「ふわぁ、眠。」愛用の枕を抱き、外の椅子に座った。コクコクと首を揺らしているとふと足音がした。
バランバランと男、バイアルドは愛馬と共に駆けていた。別にこの町に用があるわけでは無いが、行った事の無い場所となれば少なくとも行かなくてはならないと言う使命感があった。それに、長旅のせいか愛馬ことメテーオラもしっかり休ませてやらないといけない。詰まる所、馬の面倒を見てくれる宿を探しているのだ。「良い宿があると良いんだけどな」なんてぼやきながら、バイアルドは愛馬の首元を何度か撫でた。
「うんー、馬?」目を擦りながら顔を上げると馬と男の人がこっちに来ていた。というか、こっちに突っ込んできそうなのだが……「うわぁ!え、人?馬?」と椅子から滑り落ちてしまった。
勿論そんな彼を見てバイアルドはくすりと笑ってしまう。メテーオラはそれなりに賢い馬で、人を蹴り殺 しはするが踏んでしまうだなんて事は絶対にしない。馬の足を止めて、バイアルドはどうどうと鼻息を荒げる愛馬を宥める。そうして、やっとその眼は馬上から彼に向けられた。「馬の世話をしてくれる宿を探しているんだ。この町にはそう言った施設があるか?」
「馬の世話してくれる宿?ふふーん、僕が誰だか知らないだろ?僕は便利屋だから何でも知ってるぞ!えっとねー· · ·地図持ってる?」馬の上から見てくる男の人をじっと見つめながら、訪ねた。太陽が反射して顔がよく見えない。
「そりゃ助かった。バイアルドがあんたに話しかけるのは必然だったって訳か」すとんと愛馬から降りると、背負っている袋から地図を取り出して。広げながらそれを彼へ手渡した。こうして誰かと話す事すらバイアルドにとっては久し振りで、どことなくその声は弾んでいた。
「えっとねー、ここを真っ直ぐ行ってー」と近くにあったペンをとり、道案内をしていく。しかし、あることをふっと思いついた。「そういえば、最近なんか色々物騒だからねぇ送ってあげよっか?道入り組んでるしね」
ふむ、と興味深そうにバイアルドはペンが示す道をじっと見つめた。だが、残念な事に1度で覚えられるはずの無い些か用量の悪い頭では理解に苦しむものがある。「嗚呼、頼んでも良いだろうか。物騒な事に関してはどうとでもなるが」なんて、愛馬を撫ぜながら小さく笑って。
「ん、了解!感謝してよねぇ。僕が案内するなんてあんまりないしねぇ」とかいいつつ、いつもちゃっかり案内してあげているのだけれど……。心の中で苦笑いし、相手の方を向いた。「そう言えば名前聞いてなかったよね?僕はウィルム。まぁ普通にウィルムでもなんでもいいから。」
「そうだったのか。バイアルドが運の良い男で良かった」そう言って薄く笑みを浮かべた。なにしろ此処へ来るまでは何かと自分ひとりで全てを行わなくてはならなかったものだから、こう言った親切は特に心にじんわりと染み渡った。「バイアルド。バイアルド・ロッシ…それなら君の事はウィルムと呼ばせて貰おう」
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