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炎の断罪者

ペンネグラタン (プロフ) [2019年6月9日 0時] [固定リンク] 携帯から [違反報告]

回廊を歩いていると、見るはずのない姿にウリエルが瞠目する。
「るしっ……」
言葉は相手の唇によって飲み込まれた。息を飲み、交わし合う二人。ウリエルは最初こそ驚いていたが、深くなっていく口付けに、次第に顔が蕩けていく。
その人物──ルシファーが、ウリエルの顎を支え、さらさらの髪に触れ、体が崩れないよう引き寄せる。
「ふぁ、ぁ……」
ルシファーに翻弄されていくウリエル。厳格なことで知られる炎の断罪者もルシファーの前では形なしだ。
力が入らず、ルシファーにすがることになってしまう。
「やめ、ろ……」
必死に突き放そうとするが、ルシファーが歪んだ笑みを浮かべる。
「本当にやめてほしいのか?」
その指がウリエルの唇に触れる。それに反応してウリエルの肩がぴくんと跳ねる。
触れられただけで、過敏に反応してしまう。けれど、それはこの隻眼の男に対してだけで……
ルシファーはウリエルの耳元に口を寄せ、軽く食んでから、息を吹き掛けるように囁く。
「早く俺のところに堕ちて来い……」
「っ……」
甘い声の誘惑。だが、さすがにそれに負けるわけにはいかなかった。堕天の烙印を押されていたとしても、ウリエルは四大天使のうちの一人なのだから。
ルシファーのように、神に背く道を彼は選べない。
ふるふると首を振った。それは駄目だ、と。ルシファーも予想していたのだろう。動揺はない。むしろ、予想通りの反応だった様子で、触れるだけの口付けをもう一度だけすると、ウリエルから離れた。
擦れ違い様に言い放つ。
「なら、俺から逃げきってみせろ」
振り向くと、ルシファーの姿は幻であったかのように消えていた。
けれど、あれは幻ではない。体が、耳が、唇が覚えている。彼の声と彼の感触を。
「ルシフェル……」
ついぞ呼んでやれなかった名前を口にする。
この名を愛しく思い、いつまでも引きずってしまうのも、罪だということはわかっている。
ルシファーは神に仇なした堕天使。ウリエルは天使の規律を守る番人。決して結ばれてはいけない。
口付けさえも、本当は許されない。けれど、ウリエルはルシファーを振り払うことなどできない。弱味を握られている、というのもあるが、それ以上に……
「お前との関係とは、何なのだろうな……ルシフェル」
ウリエルの呟きは空に溶けた。

(^ー^) (プロフ) [2019年6月9日 17時] 1番目の返信 携帯から [違反報告]

「ふー……」
炎の悪魔であるアモンだが、風呂はいいものだ、と思う。将軍と呼ばれるくらいの地位にはいるものの、駒使いのようなものだ。忙しくて仕方ない。
一日の汗を流すというのも、なかなか乙なものなのだ。
タオルで髪を拭いていると、部屋にルシファーが入ってくる。勝手知ったるといった感じで、アモンの部屋の冷蔵庫からグラスとワインを出す。
「いや、来るのはいいんだが、ノックくらいしろよな」
アモンが呆れたように言うが、ルシファーは聞いていない。
この傲慢の悪魔は、鍵をかけようとあの手この手でアモンの寝室に侵入してくる。ルシファーは天使時代からの友人であるし、ルシファー以外の曲者なら片手で伸せるから、アモンは部屋に鍵をかけるのをやめた。諦めたというのが正しいか。
それからはご覧の通りである。大体夜、風呂上がりの頃に来て、なんでもない顔でアモンの酒を我が物顔で飲む。アモンも呆れながら、ルシファーの向かいに座って、晩酌を楽しむ感じがいつものルーティンになっていた。
「……髪くらい拭いてやる」
「軍師さまが優しいことで」
アモンが手を止め、その言葉に甘えてやると、ルシファーはバスタオルごと、アモンを引き寄せた。
「んっ……」
熱を帯びた唇が重ねられるのも、アモンにはもはや慣れたことだ。胸の奥が膿んだように痛むが、拒絶はしない。ルシファーの傍にいると決めたあの日から、ルシファーを拒むなんて選択肢、アモンにはもうないのだ。
まだ湿り気のある自分の髪が首筋にひたりと触って、呻きが零れる。それさえ愛しむように、ルシファーがアモンに触れる。アモンの髪を軽く食んだ。
その姿はひどく官能を誘うものであるはずだが、アモンはひどく冷静で、美味くもないだろうに、やめろよ、と声をかける。
ルシファーはそこに一言だけ返す。
「お前は俺のものだ」
「そうだったな」
「今もそうだ。ウリエル」
呼ばれた名と、焦点の合っていない目に、アモンは嘆息する。
──所詮、俺はあいつの身代わりにすぎない。
それがアモンに強い諦めと冷静さを持たせているのだ。
アモンはウリエルに容姿が似ていた。重ねられるのが嫌で、髪を切ったり、髪型を変えたりしたが……今は傍にいない、どう足掻いても傍にいられないそいつの身代わりに、アモンはルシファーに抱かれる。
「だから俺から離れるな」
「……わかったよ、ルシフェル」
だから今日も諦めて、丁寧に名前を呼んでやる。

(^ー^) (プロフ) [2019年6月9日 17時] 2番目の返信 携帯から [違反報告]

城の広すぎる廊下をふらふらと歩く少年のような悪魔がいた。
「面倒くさい……なんでこんなに城でかいの……」
でかくなかったらむしろ城ではないと思うのだが、左目を包帯で隠したその人物には、広さが疎ましかった。
そんなふらふらしている肩を掴む者があった。その感覚にびくんと震え上がる。
「どうした? 様子がおかしいぞ、ベルフェゴール」
「……ぁ、ルシファーさん」
眠たげな眼差しで隻眼の悪魔を見上げる。頭がもやもやして、う、と唸ってしまう。
見ていたルシファーが異変に気づいた。ベルフェゴールが怠そうなのはいつものことなのだが、肌が熱く、火照っている。
「体調不良か?」
「そんなわけないでしょう。僕は怠惰の悪魔ですよ」
こんなのいつも通りです、と怠そうな眼差しで威張るが、威張るところではない。
何より、傲慢の悪魔であるルシファーが、虚勢に気づかないわけがない。
手首を掴むと、ひあっという喘ぎ声。そんなに乱暴にしたつもりはないが、怠惰をモットーにし、大抵のことはされるがままのベルフェゴールにしては妙な反応だった。
普段なら、無言で、抵抗なく、引っ張られるはずなのだ。だが、今日はベルフェゴールの様子がおかしい。恥ずかしがっている。
「どうした?」
ベルフェゴールは面倒くさそうな顔をしていたが、諦めたらしく、答える。
「どうやら……アスモダイさんから感覚鋭敏かけられた状態で逃げて、リリスさんに媚薬効果のある薬打たれた状態で逃げて……気力操作で媚薬の効果は抑えられるんですけど、感覚鋭敏厄介だなぁ……」
それはとんだ災難である。普段は何をやっても無表情のベルフェゴールだ。何かしらの反応を得たい変態悪魔に詰め寄られた結果のそれだろう。
気力操作という能力で、興奮作用は抑えているようだが、感覚鋭敏の効果はどうにもできないらしい。
感覚鋭敏の解除条件は性的な行いをすること。
国の宰相がいつまでもこんなではよくないだろう。ルシファーはベルフェゴールの顎を持ち上げ、唐突に口付けした。ベルフェゴールは驚いたように呻く。それが喘ぎに変わっていく。
感覚鋭敏は触覚だけでなく、他の五感も鋭敏にする。ベルフェゴールは全神経でルシファーの口付けを味わう。香り、舌の感触、水音……全てが今ばかりは魅惑的で、ベルフェゴールはいつしかルシファーに体を委ねていた。

(^ー^) (プロフ) [2019年6月9日 18時] 3番目の返信 携帯から [違反報告]

会ったのは、天使時代に一度きりだった。会ったというのもおかしなくらい、曖昧な対面だった。
「審判から逃げ出す不届きな輩が出ないよう、見張りを頼みます」
審判の天使、ラグエルは集まった複数人の天使にそう言った。その声をアモンはよく覚えている。
審判という重要な仕事を任せられるだけあって、ラグエルは潔癖で几帳面だった。天使一人一人の特徴や性格を事前に調べ、一人一人に対して注意事項を述べていたことにアモンは感心したものだ。
「……アモン」
そう名を呼ばれたとき、どくりと胸が高鳴った気がした。ルシフェルやウリエル、ミカエルにいつも呼ばれているのに、なんだろう、慣れない感覚がした。
もちろん、ラグエルは上級の天使であるから、すぐに返事をした。
「君のことは主の側近であるルシフェルからよく聞いている。ただ、立場に甘えて怠慢のないように」
「はい」
ラグエルはその頃から、他人にも厳しかった。
それが変わったと聞いたのは、アモンがルシファーと共に堕天して、千年が経った頃。人間が魔女裁判のついでに天使の中でも堕天の疑いがある者に烙印を押したと聞いた。人間は愚かだとは常日頃から思っていたが、堕天とされた天使の中にラグエルの名があったことに驚いた。
ラグエルはウリエルに負けず劣らずの潔癖で、実際潔白だったのだが、烙印を押され、煉獄に閉じ込められてから、偏屈になったと聞いた。それをアモンは少し、悲しく思っていた。
変わり果てた彼を目撃したのは偶然だった。マモンと連絡を取るため人界に向かうと、聞き覚えのある声がしたのだ。
「……ラグエル?」
「っ、お前は、アモン……」
悪魔でさえ「君」と呼んでいた人物が、「お前」とは。それに髪も綺麗な金髪が黒く染まり、見た目も窶れていた。骨と皮ばかりの腕が、痛々しかった。
──堕天の烙印を押された者はその罪を認めぬ限り、烙印に侵され続ける──
ルシファーから、そのことは聞いていた。
こんなに変わってしまうなんて、とアモンは胸を痛めた。それだけなら何もしなかったのだが。
「アモン……」
以前と変わらぬはっきりとした声で名を呼ばれ、アモンはいても立ってもいられなかった。
ラグエルに押された烙印の魔力を吸い取ろう、とアモンはラグエルの体を引き寄せ、口付けた。
「何す、あっ……」
ラグエルが弱々しく抵抗してくるのを押さえながら、アモンはラグエルを貪り、取り憑いた魔力を吸った。

(^ー^) (プロフ) [2019年7月19日 23時] 4番目の返信 携帯から [違反報告]
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