専用 - 貴族と奴 隷の町メイズ

街で評判の道化師がいると聞き、それを雇ってみようか。と、思い立ったのは、シャルル・ベルベットの気まぐれに他ならない。
目に入る手入れを欠かさない髪を己の手でかき上げながら、その道化師とやらの個人情報を手にしたシャルルは、嘆息した。
「随分と幼い道化師だな。」
その呟きはちくりとした嘲りがあった。しかし、この少年は奴隷でありながら、人を笑わせようとするのだから、ただ愚かなだけの弱者ではないのかもしれない。ともシャルルは思う。
愚か者ではなく、大馬鹿者だ。立派な道化に違いない。
そして、その少年を雇おうとする自分は酔狂な人間なのだろう。
もし、万が一にも彼の道化に自分が唸らされるとするならば、高い褒美を与えてもいい。
シャルル・ベルベットは、貴族ではあるが、奴隷だからと褒美をケチるような人ではない。
正しく奴隷を人間だと認めながら、見下しているのだ。故に、人の努力は無下にはしないシャルルは奴隷であれど、その者の努力だけは買うのである。
「だがまあ、やれるものならば、だがな。」
そこまで期待しないままに、腰を上げた。道化師とやらの前に立つ。
「さて。お前がアリスタルフ・ゲオルギエフスキーだな？ 俺はシャルル・ベルベット。お前を雇った者である。」

yuiyui(*^_^*) (プロフ) [2017年12月27日 15時] 1番目の返信 [違反報告]

「これはこれは！御機嫌よう、旦那様。兼ねてから小耳には挟んでおりましたが、噂通りの麗しゅうお姿で。」
髑髏面を被った小柄な少年は、赤を基調とするカラフルな布でパッチワークされた、奇抜なデザインのシルクハットを取って、物の見事に綺麗にお辞儀をしてみせた。髑髏面から下に伸びている白く細い首には、身を引くような美しい純金で作られた首輪＿＿＿これは国王の所持物である証、つまり国王のお気に入り奴隷ということの証明である。＿＿＿が巻いてあった。
「…ああ！そうですねえ、旦那様にはとても申し訳ないのですが、こればっかりはぼくが勝手に取るわけにはいかんのですよ。」
彼の視線に気が付いたのか、冷たく光を発するそれに触れると、髑髏面は呆れたような、面白がるような、でも何処か愉快そうにケタケタと笑った。
「なんせこれを取ったら、金の首輪が無くなったぼくの首は反逆罪でおさらば。ぼくの首を切るギロチンの刃物に旦那様がなるなんて思うと、旦那様も気が気でないでしょう？だから、許してくださいね。」
しかしアリスはこう言うが、首輪はすでに彼やアリスがどう奮闘しようとも取れないような頑丈な作りであった。それに国王のお気に入りであるということに特にデメリットはない。強いて言うならなら、何をしていても国王に呼ばれたら自力で行かなくてはならない事ぐらいだ。
「まあまあ、でも、ぼくの体は既に国王様の所持物ではありますが、雇われたからにはこの心は引っ括めて旦那様のもの。精一杯尽くす心算でありますから、どうか可愛がってやってください。」
そう言ってアリスは髑髏面を取ると深々と頭を下げ、幼い顔で満面の笑みを浮かべた。

kill (プロフ) [2017年12月28日 9時] 2番目の返信 [違反報告]

シャルルは、目の前の少年、アリスを値踏みするように眺めた。
もう、その行為は無意識であり、シャルルの癖になっている。
不意にある秋の日が、あの炎に包まれた夜が、奴隷達の怒声が、父や使用人達の悲鳴が、脳裏によぎったが、それを無視するように一度瞬きをした。
シャルルは、アリスの言葉に耳を傾けるため口を閉ざした。彼の最初の賛美はシャルルにとって当然のことであったから、表情を一つも変えずに見下ろしていたが、つい、奴隷が身につけるにはあまりにも高級で、人が身につけるにはあまりにも悪趣味な首輪に視線が向いたのを敏感に感じ取ったアリスにほんの僅かに感心するような表情を浮かべた。
「そうか。お前がどうなろうが、俺にとってどうでもいいが、それを取らせたのが俺だということが、国王に知れ渡れば面倒なことになる。ギロチンの刃になるのは構わないが、使い捨ての首切り刀になるのは俺としても避けたいところだ。わかった。許そう。」
彼の言葉にシャルルは、そう言って頷いたのだった。
戯けたような彼を、奥底に疑心暗鬼が眠っているその灰色の瞳で見下しながら、国王の所有物だが、と笑う彼に、シャルルは口元を歪めた笑みを見せる。
「わかった。いいだろう。可愛がってやるかどうかは、お前次第だがな。精一杯やるといい。」
退屈凌ぎにはなるだろうか。なるだろう。確かに、国王が好むのもわかる気がする。
そんな予感を感じながら、言葉を紡いでいた。

yuiyui(*^_^*) (プロフ) [2017年12月28日 15時] 3番目の返信 [違反報告]