あっすんよ……
「有難う」氷室は、よく分からないがそう言葉が口をついて出る。紡が云うならば______
「礼を言われる事なんて言ってないよー?」そう言う紡は楽しそうだった。そしておもむろに立ち上がり言う。「さてと、僕は行くねー?僕、そこまで(名前)君と親しくないしー」そうまるで自分はこの場にいない方が良いという様な言葉を吐いて踵を返した。 早いのう
ピッ、ピッと心音機が安定した音を出す。……まだ、目は覚める様子は全く無いが、安定してるよ、と与謝野は云う。「……ちょうど、一時間」……………………ですのう
「早く、目覚めてくれよ」そう呟く篠崎の姿は酷く不安定だった。その手は震えていて顔は青かった。
ピクリ、と(名前)の手が動いたかのように感じた。……いや、本当に動いた。それから、ツーと(名前)の頬から涙が伝った。相変わらず、目覚める気配は無いけれど。
手が動いた事に篠崎が少し安堵する。もう既に空には丸い月が出始めていた。
青々とした月が街を照らしていた。建物の影と夜の闇が同化し、目を凝らさなければ、見分けがつきにくい。氷室は、そんな光景がただ懐かしい、と思いながら持っていたナイフを指先で弄ぶようにクルクルまわした。
「なぁにしてるの氷室くん?」するとそんな中緩い声が響いた。其処には欠伸をしながら闇に溶け混む様な黒い外套を着込み、そして片手に刀と拳銃を持った紡が立っていた。「(名前)くん見てなくていいの…?」そう首を傾げて言う紡は少し不思議そうに氷室を見ていた。
「嗚呼、俺は居ない方がいいだろうから」氷室はそう云い、足元を眺めた。「此処は、な。俺と(名前)の因縁の場所だ」
「そう…」素っ気なく返してからぴょんっと塀から飛び降りる。「ふーん…此処で君の家族が殺されたの?」そう首を傾げて言う紡の瞳は紅く、血の様だった。ふわりと風が吹く。それに合わせて紡の周りに黒い靄が漂う。それだけで紡が生きている人間ではないとわかる。
ユーザ登録画面に移動