Espoir.

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うる (プロフ) [2019年3月20日 23時] [固定リンク] PCから [違反報告]

いつもの日常と代わり映えのない時間が、今日も音もなく流れている。
ぼーっと、カメラごと視線を上にあげレンズ越しに空を眺めた。
首からぶら下げている一眼レフのフォーカスリングに手を添えて、ピントを調節すればカチャッという機械的な音が静かな空間に響き渡る。
此処、屋上から見上げる空は何とも綺麗なものだった。
何も代わり映えしない日常だが、空だけはいつも違っていて1秒1秒違う表情を見せてくれる。
特に放課後の空は、澄み渡った青空と夕方に差し掛かる赤色や橙色のグラデーションがとても綺麗で、それを見るのが自分の中の楽しみの1つでもあるのだ。
とはいえまだ夕方までには時間があるので、そのまま屋上を降りていつもの様に校内をブラブラと歩いてくのだが今日からは目的を持って撮らなくてはいけない。
なぜなら、今から数十分前の部室にて新しいテーマが部長から発表されたのだ。
彼女が所属している写真部では月に数回プチコンテストが行われ、テーマにそった写真を提出し、生徒達の行き来の多い廊下に掲示される様になっている。
掲示板の近くには付箋があり、見たい人が一言感想やアドバイス等を書いていく仕組みになっていた。
そして、新しいテーマは『とっておきの1枚』というもので、自分にとってのとっておきの1枚を提出することになっている。
「とっておきの1枚、かぁ…」
小さくそんな事を呟きながら中庭の方を歩いていれば、サーッと風が吹き抜けた。
自分の髪もさわさわと揺れ、中庭に聳える木々や花壇の花達も風にそって揺れその音に心地良さを感じる。
撮ろうかな、とカメラを構えた時のこと。
ふと、視界に移るベンチに男の人が座っていた。
さわりと揺れる黒髪に透明感のある色白の肌が目立ち、そしてなにより綺麗に整っている横顔。
どこを見ているのか分からないが、ぼーっとした視線がまた儚げな魅力を引き立たせているように感じる。
一瞬にして視線を奪われたその男の人が同じ学年の人だと気付くのには少し遅れたが、シャッターを切るタイミングは逃さなかった。
自分でもほぼ無意識のうちに撮った彼の写真。
聞きなれたシャッター音が、また静かな空間に響く。
すると、前の方を見ていたはずの彼がシャッター音に気付いたのか微かに驚きが混ざった表情でこちらの方に顔を向け、バッチリと目が合ったのは言うまでもない。

うる (プロフ) [2019年3月21日 18時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

あ、れ……?
一瞬、自分の思考が止まったように感じた。
今の自分の状況が理解できない。
男の人と視線が合った瞬間に軽いプチパニックを起こして慌てて両手に収まっている一眼レフに視線を落とした。
カシャリと、数秒前に確かにシャッター音が鳴った。
この音だけは聞き逃さない。何度も何度も聞いてきたこのシャッター音だけは聞き逃すことも聞き間違える事も、絶対にないと言いきれる。
だからこそ、自分がしてしまった行動にただただ驚くしかなかったのだ。
その聞き間違えることのないシャッター音が先程なったということは……___そういう事である。
背中に微かな冷や汗を感じながらも恐る恐る視線を男の人の方に向ければ、何故かこちらに歩み寄って来ている彼が先程よりも近い位置に居て、思わず息を呑む。
やはり、彼は同じ学年の男の人。そして、1年生の頃に確か同じクラスだった人だというのを再確認する。
そんな中、頭上から不機嫌そうな声色で「……何だよ。盗撮?」という言葉が降ってくるものだから尚更冷や汗をかいたのだった。

やばいやばいやばいやばい…。
お、おぉぉ怒っていらっしゃる…っ!!!

緊張感漂う空気の中、口を開くというのはかなり緊張するというもので中々言葉を発せないでいるのだ。
だからと言ってこのまま黙っている訳にもいかないし、これ以上黙っていると更に気まずくなりかねない。
そう判断した彼女は意を決してゆっくりと唇を動かし90度の角度で頭を下げた。
「す、すみません…!盗撮など決してその様なつもりは…い、如何わしい気持ちも一切ございませんので…っ!あの、でも、とわいえなぜこの様な事をしたのかと問われれば納得して頂けるような答えもございません!その理由を申し上げますと無意識のうちにシャッターを切ってしまいまして…自分の行動に自分で驚いているところです!不快な気持ちにさせてしまい本当にすみません!!」
ペコペコペコペコ、何度も頭を下げて相手の男の人が言葉を挟む時間も作らずそう謝罪の言葉を綴る。
緊張状態の中で1度開いて閉まった口はそうそう止まらないものだと言うのを、身をもって初めて体験したのが失態から生まれたこんな出来事なんて誰が思うだろうか。
そのまま慌てた様子で首から下げている一眼レフを手に取った。
「すみません、本当にすみません!直ちに今すぐ消しますので…!!」
再度謝罪の言葉と共にそんな事を言えば、慣れた手つきでボタンを操作しメモリから先程撮った彼の写真が画面に映し出された瞬間、手を止める。
息が、止まった。
今まで自分が撮ってきた写真が誰の視線も奪わない作品だとは言わないが、彼の写真は別格だと感じる。
彼を照らす木漏れ日の光、さわりと綺麗に靡いている黒髪にそれひ引き立たせる色白の肌。そして何より、彼が漂わせる何とも言えない儚さ。そんな一瞬の光景が綺麗に写真として目に見える形に残っているのだ。
言葉に出来ない幻想的な写真に、思わず「すごい…」と呟いてからキラキラとした瞳を目の前の男の人に向ける。
「凄く綺麗に撮れてます!見てください!」
なんて、どこか興奮気味に話出した彼女はカメラの画面を彼に向けたのだった。

うる (プロフ) [2019年3月22日 21時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

「なっ、だから違うんです!盗撮じゃないんです…!!」
そうあわあわとした様子で彼の『盗撮』という言葉に過敏な反応をした彼女は、どうしたら誤解が解けるだろうかと悶々と頭を悩ませた。
このままでは男の人を盗撮した変態というレッテルが貼られてしまう。それだけは避けなければと、色々誤解を解く言葉を考えていた時。
『なんで写真を撮ったのか』と、彼から問いかけられて思考が停止し一気に現実世界へと連れ戻されたような感覚になる。
「へっ?あ…新しいテーマでして…。」
そこから自分が写真部であるということ、それから新しいテーマが『とっておきの1枚』ということ。
そしてそのとっておきの1枚を探すために校内をブラブラしていて中庭にたどり着き、花壇の花や緑が生い茂る木々を撮ろうとカメラを構えた時に風に吹かれる彼に視線を奪われてつい無意識のうちに写真を撮ってしまった。
という今までの流れを順を追って説明した。
「と、写真を撮った経緯はこんな感じです」
もう一度、カメラの画面に写る先程の写真に視線を落とす。
光の具合といい、自分で撮った写真に対して言うのもあれだが、本当によく撮れていると思う。
出来れば、わがままかもしれないが、消したくはなかった。
けれども本人の許可無しにこの写真を保持しているとなると盗撮ではなく別のレッテルが貼られてしまいそうで、それはそれで嫌である。
「あの…この写真、消さずにいたらダメですかね…?こんなに素敵な写真、どうしても消したくなくて…。」
ぐっと、一眼レフを握る手に力を込めてダメもとでそうお願いをしてみた。
もちろん他の誰かに見せるつもりもなければ、校舎にばらまいたりなど悪用するつもりもサラサラない。
ただ、自分でもよく撮れた、綺麗だと心惹かれる彼の写真をどうしても消したくないのである。
中々返事をくれない彼に、やっぱりダメだよね。と内心しょぼくれたがきっとそれは表情にも現れていただろうし、言葉としても口から零れていた。
「ダメ、ですよね…。」
どこか悲しそうにしゅんと眉尻を下げてからそんな言葉を呟く。
うぅ…でも消したくないよ~。
そう心の中で葛藤するも彼が本当に嫌だと、消して欲しいというなら潔く諦めるしかない。
そう心に決めて、彼の返事を待った。

うる (プロフ) [2019年3月23日 0時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

ダメもとで問いかけた言葉に対して、彼の返してきた返事は本当に予想していなかった。
『消さなくていいんじゃない。』
そう、確かに彼は呟いたのだ。聞き間違いではないことを願うが自分の耳はそこまで悪くはないはず。聴覚検査でも異常はなかったし…。
なんて思いつつも、未だに彼が言った言葉が信じられなくて何度も自分の頭で確認をした。
言ったよね?絶対言ったよね?
聞き間違いなんかじゃないよね…?と、何度も何度も確認をする。
けれども自分の耳に届いた彼の声は消えることなく、ずっと頭の中をグルグルと周りリピートされ続けていた。
夢でも、嘘でも、聞き間違いでもない。
そう確信できたなら、ただただ嬉しくて自分の頬が緩んでいくのが分かる。
緩みきった頬を引き締めようと表情に力を込めた時、この写真を何に使うのかと彼に問われて答えに困ってしまった。
特別何かに使おうとかは思っていなかったわけで、こんな綺麗な写真が撮れただけで彼女としては満足している。
「何に…。うーん…自分の中での鑑賞用、ですかね?」
と、特になにも考えずにそんな事を口にすれば明らかに驚きと引き気味の表情を彼が浮かべていて、言葉を間違えてしまったことに気付く。
「あ、いえ!別に如何わしい意味ではないです!その、えっと…悪用したりとかはしないというのを伝えたくて…」
そう慌てて修正するが、果たして誤解は解けたのだろうか。
否、切実に解けていることを願いたい。
とはいえ彼の写真を何に使うのなど全く考えていなかったわけで。
彼のこの写真を消したくない、このカメラのメモリに保存していたい。
彼女はたったそれだけの理由でわがままを言っていたのだ。
「うーん…。」と、難しそうな表情を浮かべこの写真を、自分はどうしたいのかをもう一度ちゃんと考えてみる。
皆に見せたくないのかと言われればそういうわけでもなく、だからと言って「ねぇ見て見て!」と自慢したい訳でもないというなんとも曖昧なもの。
けれども、この写真を大切にしたいという気持ちは決して曖昧なものではない。なぜなら、自分が撮った中でこんなに綺麗だと思う写真はないからだ。
彼が写るこの写真は、きっと、自分の中でのとっておきの1枚になっているはずだから……___。
なんて、そこまで考えてからハッとしたような表情を浮かべる。
そうだ、この写真は自分の中でのとっておきの1枚、それ以上もそれ以下もない奇跡の1枚。
「この写真、プチコンテストに提出したいです」
提出期限までまだ日付はあるので、そう焦って提出する写真を決めなくてもいいのだが、どう考えてもこの写真以上に自分の心を動かす写真は撮れないと思った。
消したくないとわがままを言って、次にはその写真をプチコンテストに出したいという自分のわがままぶりには驚いたが、そう思ってしまった以上、彼の写る写真以外をプチコンテストに出す気はサラサラないらしい。

うる (プロフ) [2019年3月23日 22時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

「ふふ…。」
中庭にあるベンチに腰をかけた状態で、先程撮った彼の写真を眺めていた。
無事、彼にこの写真をプチコンテストに提出していいという許可をもらい、何かあったら言っていいとまで言ってもらったわけで。
1年生の頃は会話することは無くて2年生へと上がったのだが、まさか写真をきっかけに話すなんて予想もしていなかった。
初めて話した彼の印象は、優しい人と言う感じで出来ればまた話してみたいなぁという思いもある。
嬉しさに浸りながらも、何度も見た彼の写真にもう一度視線を落とした。
何度見ても変わらずに自分の心が惹かれる。
あぁ、やっぱり素敵だな。なんてしみじみ思いながらゆっくりと立ち上がった。
ちらりと腕時計を確認すれば、夕暮れ時の時間帯に差し掛かる頃で。その時に空が茜色に染まりかけているのに気付いて慌てて屋上へと続く廊下や階段を駆けていき屋上のドアを開ける。
「はぁ…よかっ、たぁ…」
まだ夕日は暮れていない。
フェンスに歩み寄ってから、赤にも青にもなりきれていない紫がかった空を見ながらカメラを構えた。
今日も申し分なく綺麗な空を写真に収める。
美しくないというわけでもなく、心惹かれないわけでもないが、やはり彼を見た時の衝撃は忘れられない。その時の衝撃には、及ばない。
「そういえば、私のこと覚えてるのかなぁ…」
ぼーっとフェンスに腕を置いて、沈んでいく夕日を眺めながら呟いた。
別れ際『僕、二年二組の桜庭だから。』と、自己紹介までしてくれた彼。さすがに2年に上がってから彼が何組になったかまでは知らなかったが、名前は知ってる。
初対面だと思ったから言ってくれたのか、はたまた私が名前を忘れていると思って言ってくれたのか。
どちらにしろ幾ら考えたって彼に聞いてみなければ分からない。だからと言って聞く予定もないのだが、存在を認識されていなくても当然と言えば当然であった。
喋ったことが無い上に、特に目立つタイプでもなければ、特別頭が良い訳でも運動ができる訳でもない。そんな平凡な人間を認識している方が驚きである。
じゃあなぜ彼女が彼の名前を覚えていたのかと言えば、彼の名前だ。
『桜庭 清泉』
その名を学級名簿で見た時に綺麗な名前だと思った。
1年生の頃と言えば授業で何回も何回も自己紹介をする機会も多く、彼がその『桜庭 清泉』だと言う事を知るのにそう時間はかからなかったのを覚えている。
そんな昔の事を思い出していれば、下校を告げる放送と共に音楽がなり始めた。
慌てて屋上を後にし、部室に置いてある鞄を肩にかけてから丁寧にカメラケースに一眼レフを仕舞う。
自分が1番最後というのもあり、部室の鍵を職員室になおしに行ってから学校を後にした。

うる (プロフ) [2019年3月24日 19時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

『へぇ、いいの撮れたじゃん』
「はい!自分でもそう思います」
数日後の放課後。部室にて。
プチコンテスト用の写真を提出した所、彼の写真を見た部長がそう呟いた。
どこか誇らしげに笑った彼女を見て、部長もくすりと笑みを浮かべてからプチコンテスト用の封筒に写真をしまい込む。
そのままミーティングとまでは言わないがプチコンテストについての軽い話し合いを済ませて、今日の部活はお開きになった。
外の様子を確認すれば、既に夕暮れ時。慌てて腕時計で時間を確認すれば、いつもはもう屋上について写真を撮っている時間帯になっていた。
友人に「一緒に帰ろう?」と誘われ一緒に帰りたい気持ちはあるものの、いつものお楽しみである夕暮れ時の写真を撮るためにやんわりと断りを入れて鞄とカメラケースを肩にかける。
さすがに屋上まで行く時間はないので、割と見晴らしのいい階段まで行き夕暮れの空を写真に収めた。
ここで撮る写真ももちろん綺麗なのだが、屋上で撮る夕暮れ時の空が1番綺麗だと、彼女は思っている。
それからまた何枚かを写真に収めていたのだが、気付づけば聞き慣れた下校を告げる放送と音楽が耳に届いて今日も慌てて靴箱へと向かった。
急いで上履きからローファーへと履き替えていた時。ふと、中庭の方から彼が出てきたのが見えて更に慌てて靴を履く。
「桜庭くん…!」
彼が帰らないように、遠くにいる彼を呼び止めるため少し大きめ声で初めて呼ぶ彼の名前。
突然呼ばれた事に対して驚いているのか、それとも別の理由があるのか、なんとも言い難い表情でこちらを振り向いた彼に急いで駆け寄った。
「今帰りなんですね」
少しばかり走ったので少し息は上がったのだが喋れない程ではないのでにこりと笑いながら直ぐに口を開く。
「伝えたいことことがありまして。
あの写真、今日部長に提出したんです。それで、プチコンテストは明後日から始まる事に決まったので明日の放課後に写真を貼り変えることになりました。」
と。
彼の写っている写真をプチコンテストに提出したので、一応その報告を明日しておこうと思っていたらしい。
けれどもナイスタイミングというべきか、丁度のタイミングで彼と出くわしたので今報告をしておくことにしたのだ。
「あの写真、部長も褒めてましたよ」
なんて、嬉しそうにそんな事も付け加える。

うる (プロフ) [2019年3月25日 18時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

たどたどしく、どこか言いづらそうな表情で自分の名前を呼ぶ彼。
その表情が何となくひっかかって、自分の名前に続く言葉に全集中力を注いでから耳を傾ければ『本当に俺なんかの写真でよかったのか』と、そう問いかけてきた。
一瞬彼の問いかけた言葉が理解出来なくて思わずキョトンとした表情を浮かべてしまったが、直ぐに頭をフル回転させて真剣な表情で彼を真っ直ぐに見つめる。
「“俺なんか”なんて言わないでください。桜庭くんの写真がいいんです…!」
詳しい理由を言えと言われれば言葉に詰まってしまうのだが、直感と呼ぶべきか…自分の心が惹かれたからこそ、それを信じたいと思った。
何度その写真を見てもあの時の感動や衝撃、風の音も花の匂いも木漏れ日の温かさ。整った彼の横顔も綺麗な黒髪も色白な肌も。
その時の状態を全部思い出すことが出来る…心が惹かれるというのはこの事を言うんだと。
絶景と呼べるようなものを今まで見てこなかったのかと問われればそういうわけでもなく、毎日のお楽しみである夕暮れ時の景色も息を呑むほど綺麗じゃないのかと言われれば絶対にそうじゃないと断言もできる。
けれど、それらを全部引っ括めた上で彼の写真が良かった。
あんなに無意識のうちにシャッターを切ったのは初めてで、視線も心もその全てが彼に惹き込まれたのだ。
そう思った彼の写真は、自分にとっては“とっておきの1枚”。誰がなんと言おうとも特別な1枚なのだと胸を張って言える。
あの状態で心が惹かれたのは他の誰でもなく彼だ。あの日、あの時、あの場所で、彼だったからこそ心が惹かれたのだと思う。
「あんなに心惹かれた写真は初めてなんです!あの写真以上にとっておきの1枚だ!って、胸を張って言える写真は私が撮ってきた写真の中にはありません…!!」
と、決意の篭った瞳で彼をじーっと見つめた。
“俺なんかの”なんて言わないでほしくて、どうにか彼にもあの写真を素敵な写真だと思ってもらいたい……。ただその一心で、そんな言葉を口にする。

うる (プロフ) [2019年3月26日 0時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

気持ちはちゃんと伝わったのだろうか。
という不安を抱きながら『それだけ?』と問いかけた彼の言葉にコクリと頷いた。
言いたいことは言えたと思うし、なにより自分にとってあの写真がどれだけ大切で大好きなのかというのも改めて知ることができて良かったと思う。
興奮気味だったとはいえ、あんなに熱弁してしまった事を後悔はしていないがどこか恥ずかしさというみのはあった。
ふぅー…。と、小さく空気を吸い上げて肺に送り込めば、ゆっくりとその空気を外に吐き出す。
そうすれは、頭の中がスッキリとした。先程までの興奮しきった感情はどこかに消えていってしまったらしい。
冷静になった頭で先程のことを振り返っていれば、とある事に気が付いた。
(あれ…?私桜庭くんに名前言ったっけ…?)
話すきっかけとなった数日前のことを1つ1つ振り返り確認をしていくが、名前を言った覚えはやはりない。
ましてや彼自身が彼女の名前を聞いてこなかったというのもあり、自己紹介をする機会も全くなかった。
ということはやはり、自分の名前を彼に言っていないのだ。
けれども彼は先程の会話の中で『橘さん』と平然と名前を呼んだ。語尾にはてなマークを付けない感じだったということは、彼は彼女が『橘』であると言うことを確信している上で名前を呼んだということになる。
「あ、の…桜庭くん。さっき私の名前呼んでましたよね?何で私の名前を知ってるんですか…?」
私名前言ってませんよね…。なんて、付け足すように呟いてからちらりと彼の横顔を見た。
1年生の頃は全く話したことがなく、だからと言って彼女が目立つような事をしていたのかと言われればそうでもない…そんな平凡な自分は彼に認識すらされていないと思っている彼女にとって、それは衝撃以外の何者でもない。
ただただ驚きの眼差しで、彼を見つめることしか出来なかった。
彼からの返事に、じーっと耳を傾ける。

うる (プロフ) [2019年3月30日 18時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

1回も話したことのない自分の名前を彼が覚えてくれていたという事に、驚きと共に嬉しさを感じた。
深い理由はないにしろ、やはり誰かに自分の名前を覚えてもらえていたということは喜ばしいことで、頬が緩んでいくのがわかる。
けれども、彼の『君こそ僕の名前忘れてたろ』という言葉により緩んだ表情がキョトンとした表情に変わった。
(もしかして忘れてると思ってるのかな…。)
確かに今思い返せば彼が『俺、2年2組の桜庭だから』と言うまで彼の名前を多分呼んでいなかった気がする。
呼ぶ機会がなかったとも言えるが、彼の名前を呼んだのはそう言われた後の事だったので彼からしてみれば名前を忘れていたのだと結論づける以外ないのだ。
そっか~。と1人心の中で納得すればにこりと小さく笑みを浮かべて彼の方に顔を向けた。
「ふふ、覚えてますよ。桜庭 清泉くんですよね。清いに泉って書いて、清泉くん」
そう呟けば、彼は微かに驚いているような表情を浮かべてちらりとこちらを見る。そんな彼の表情を見ればやはり彼女が自分の名前なんて覚えていないだろうと思っていたのは明確で、またクスッと笑みを浮かべた。
そのまま、上記の言葉に続けるように口を開く。
「クラスの名簿を見た時に、綺麗な名前だなぁって思ってて。」
以前、彼女がまだ1年生の頃に友人から『桜庭くんは自分の名前が嫌いらしい』という話を聞いた事があった。女の子っぽい響きの名前が嫌いなのだと。
彼女自身、自分の名前を嫌いだと思ったことはこれまで1度もない。
『和花』なんて、のんびりとした名前だと感じたりはするものの嫌いとまではいかず、寧ろのんびり屋な自分にぴったりな名前だとも思っているので名前が嫌いだという彼の気持ちはわからない。
わからないが、彼の名前は素敵だと思うのだ。
それに、彼の雰囲気にはピッタリの名前だとも思うのだが、その事は彼女の心の内に閉まっておくことにした。
数日前は少ししか会話も出来ず、1年生の頃は全く会話をしなかった彼と、今こうやって沢山話せている事が、彼女にとっては嬉しくもあり楽しくもあり笑みを深める。
とはいえ、人の名前を1年で忘れるほど馬鹿じゃないということは、1年生の頃のクラスメイトの名前を彼は覚えているのだと、人の名前を覚える事を苦手としている彼女は密かに素直に関心していた。

うる (プロフ) [2019年3月31日 17時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]

彼の言葉を聞きながら、笑みを浮かべた表情で首を横に振った。
特別何かが可笑しいわけでもない。ただただ彼と話せている事が嬉しくもあり楽しかっただけである。
だから『何にも可笑しくはない』という意味を込めて首を横に振り、その気持ちを伝えようと更に言葉を付け足した。
「違うんです。ただ、嬉しくて」
そう言えば、ちらりと彼の様子を伺うように視線を向ける。
すると、彼女の発言に彼は驚きとけれどもどこか不思議そうな。そんな表情を浮かべていた。
たった数日のちょっとしか話していない間柄ではあるものの、彼からは大人っぽい雰囲気をいつも感じている。現についさっきまでもそうだった。
そんな彼が上記のような子供っぽい幼さを感じる表情を浮かべていた事にほっこりと心が暖かくなるのを感じるのだ。
新しい一面を知ることが出来たみたいで更に嬉しさを感じる。
自分の頬が更に緩んでいくのが分かった。
「1年生の時は全く話せなかった桜庭くんと、今こうして沢山話せている事が嬉しいんです。嬉しくて、楽しくて。だから笑ってました。」
人との出会いというものは本当に不思議なものだと、そんな考えがふと頭に浮かぶ。
どんな事がきっかけで関係が築かれていくなんて、誰も分からないし想像もできない。
きっかけなんて、運命や神様以外誰にも分からないのだ。
だから、彼とのきっかけだって誰も予想もしていなかった事でましてやそのきっかけとなったものが盗撮もどきの出来事だなんて。
彼女も、もちろん彼も、周りの人達も。誰も予想なんて出来ていなかった。
(神様ももう少しまともなきっかけを作ってくれても良かったのに。)
なんて、心の中でボヤいてみる。
まぁ、どんなきっかけであれ、彼とこうして話せる事は彼女にとって喜ばしい事に変わりはなく、出会わなければ良かったと悔やむことはないのだ。
ただ、もう少し、ちょっとだけでもいいからまともな出会いをしたかったというだけの話である。
とはいえ、彼女自身、彼と話せている事が嬉しいことに変わりはない。
けれどそれは、彼女だけの話。彼もそんな気持ちを持っているとは限らないのだ。
放課後休んでいる姿をいきなり許可もなく写真に撮られ、ましてやそれをプチコンテストに提出したいなんて我儘を言われて。
彼にとって、これは面倒事以外の何者でもないだろうなぁ。と、今更ながらに思うがもう遅い。手遅れである。
「桜庭くんにとっては面倒事に巻き込まれたって感じかもしれないんですけどね。すみません。」
あはは、なんて小さく笑みを零しながらそう呟いた。
申し訳なさと、でも隠しきれていない嬉しそうな笑み。そんな複雑な笑顔を表情に浮かべ彼の方に視線を向ける。

うる (プロフ) [2019年4月19日 23時] 10番目の返信 スマホ [違反報告]
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