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トウル・ワトソン

ペンネグラタン (プロフ) [2018年5月6日 11時] [固定リンク] 携帯から [違反報告]

幼なじみというには奇妙な関係の女の子がいた。
その子は僕の二歳年下で名前はアイリッシュ・ワーグナーといった。幼い女の子によくありがちな自分の名前を一人称にするという女の子だった以外は取り立てて際立った特徴はなかったと思う。
ただアイリッシュは言いにくいのか、「アイリーン」という愛称を名乗っていた。
僕の家とアイリーンの家は親戚同士。所謂、いとこというやつだ。親が兄弟、なんだっけ。深いことは聞いていない。アイリーンの家のことを父さんたちは話したがらなかった。
だからアイリーンの家の事情なんて知りようがなく、僕はアイリーンの様子や状況から推測した程度のことしか言えない。
僕とアイリーンはよく一緒に遊んでいた。遊んでいたといっても、僕は外で暴れ回ってはしゃぐようなタイプではなかったため、俗に言う女の子遊びか勉強だった。明るく快活で運動神経のよさそうなアイリーンはきっと外で遊ぶ方が好きだっただろうけれど、僕に合わせてくれて、家の中でできる遊びや、勉強を一緒にした。
あまり疑問に抱かないようにしてはいたけれど、僕は薄々勘づいていた。アイリーンがいる現状のおかしさに。
アイリーンは確かに僕の従妹で、幼なじみだ。けれど、アイリーンの家と僕の家はそんなに近所ではない。
……この意味が、わかるだろうか?
大抵幼なじみなんてものは近所に住んでいるものだ。それか事情があって、親戚一同で暮らしているか。僕らはそのどちらでもない。
僕とアイリーンの家は電車三駅分くらいは離れている。いくら都会だったとしてもそれは近いとは言えない。
それなら何故僕とアイリーンは同じ時間を多く過ごしていたか。
僕の両親は多くを語らなかったけれど、アイリーンの両親はアイリーンを育てる姿勢がない。つまりは育児放棄──ネグレクトをしている。
今日日、珍しくもない話だ。アイリーンの両親は共働きだし、いい託児所がなかったのかもしれない。けれど、アイリーンの面倒を一切見ていないのはすぐにわかった。アイリーンは朝から晩まで僕の家にいるのだ。
アイリーンは朝昼晩のご飯をうちで食べていく。きっと、アイリーンの両親はアイリーンのためには何も用意していないから。両親のお人好しというには、それは毎回すぎた。だから僕はそういう結論に至った。
何不自由なく育ったからこそ、僕にはわかった。
アイリーンは親に愛されていない。

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 21時] 1番目の返信 携帯から [違反報告]

そして、愛されようとして必死な女の子だ。
僕とそう年は離れていないから、お互い、呼び捨てで呼んでいた名前も、いつの間にか「トウルちゃん」になっていた。「トウルさん」とか年齢不相応な敬称をつけることはなかったけれど、親に何か言われたのか、彼女は年上の人を呼び捨てにすることはあまりなかった。
取り立てて際立った特徴はない、といったが、一つだけ、彼女にはこの上なく不自然な特徴があった。
手足につけられた鋼鉄の枷だ。
枷といっても、漫画なんかで見るように、鎖や鉄球がついているわけではなく、ただ未就学児の女の子がするにはごつごつした印象の輪だった。
彼女は両手両足にそれをつけてごくごく自然に暮らしているが、それはただ事ではなかった。
一度、お昼寝をしたときにアイリーンの手を取ってみたのだが、これがなかなか重労働。はっきり言って重い。アイリーンは平均より小さい体をしているから、手だけが重いなんてきてれつなことは普通ない。重いのは手首についた枷だ。
そんな枷をつけられて、僕と全く変わらない日常を送っているなんて……常人離れしている。
けれど、僕がそれを知ってアイリーンに抱いたのは恐怖ではない。同情──憐れみと表現するのが正しいか。
アイリーンに聞いてみれば、件の枷は親の指示により、常につけているのだという。しかも一時でも外すと親はすぐにわかって、より重い重りに変えるのだとか。重りである上にGPSまで備えているらしい。無駄にハイテクだと思ったのをよく覚えている。
アイリーンはまだ幼いから、親に従順だった。普段目をかけてもらえないから「いい子」にしていれば、愛される、そう思っている。信じている。
けれど、大人はそんな子供の夢を簡単に踏みにじる。僕がアイリーンの両親をネグレクトと断じたのは、アイリーンの両親の態度だ。
いつもいつもアイリーンを僕の両親が預かっているのに、感謝の一つもない。それはアイリーンが愛されていない証拠であると同時、あからさまな育児放棄の表明だった。
育児放棄は世間体で言ったら、良くないに決まっている。だが、アイリーンを遠ざけるにも理由がある気がした。それを僕は知っている気がした。
アイリーンの手首足首につけられた枷。それが証拠なのではないだろうか。
平均的な子供が持ち上げるだけで四苦八苦するようなものを四つも抱えて平然と動き回る……そんなアイリーンが恐ろしくて遠ざけているのではないか、と。

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 21時] 2番目の返信 携帯から [違反報告]

僕が学校に通うようになってから、アイリーンはいつも通り、うちでご飯を食べる生活をしていた。
一度父さんを説得して、アイリーンのうちに行ったことがある。そのときにアイリーンの家の冷蔵庫を覗いたが……そこにはアルコールが置かれているばかりで、食べ物なんて入っていなかった。
アイリーンがいない前提の生活空間が成されていた。
アイリーンの部屋もない。いや、正確にはアイリーンの部屋はあったが……アイリーンが「何もなくてごめんね」と照れ笑いながら言った通り、そこには何もなかった。ただフローリングの床が剥き出しであるだけ。カーペットすら敷かれていない。そこに気持ちばかりの毛布が一枚あるだけで、そこはアイリーンの寝室なのだという。
アイリーンは外に連れていってもらったこともなく、当然何かを買ってもらったこともない。僕は女の子だから、一概に「女の子らしい」の定義を示せないけれど、普通、女の子の部屋と言ったら、何かしら物が置かれているのではないだろうか。例えば、可愛いぬいぐるみだったり、例えば、お気に入りのキャラクターグッズだったり。
アイリーンの部屋は殺風景の一言に尽きた。箪笥の一つもない。机もベッドもない。アイリーンの特徴が反映されていない部屋だった。人柄も何もわからない。
アイリーンが僕のように学校に入って、友達を作って、家に招くなんて事態になったら、そこまでならなくても、自分の部屋の話題なんかが出たら、アイリーンは困るのではないか? アイリーン持ち前の明るさでその場を乗り切ったとしても、果たしてみんながアイリーンに抱く印象はどうなる? ネグレクトの事実が露呈するのではないか?
アイリーンの明るく朗らかで取っつきやすい性格は、どう考えても女の子らしくお喋りをすることになるであろうことは想像がついた。沈黙することができないわけではないけれど、僕が集中しているとき以外は、アイリーンは大抵喋り倒している。
そんなアイリーンが、学校に入学したら、とても「無口キャラ」になるとは思えなかった。どちらかというと、喋ってみんなを先導していくタイプの子になるんじゃないか、と思った。僕より世渡り上手そうだし。
そんなアイリーンが学校に入った未来を想像して、楽しいような不安なような感覚に囚われていた僕だが、その懸念や想像は実現することはなかった。
学校入学前年、アイリッシュ・ワーグナーは水難事故で死んだ。

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 22時] 3番目の返信 携帯から [違反報告]

夏休み前のことというには夏休みは一月以上先だったが、終業式のとき水難事故に気をつけるように、と引き合いに出されたその事件は間違いなく、アイリッシュ・ワーグナーが死亡したものだった。
アイリーンはその日、珍しく親に面倒を見てもらえることになったらしく、僕に報告するときも、興奮しきっていた。家族で滝を見に行って、バーベキューをするんだ。初めての家族旅行だ、と意気込んでいたのをよく覚えている。その瞳のきらきらを一層深くして、お父さんとお母さんがアイリーンのためにお料理してくれるんだよ!?と語っていた。バーベキューはただ食材を焼くだけの作業だと思っていたから、料理と呼べるかどうかは怪しいと思ったが、アイリーンがせっかく楽しみにしているのだ。水を射すこともないだろう、と黙っていた。
ただ、この梅雨の時期に晴れの予報とはいえ、水辺とは……たぶん、僕は夏休み前の教師と同じことを考えた。普段アイリーンをほったらかしにしている彼女の両親が突然動いたことに何か不穏を感じたのかもしれない。
「滝っていうのは水の竜って書くんだよ」
僕なりに忠告してみた。「竜って強そうだね!」というアイリーンの天然な返しにはなんとも言えなかったけど。
そう、滝は水の竜。だから、ただ事ではない強さを持っている。強そうなのではなく、強いのだ。
アイリーンがそのことを理解していたかは、今更確認のしようがない。本人しか知らないことだし、その本人は死んでいる。死人に口なしだ。
両親は水遊びをするアイリーンから一瞬目を離した隙に彼女がいなくなった、と証言し、警察と消防に捜索願いを出した。目を離すとは、ネグレクト気質のワーグナー夫妻らしい。けれど、その証言に僕は違和感を抱いた。
ふと思い出したのは、アイリーンが肌身離さず身につけていた、四つの枷。
あれから少しずつ重くされていったらしいから、激流の水辺で遊んでいても、そう簡単には流されないと思うのだが……
けれど、たかがぺーぺー学生の言うことだ。警察も取り合ってくれないにちがいない。
僕がそう諦めて、アイリーンが見つかることを祈っていたところ、捜索開始から一週間、「娘さんの生きている可能性は限りなく0に近いです」という警察の一言を待っていたかのように、ワーグナー夫妻はアイリッシュ・ワーグナーの死亡届を役所に提出した。
アイリーンの葬儀は身内だけで執り行われ、マスコミを二、三日賑わせて終わった。
呆気ない女の子の死だった

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 22時] 4番目の返信 携帯から [違反報告]

アイリーンの死は、まだ幼かった僕には衝撃的な出来事であったが、あまりにも冷めきったワーグナー夫妻の対応に、僕は涙の一つもこぼしてやることができなかった。
アイリーンは死んでいないのかもしれない、と涙の出ない言い訳を考えた。その可能性もあり得た。
警察が調査したところ、滝から落ちた先にある大岩の先端にルミノール反応……つまり血がついた形跡があったという。
水で流され、DNAなどまでは調べきれなかったらしいが、アイリーンがぶつけたのかもしれないという可能性に賭けて、その周辺を重点的に捜索したが、見つからなかったという。
僕は思った。あの重りだらけの体では、流されるより沈む可能性の方が高いのではないか、と。流された可能性はそれこそ限りなく0に近い。0ではないが、怪我を負ったのなら、そこに沈む可能性の方が高いのではないか、と考えたのだ。
しかし、警察の捜査も虚しく、アイリーンがそこから見つかることはなかった。
……ここから、一つの仮説を立てる。「アイリッシュ・ワーグナーが生きている可能性」だ。
もし、仮に、アイリーンが大岩で怪我をして、それを通りすがりの人物が気づいてアイリーンを引き揚げて保護したのだとしたら。手当てをしてくれたのだとしたら。
そうしてアイリーンが生き延びている可能性を僕らは完全には否定できない。そりゃ、アイリーンは名前も容姿も公表されて、マスコミに取り上げられてさんざんっぱら騒がれているから、保護したなら出てくるだろう、という意見はわかる。
だがもし、そのアイリーンを保護した人間が世間様に後ろ暗いところのある人間だったとしたら? 警察に関わりを持つことを忌む類の人間だったとしたら?
荒唐無稽な話かもしれない。まあ、僕の苗字と同じ登場人物が出てくる小説に肖るわけではないが、あり得る全ての可能性を潰して、それがどんなに途方もなく、荒唐無稽でも最後に残ったそれこそが真実なのではなかろうか。
僕は無意識かもしれないけれど、それを真実だと信じた。
だから葬式以外ではアイリーンの遺影なんかに手を合わせなかった。
彼女はまだどこかで生きていて、元気に走り回って、そしていつかまた、あの快活な笑顔を見せて僕の前に現れるんじゃないかと、淡くても僕は希望を抱いて過ごした。

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 23時] 5番目の返信 携帯から [違反報告]

それから七年が過ぎた。アイリーンが生きていたなら、今年13歳になるはずだ。
僕は15歳。上の学校に行くための試験勉強に追われる年になった。
僕が信じていたそれは、唐突に訪れた。
僕はそこそこ上の学校を目指すために、本屋で見つけた面白そうな参考書に気を取られていた。買ったのだから、気兼ねなく開けて中を見てもよかったのだが、最後のページを読み終えるまで家に帰らない自分が想像できて、親に心配はかけまいと急ぎ足で家路に着いた。ただ、ちらりと本屋で読んだ内容の続きが気になって仕方なくて、僕の集中は本と現実との境であやふやになっていた。
足早に帰途に着く僕は、周囲に目がいっていなかった。だが、それは今思うと運命とか天恵とか、非科学的だけれど、そういった巡り合わせだったんじゃないかって思う。
何故なら──
僕は細路地から出てきた女の子と衝突した。それはもう派手にこけたし、女の子はきゃ、と女の子らしい悲鳴を上げていた。女の子はぬりかべなんじゃないか、と思えるほど体躯に似合わぬずっしりとした佇まいでその場に立っていたが。
「ご、ごめんなさい私、人を探してて周りちゃんと見てなくて……って……」
「いてて……あれ?」
普通このパターンで弾き飛ばされるのは女の子の方だろうと思い、弾き飛ばされた我が身を情けなく思って謝罪の一つでもしようと顔を上げ、その女の子と目が合い、固まる。
そこにあったのは、七年前から変わらないきらきらした輝きを宿す青い瞳、ボブカットのベージュの髪。太陽光の影響か金色に透けて綺麗だ。年齢から考えると平均より少し小さいかな、と思える背丈の彼女は、見間違えようがない姿、聞き違えようがない声をしていた。
その小さな唇が、僕を瞳に映して、信じられないといったような声音で紡ぐ。
「トウルちゃん……?」
僕をちゃん付けで呼ぶ人間なんて一人しかいない。線が細く華奢なのは認めるが、僕は男だ。大抵くん付けで呼ばれる。(3レス目のは誤植です。正しくは女の子ではないから、です)
懐かしいその呼び声は、紛れもなく、
「アイリーン……」
僕は立ち上がり、彼女に抱きつきに行った。彼女も僕に抱きつきたいだろうけれど、彼女から抱きつかれた場合、僕はまた地面を転がる羽目になるだろうから、予防線を張って、自分からいった。
「トウルちゃんっ……! 会いたかったよぉ」
七年の時を経て、成長した彼女と僕はようやく再会を果たした。泣き止ませるのが大変だったけど

(^ー^) (プロフ) [2018年5月6日 23時] 6番目の返信 携帯から [違反報告]

それから、大学院を出るまでは普通のなんでもない日々だった。
そう、忘れもしない、26歳のあの日までは。
*
アイリーンは高校を卒業するなり、またどこへとも言わずに離れていった。僕への執着が薄れたわけではないのは知っている。「お別れだね」って言ったときの彼女の瞳は寂しそうだったから。ただ、彼女はこう言った。「私には行かなきゃならないところがあるから」と。
自分をアイリーンと呼ぶ癖がなくなっていたから、僕はアイリーンについて何も心配することはなかった。アイリーンはまあ極端に頭がいいわけではないが、器量はいいので、どこに行っても心配はないだろう、という気持ちで見送った。保護者みたいだな、と笑ったのを覚えている。
*
さて僕はといえば、新しい学問として確立された「生命学」というのに興味を持って、いずれ研究員になろうと凡人なりの努力を重ね、無事に大学院を卒業したわけだが。
問題は26歳のとき。研究室の行き来ばかりだったので、季節やら天気やら気にする余裕がなかったので、他のことは覚えていない。ただ、その日、僕の運命が決まったといっても過言ではない出来事が起こったのは確かだ。
その日は世界初の生命学研究室の設立式典だった。室長は生命学の先駆けとして知らぬ者のいないエリサ・クリスティ博士。確か、世界で初めて、一から人工生命体を作った人だ。彼女の造ったピンク色の猫は世界中に驚きを呼んだのにちがいない。
生命学研究室の室長に彼女以上に相応しい人間はいないだろう、と式典に参加した研究員たちは皆一様に拍手を贈った。
しかし、そこからが問題だった。
一研究室の設立祝いにこぞって研究員が集まったのには理由がある。それはその式典中に、クリスティ室長より、参加した研究員たちの中から助手を決めるという一大イベントがあったからだ。
偉大なるクリスティ博士の助手とは、生命学の研究員としてこの上ない誉。腕に覚えのある者が参加しないわけがなかった。
逸材揃いの中に僕がぽつんと座っていたのは、単なる興味だった。クリスティ博士の顔を拝める機会なんて滅多にないのだから、自分たちの研究の頂点に立つ人の顔くらい見ておこう、と物見遊山くらいな感覚だったのだ。お気楽だった。大学院をやっとこさ出たばかりの新人が選ばれるわけないだろう。そうタカを括っていたとも言える。
だが、クリスティ博士は大方の予想を裏切り──僕の肩を叩いた。

(^ー^) (プロフ) [2018年6月20日 21時] 7番目の返信 携帯から [違反報告]

「君がワトソンくんだな?」
「は、はい」
咄嗟に肯定してしまったのが、僕の運命を定めたといっても過言ではないだろう。
僕は室長助手というひよっこ研究員には分不相応な地位になったのである。
当然、周囲からの妬み嫉みは物凄かった。書類仕事をさりげなく増やされるわ、室長のスケジュールにブッキングが生じるわ、陰口を堂々と叩かれるわ……散々だった。
僕のそんな散々な日常に拍車をかけたのは、助手にど素人を選ぶエリサ・クリスティという研究者の破天荒さだった。
月に一度、定例で国との会合があるし、国からよくよく呼び出される。だが室長の態度と来たら……国は大事なクライアントなのに、ふてぶてしい態度で、首相に向かって「用はなんだ?」「わざわざ呼び出すくらいなんだから大した用なんだろうな?」などと大層傲慢に、そしてタメ口で問う。本人曰く、「国なんかとの会合のために削られる研究時間が惜しい」とのことだった。エリサ・クリスティにとって、研究>>>>>>>>>>>>>>>>>国くらいの扱いらしい。どれだけ彼女が研究馬鹿なのか思い知らされた。
しかも、室長は極秘裏に国から依頼された生体兵器の開発を三度も失敗し、失敗したにも拘らず、国にああだこうだとダメ出しをしてなんだかんだで国を言いくるめる。おかげで胃痛に苛まれる毎日を送っていた。
だが、研究となると一番熱心なのは室長で、室長は寝る間も惜しんで研究に励んでいる。半分趣味だが、きちんと仕事として。
研究室に払われる給料は研究の成果次第となっている。その成果を出すために働いていると言われたら、何も言えなくなってしまうではないか。
だが、さすがに五日連続徹夜でろくな食事も摂らない室長に家に帰ってくださいと懇願したところ、家に帰る足がないと宣った。おかげさまで僕の初任給は車代に吹っ飛んだ。それで室長が倒れないなら安いものか、とも思った。室長の研究馬鹿に諦めを抱きつつあったのだと思う。
かれこれ二年、なんだかんだあったが、僕は陰湿ないじめに耐え、上司の横暴に耐え、気づけば室長に次ぐ仕事馬鹿になっていた。

(^ー^) (プロフ) [2018年6月22日 22時] 8番目の返信 携帯から [違反報告]

紫露草 序章

(^ー^) (プロフ) [2019年3月1日 17時] 9番目の返信 携帯から [違反報告]
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