忌まれ子

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ベイル

666 (プロフ) [2018年3月7日 16時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

「雑魚が」
その一言と共に鮮血が飛び散り、影の落ちた地面に赤い色を添えた。声の主は暗殺者。殺人鬼と名高い、ベイルという異常者。本名は知られていない。むしろ本人も知らないらしく、名乗りも通り名ももっぱらベイル、で行われている。
彼の悪名は限度がない。一人で百人を殺した、とか、嵌められた報復にその相手の組織のアジトに放火し皆殺しにした、とか。事実無根であったり荒唐無稽なものも多いが、実のところ真実も多いのである。事実拳銃を持った10人ほどの暗殺者集団に囲まれ、絶体絶命かと思われたが皆殺しにして生還したりとか、契約を反故にした依頼主の組織に奇襲を仕掛け、壊滅させたとか、エトセトラエトセトラ。
大抵の裏社会の住人は彼の名を知っているし、ある程度以上の大きさの組織に属していれば彼の姿を見たことがある者も零ではない。しかしそれでも暗殺の依頼を達成できるのがベイルである。顔が有名であればあるほど暗殺者とはやりにくい職だ。ゆえに需要がいくら高くても中々数が増えない。また、命をやり取りする仕事のために新人はすぐ死ぬ、ということもあってか、暗殺者というものは名は知れていても顔・姿・声は知られていないことが多い。だがベイルは特殊だ。

「はら、へった……」
ベイルは人体実験を繰り返す組織の中で育った。表書きは孤児院だったが中身はそんな慈善施設とはほど遠く、いつだってベイルたちは空腹や傷を抱えていた。毎日誰かが衰弱や毒、空腹や渇きにやられて死んでいった。
その暮らしに耐えられず、ベイルは施設に火を点け職員も仲間と言えたであろう孤児たちも焼き、皆殺しにした。唯一同類の匂いを感じていたとある一人の生死は確認していないが、まあ生きていたら生きていただし、死んでいたら死んでいたである。気にはしていない。
施設を焼いた後、ベイルは一人裏路地に繰り出した。元々外の世界で暮らしていたこともあり、盗みや殺しをしながら生計を立てた。勿論それでも餓えに襲われることはあり、どうしようもなくなったときは人を殺し、その肉を喰らったこともある。流石に美味くなかったらしいが。
「っ、おらぁっ!」
右目の火傷は、親に振るわれた暴力の証拠。一時期は光を失い、何も見えなかったのだが、施設で実験を繰り返されるうちに細胞やらなんやらが変異したらしく、いつからか光を取り戻していた。
しかし心についた傷が治ることは勿論なく、ベイルは荒んだまま生きていくことになった。

ベイルは最初は、大して可笑しなところのない子供だった。ただ親がろくでなしであり、そのもとで暴力を振るわれるうちに捻くれた、というその程度だった。
いつからか、他人を自分と同じような目に……つまり炎に焼かれるようなことに……遭わせたいと考え始めた。いつからか、一生消えない傷を残してやりたいと願うようになった。
そしてベイルは血に酔った。他人の血に、自分の血に酔い、そして殺人鬼として名を馳せるまでになった。彼がこれまでに殺した数は、もう四桁に入っているだろう。

「……悔い改める気は、ないのか」
「何をだァ? 俺はもう、自分のしたいようにしかしねぇって、決めてんだよォ」
けらけらと笑いながら相手をころす。その姿に狂気こそあれど、理性の光など存在していない。それが彼だ。
死にかけ、何度も殺されかけ、そして殺してきた経験が、ベイルという人間を象っている。

今さら表で生きられる人間では、ない。

666 (プロフ) [2018年5月2日 15時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]
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