妖奇譚【本編】

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【鐘京殿 玉響】

日向信乃 (プロフ) [2016年2月9日 12時] [固定リンク] PCから [違反報告]

店の奥にある作業所で壱龍(サネタツ)が作業をしている。彼は宝玉職人だ。ただ黙々と宝玉を削り、形を作っていく。段々と角が取れて丸みを帯びて行くそれはまるで満月のようだ。どうやら対となるアクセサリーを作っているらしい。
壱龍はそれを様々な角度から見て、どこかに削り残しはないかと探して始めた。ほんのわずかでも削り残しがあるだけで、全体の見た目が美しくなくなる。それが嫌だと言わんばかりに彼は集中していた。今の彼には周囲の音など耳に入っていない。
くまなく探して削り残しがないことを確認した後は宝玉に小さな穴を開ける。そこに彼は飾りを丁寧に挿入した。金色の細かい鎖に紅い宝玉が良く映えている。その鎖が外れないことを確認すれば、最後の工程に入るだけだ。
「……これでよし」
壱龍は立ち上がると、作業所を出る。宝玉で出来た小ぶりのアクセサリーは、光を浴びて煌いた。その様に彼の口元が緩む。久々に満足のいくものが作れた。彼はアクセサリーを棚に置きながら小さく呟いた。
(鈴蘭さん専用)

日向信乃 (プロフ) [2016年2月9日 16時] 1番目の返信 PCから [違反報告]

「壱っ龍さーん!」
名前を呼びながら、慌ただしくドアを開けて、その少年が入ってきた。
白に近い金髪に紫色の瞳を持つこの少年は籠島綺。いたって普通の、そこらへんに生息している人間だった。(こっちの世界では珍しいが)
店に入ってからは走ったりはせずに、パタパタと壱龍の近くへと近づいた。静かな理由は、仕事場で騒ぐと壱龍に怒られるのがわかっていたからか。
「あ、これ新しい作品でしょ!うわー!綺麗だなぁ!」
彼のアクセサリーをじっと眺めて、頬を緩めて笑った。大きな瞳の中で何かが陽光を受け、遠くの山肌に見える氷河のようにきらりと光った。明るい笑顔だった。大きな瞳、優しい曲線を描く眉、口紅を注さなくても淡く桃色に光る唇、柔らかな頬、それらが笑うと輝いてみえた。
「ね、ね!壱龍さん!さっき神社でこんなの拾ったんだよ」
そう言って、壱龍の手のひらに白黒小石を乗せた。どこの神社にでも落ちている小石。ただ、それは比較的綺麗な形をしていた。

鈴蘭 (プロフ) [2016年2月9日 21時] 2番目の返信 PCから [違反報告]

「綺か……」
騒々しくドアを開けた割には大人しく隣にいる少年。彼の気遣いを感じた気がした壱龍はちらりと相手の顔を見る。すぐに新作品に気付くあたり、彼はこの店をよく見ているのだろうか。その思いが浮かんだのもつかの間。彼の放った”綺麗”と言う単語に口が反応する。
「……ありがとう」
気付いたのか。その一言くらいは付け加えても良かったのかもしれない。壱龍は言った後で後悔した。だが、それもすぐ打ち壊される。綺の弾ける笑顔を見れば、そんなものはいらない。そう思わせられる。その彼が拾った小石は綺麗だった。
「あそこにこんなものが……」
思いのほか綺麗な形に壱龍はその小石を頭上に掲げて見る。自然に形作られたものなのだろう。加工の痕が一切ない。これは宝物に加えるか。ふっと浮かんだそれを壊さないように、手近にあった匂い袋の中に小石を忍ばせる。鼻に心地いい芳香に彩られた天然の小石はどんなに良いだろうか。そこまで考えたところで綺の存在を危うく忘れそうになっていたことに思い至る。壱龍はふっと視線を落とし、綺の方に体を向けた。

日向信乃 (プロフ) [2016年2月9日 22時] 3番目の返信 PCから [違反報告]

「はい、綺です!」
ぴしっ、と壱龍に向かって敬礼するようなポーズをとって、またその作品をじっと見つめた。彼は長い間それを眺めていた。たとえば平素見馴れた漢字を、長い間見詰めていると、それがどこか間違った形をしているような、さらには全く見覚えのない形に見えてくる瞬間がある、それに似た心持ちだった。
彼の「ありがとう」に反応して、ぱぁ、と明るい笑顔を浮かべた。
「本当のこと言っただけだよ?」
いつも口数の少ない彼が答えを返しくれるだけで彼は嬉しかった。どんなことに対しても楽観的でめでたい頭を持つ彼特有の思想だろう。
「壱龍さんが気に入ってくれそうな気がして!」
彼にまたそう笑いかけた。白黒小石なんそこらへんに落ちているものなのだと普通の人は思うだろう。だが、彼らは違うのだろう。

鈴蘭 (プロフ) [2016年2月10日 9時] 4番目の返信 PCから [違反報告]

「……元気だな」
子供は元気のある方が良い。じっとアクセサリーを見つめる綺に親のような、兄のような気持ちを抱く。これは自分が500年を悠に生きてきたからか。それとも綺の向ける明るい笑顔のおかげだろうか。
「素直は良い……」
ぽつりと漏らすその言葉に他意はない。壱龍は綺のそんな所が好きなのだ。純粋で明るく元気。これほど話すのにうってつけの相手はいない。無論、会話が長続きすることがめったにない彼にとってはだが。
「……それに勘も良い」
笑みを浮かべる相手にそんなことを言っても良いのか。ただ褒めているだけのような気もする。如何せん寡黙な彼は人と話すことが少ない。それもあって何をどう話すか分からなくなる。それでも、笑顔を振りまきながら話してくれる相手がいることが嬉しかった。自分が綺麗なものを認めることを知っていることも、それが天然であれ人口であれ関係ないことも。

日向信乃 (プロフ) [2016年2月10日 12時] 5番目の返信 PCから [違反報告]
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