Snow

メッセージ一覧

やな (プロフ) [2018年6月23日 2時] [固定リンク] PCから [違反報告]

「あ、先輩……」
学校に忘れ物をした僕は、川沿いを走っていると 桜を眺める先輩を見つけた。
艶やかな黒髪が春の風に靡いて、こちらに向けられた視線は どうもハッキリとしている。
その視線と僕の視線が離れる事はなくて、先輩との距離は10mほどもあるのに1㎝ごとに小さく埋まって行った。
「後輩くんだ」
先輩はそう言って、微笑む。
春という 華やかな、晴れやかな、緩やかな季節に伴うような そんな笑みだった。
僕は少し近付いて、
「こ、こんにちは」
と言う。
たった一つの挨拶なのに、胸が内側から叩きつけているかのようにドクドクと激しい鼓動に揺れる。
「こんにちは」
先輩は、少し笑って返してくれた。
僕の入っている文化部の先輩は、少し不思議な人だ。携帯もゲームもやらないし、テレビだって見ない。
僕達にとっては 彼女がやっていない事全てが当たり前なのに、その当たり前は彼女にとって当たり前ではないようで。
でも、一つだけ、彼女が放課後する事がある。

やな (プロフ) [2018年7月9日 1時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

絵だ。
彼女は、いつも美術室の一番隅、窓側の席で絵を描いている。
去年の夏頃、ちょうど中学生になりたての頃、僕は彼女を見つけた。
白紙のキャンバスに描かれていく、その物の全て。陰影や美しさは、たった一本の鉛筆から生み出されることを初めて知ったような気もする。
「あ、鯉」
彼女は、その場でしゃがみ緩やかな川の流れに身を任せる鯉を指差した。
何本か束になって風に揺られる黒髪の隙間から、凛とした表情が見える。
あの日から、ずっとそうだ。
あの表情には、あの絵には まるで掃除機に吸い込まれたように__体ごと、強い風に背中を押されたように惹かれる何かがそこにはある。
日時や天気に恵まれなくても、ただ僕は 彼女の姿、そして描かれていく絵を見ていた。

やな (プロフ) [2018年7月9日 1時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

「春ってさ、怖いよね」
そう先輩が口にした。
僕には、そんな考えは浮かばないし まず春という季節はちっとも怖くない。逆に、怖い要素が見つかるのが不思議だ。
__先輩は、話し始める。
「みんな、桜しか見えない。ううん、見ないの。
だから桜以外の事なんて、誰も気にしないんだよ」
先輩は、僕に近付いてくる。
僕は、ただ先輩が目の前に来た時、ジッと視線を絡み合わせる事しかできなかった。
先輩は、確かに正しいことを言っている。
たとえ春に纏わる文化や食事があろうとも、たとえ春に大々的なニュースがあろうとも、それはあくまでも桜の次に目立つものだ。
僕らの〝春といえば〟は、桜しかない。
__まるで、僕らは、
「私達が知っている春には、きっと桜しかないから」
春には桜しかないような。
主役しかいないような、つまらない物語をたった二つの眼で創り上げてしまっている。
先輩の言ったこと全てが、例えば僕の友達の言葉だとしよう。そうしたら、お腹がよじれるほどゲラゲラ笑うだろう。
でも、先輩に言われた僕は
「そう、ですね」
本当にそうなんじゃないかなって。
本気で信じるしか、なくなってしまった。
何故なら、先輩の目は真剣で……決して揺るぎのない考えでしかなかったから。
「……私は、後輩くんの春の一番が」
ふんわりと春色に色づいていく頬が、彼女の印象をがらりと変えてしまうような効果をもたらす。
ゆっくりと川が流れ、時が進んだ。
「私であってほしいって願いたいけどな」
僕は、それと同時に 春の一番が風にのって来るように思えた。

やな (プロフ) [2018年7月9日 1時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

やな (プロフ) [2018年11月22日 3時] 4番目の返信 PCから [違反報告]

やな (プロフ) [2018年11月22日 3時] 5番目の返信 PCから [違反報告]

やな (プロフ) [2018年11月22日 3時] 6番目の返信 PCから [違反報告]

やな (プロフ) [2018年11月22日 3時] 7番目の返信 PCから [違反報告]

【__春
春の一番が】

やな (プロフ) [2018年11月22日 3時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]
メッセージ返信
メッセージの一覧に戻る
(C) COMMU