。空気を変えてやろう、と口を開く。「次はわしが。わしは櫂。まぁ、脚をひっぱらんようせいぜい努力しますなぁ」思ってもいないことではあるが印象付けは大切だ。にっこり笑うと次は先生がやります? と唐突に幸葵へ話を振り、軽く眉を動かした幸葵へ視線を誘導した。はぁ、と小さく溜め息を吐いてから幸葵が口を開く。「幸葵、白崎幸葵と言います。しがない教師をやっていますよ」以上です、と言えばもう口を閉じ、次を促す。
進んで自己紹介をするつもりなどないし、やりたきゃ勝手にやってろと思っていたのだが、幸葵に促されては征花とて逆らう気は起こらない。「…僕は佐崎征花、です。よろしく、お願いします。」はなから自分が好いている人物以外とよろしくも仲良くもやるつもりはないのだが、体裁というものもあるし、と仕方なしに征花は最低限のことを言って口を閉じる。
「あ、俺最後になっちまった」出遅れたー、とのんびりした雰囲気を醸しながら最後に空が口を開く。「俺は雲井な。カメラマンやってマース。よろしく」あくまで軽い雲井だが、それでも話を済ませれば次進もうぜ、と促してくる。まずは情報交換をしたいという様子だ。「そっか、そっか。じゃあ刑事さんが仕切っちゃっても良いかなー? 嫌なら他の人に譲るけど、さ」琥珀へ伺いを立てるような口調でそう言い、螢はのんびりと首を傾げた。九人も居ると、空間が狭く感じるものである。
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