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ミアカ

ペンネグラタン (プロフ) [2018年6月23日 15時] [固定リンク] 携帯から [違反報告]

ぼくは生まれたときから軍に所属することが決まっていた。父様と母様がそう望んだからだ。
ぼくはこの家の一人娘だった。軍国主義者の父様と母様は子どもが生まれたら徴兵させようと決めていたのだ。
ただ、問題だったのが、生まれたぼくが女だったこと。世の中の風潮で女が徴兵されるのはあまり良くないというのがあったため、女であるぼくを徴兵するのを父様も母様も世間体を気にして、できなかった。
「それなら、男として育ててしまえ」
そうしてぼくは男であるかのように育てられ、女の子のような服を着ることを禁じられ、女の子が花よ蝶よと育てられる傍ら、徴兵されてもいいようにと様々な訓練を受けた。
おそらく、幼い頃からの洗脳のせいだろうと言われるが、ぼくは訓練は嫌いではなかった。殴り合いの白兵戦だって嫌いじゃなかったし、拳銃その他諸々武器の扱いを覚えるのはかっこいいと思えて、飲み込みよく覚えた。
きちんとこなせば、父様と母様が褒めてくれたからかもしれない。女であるぼくに価値はないが、兵役のために精進するぼくには価値があるのだと認識した。
幼心に認められたくて頑張ったのだ。故に、喧嘩を吹っ掛けてくる男がいても片手で伸せるくらいの体術を身につけた。
軍に入るには体術だけではいけない。ある程度の知識も必要だった。だからぼくは軍学校に通い、いつも成績は上から五本指に入るくらいをキープしていた。もちろん、軍学校には男として入学していた。
他の男子から見ると、ぼくは女であるため華奢に見えるから馬鹿にしてくるやつが多かった。そんなやつらを顔色一つ変えず伸す日常。次第にぼくを馬鹿にするやつはいなくなったし、軍学校での成績を聞いて、父様も母様も喜んでくれた。父様と母様がぼくを認めてくれる。それだけで価値があるというものだ。
女であることをその頃には既に捨てていた。だって、女である自分には価値がなく、父様や母様に認めてもらえないのだから、自分が女でいることに意味なんて見出だせなかった。
そうしていくうちに、ぼくは自然に男のように振る舞うようになって、誰もぼくを女だと思わなくなった。そのまま軍学校を卒業して、やがて、男として、晴れて軍属になることが決定した。そのとき、たいそう父様と母様は喜んでくれた。
だからぼくは幸せだった。

(^ー^) (プロフ) [2018年7月4日 23時] 1番目の返信 携帯から [違反報告]

ぼくが他の男と違ったのは、軍属を目指していながら、医学に興味があったことだろう。軍人たるもの、怪我の一つや二つに対処できなくてはやっていけないだろう、というところから派生して学んだ学問だったが、これがなかなかぼくの性に合っていたらしく、ぼくは暇があると医学書を読んでいた。
もちろん他の訓練や勉学を怠ることはない。
軍の仕組みについてはまだよく理解できていなかったが、前線に出て戦う部隊を補助する援護班やら救護班やらが存在することはわかっていた。軍属になったら、どんな部隊に所属になるのかわからないのだ。多方面の知識を得ていて損はないだろう、とぼくは医学書に読み耽った。
軍属になったばかりのぼくは、まだ階級が低いからだろう、前線を任されることが多かった。まあ、前線であればあるほど戦果を挙げやすい。ぼくは様々な戦果を挙げ、どんどんと階級を上げていった。階級が上がるたび、父様と母様が喜んだのは言うまでもないことだろう。お国に恩返しができているのだ、と語っていた。果たして父様と母様に一体国にどんな恩があるのかはわからなかったが、別にそれはぼくには関係ないだろう。ぼくの存在価値は父様と母様を喜ばせるため、軍属し、戦果を挙げ、階級を上げていくことにある。ぼくが考えるべきは、作戦をどうやって成功させ、国に恩返しをするか、父様と母様を喜ばせるかの一点に限るのだ。
そうして、ぼくは大尉という階級まで上り詰めた。尉官階級ではまだ前線の仕事が多い。もう一つ階級を上げれば、佐官。佐官になると尉官階級までほど前線に出ることはなくなるが、今度は作戦指揮を採るという大任を任せられることになる。それこそ国への最大奉仕だ、と父様と母様は語っていた。だからぼくは頑張って、佐官階級になれるよう、前線で張り切っていた、そのときだ。
ぼくが負傷し、その治療の最中で、ぼくが男ではなく、女だとばれ、軍より虚偽を裁かれたのは。
歓迎されることではないが、我が国の軍では、女性でも兵役ができる。だから、ぼくが兵役をしていること自体に問題はない。
問題はぼくが男であると軍に虚偽の報告をしていたことだった。
上層部では様々な意見が飛び交ったらしい。その上でぼくに下された罰は、その後の昇進の取り消しと、救護班への異動命令だった。

(^ー^) (プロフ) [2018年7月5日 0時] 2番目の返信 携帯から [違反報告]

救護班への異動命令は悪くなかった。救護班は基本的に女性が所属する部署だ。ただ、前線で戦ってきたこれまでに比べたら、戦果というものはないに等しい。
それよりも問題になったのは昇進の取り消しであった。
ぼくは大尉止まりになる、という決定。
お国が決めたことなのだから、一国民にしか過ぎない自分には反発のしようがなかった。
危惧したのは、父様と母様のことだ。父様と母様はぼくが男として戦場で活躍し、戦果を挙げ、お国に奉公することを望んでいた。
そして、父様と母様にとって、女であるぼくには価値がない。
そのことが、ぼくの心を揺さぶった。
ああ、価値のなくなってしまったぼくはどのように父様と母様に顔向けしたらいいのだろう。
そう悩んで家に帰ると、ただいまの一つも吐く前に、父様に顔を殴られた。もちろん平手などという生温い処置ではない。握り拳だ。
男である父様の力は強く、こうも唐突に暴力を振るわれることを予期していなかったぼくは口の中を盛大に噛んで、血反吐を吐く羽目になった。どうやら、国からの通達は、父様や母様の元にも届いていたらしい。……問答無用だった。父様は無表情でぼくを殴った。顔だけではない。腹を殴った。母様は同じ女だからか、顔を殴ることはせず、けれど執拗にぼくの腹を殴り付けた。
やがて下腹部に損傷をきたしたらしく、自分の股の間から何かぬらりとしたものが溢れるのがわかった。それは着ていた服に染み、赤く染めた。血である。月に一度の生理現象とは違い、その血は止まらなかった。だが、父様も母様もそれには気づかないようで、ぼくを殴り続けた。下腹部が痛い。これまで感じたことのない痛みだった。月に一度の生理現象でも、ここまで痛むことはない。そのことに異常を感じながらも、父様と母様の暴挙を止めることはしなかった。わかっていたことだ。父様と母様にとって、女であるぼくに価値などないのだ。そして、昇進の話もなくなった。軍人としての価値すら失ったぼくは、ぼろ雑巾とそう変わらない価値なのだ。
ぼくは殴られるまま、けれどやがて痛みに耐えられなくなって、倒れ伏した。股から血が流れて、赤い池を作っていく。これはまずいのではないか、と思ったときにはもう遅く、母様に鈍器で急所を殴られると同時、ぼくは意識を失った。

(^ー^) (プロフ) [2018年7月5日 0時] 3番目の返信 携帯から [違反報告]

次に目を覚ましたのは、度々世話になった、軍の救護室。ベッドの上にぼくは横たわり、点滴と輸血を受けていた。よほど危ない状態だったらしいのか、酸素マスクに、心電図までつけられていた。心電図の規則正しい音が鼓膜を震わせる。
ぼくはまず何を言うでもなく、溜め息をこぼした。手は自然に下腹部に向かう。……言い様の知れぬ喪失感がそこにあったのだ。
ぼくは女でなくなった、と直感的に悟っていた。だが、だからといって、父様や母様にとって、ぼくの存在価値があるわけでもない。
ぼくは生きる目的を見失った、脱け殻になったのだ。
その実感を噛みしめていると、カーテンから覗く顔があった。大尉の自分からすると上階級の人物であるため、慌てて敬礼をしようとしたのだが、体がいくつもの管に繋がれて自由が利かず、上官が「そのままで結構ですよ」と有難い言葉を下さり、ぼくはその上官──氷色の髪と瞳が印象的な東暁大佐を見つめた。
何故大佐がここに来たのかわからず、混乱していると、大佐はぼくを労るように見つめ、「災難でしたね」と告げた。
「医者の診断によると、貴女の体──特に下腹部は内部で過度の損傷を受け……女性としての機能を失ったそうです」
なんとなく察してはいたが、他者より告げられると、やはり打撃は大きい。
ぼくは女として大切なものを失ったのだ……
では、男でもなく、女でもないぼくは、果たしてこれからどう生きたらいいのだろうか、と虚ろな目で中空を見上げた。
東暁大佐が続ける。
「貴女をこのような状態にまで陥れた貴女のご両親は、勝手ながら僕の方で処断させていただきました。貴女の容態とこれまでの経緯を鑑みた結果、全会一致でご両親は極刑となりました。貴女が眠っている間にこんな重要事を進めてしまい、誠に申し訳ございません」
「……いえ」
東暁大佐の謝罪に、ぼくは柵から解放されたことを知った。だが、今まで柵の中で生きてきたぼくは、一体これからどうやって生きていけばいいのかわからなかった。
そんなぼくに、大佐は告げる。
「実はですね、貴女を救護班に抜擢したのは僕なのです。軍学校のとき、医学に興味を持っていたという噂を小耳に挟みまして。……医学に携わる救護班なら、貴女も新しい生き方を見つけられるのではないでしょうか?」
そんな大佐の言葉に、
ぼくは、
私は、
涙を溢れさせた。

(^ー^) (プロフ) [2018年7月5日 0時] 4番目の返信 携帯から [違反報告]

私はミアカ大尉。
大尉であるが、今は大尉という響きより、救護班長という身分に誇りを持っている。
「班長、また暁さんが怪我を」
「またですか。わかりました。では消毒液をたっぷり塗りたくって差し上げてください」
「うわあ」
ちょっと毒舌な救護班のリーダー。東暁大佐が用意してくれた私の居場所が、私にとても合っているような気がして、毎日気が楽だ。
「ぼく」として頑張らなければならなかったときより遥かに充実した軍属ライフを送っている。
薄情なものだ。父様、母様、と呼び慕っていた存在が、極刑により死んだというのに、父様、母様という柵がなくなったことなど、今の私にとって、露ほどの憂いにもならなかった。
ただ、「ぼく」であった頃の自分を捨てられていない。
例えば、救護室で安静を取っている患者に暗殺者なんかが来たとき。私は「ぼく」に戻って、迷わず武器を取る。
結局私は軍人であり、けれど救護班という新たな居場所で、新たな「ぼく」というものの価値を見出だしたのだ。
医者や看護師は命を救うために存在する。殺し合うための軍隊において、生かすために存在する救護班というのは異端だ。
だが、命を救うことは、ただそれだけで価値になると救護班長になった私は知った。価値を失った私は新たな価値によって、生きる意味を得たのだ。
そして、人の命を救うことは、人の命を守ることに繋がる。
だから、私は暗殺者なんかが患者に手を出そうとするなら、容赦なく「ぼく」に戻る。患者を守るために。
そうやって生きていくことに決めた。
私は無意識に下腹部を触る。失われた女性の生理器官。それにより、私は女でありながら、命を生み出すことのできない存在と成り果ててしまった。
だが、それで私の存在価値、あるいは理由が消えることはない。そう信じている。
生み出せない分、命を救い、守れたなら、いくつ奪われたかわからないあったかもしれない未来への命の贖罪になると思うから。
「救護班長ー、お父さん……千秋少将が三日もう寝ていないんです」
「ふむ、わかりました」
なんてことない苦情にも対処する。軍人の健康管理も救護班の仕事のうちだろう。少将ともなれば、倒れられては困る。
私は席を立ち、少将の元へ向かい、口八丁で少将を休憩に導いた。
最初は軍人として戦果を挙げることばかりに執着していて見えなかったけれど、何も前線で戦うばかりが軍人じゃないのだと吹っ切って私は生きていく。

(^ー^) (プロフ) [2018年7月5日 1時] 5番目の返信 携帯から [違反報告]

その身を赤く染めても

(^ー^) (プロフ) [2019年3月1日 17時] 6番目の返信 携帯から [違反報告]
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