忌まれ子

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幸葵【ファンタジー】

666 (プロフ) [2018年1月29日 9時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

「……がっこう」
その単語は俺にとっての禁句だった。
『そう、魔法学校。君は出ていないんだろう? だってそんな話は聞かないからね……だから、この私が! 直々に君を勧誘しに来たんだ!』
どうしてこんな者に勧誘を掛けられているのかと言えば、どうもボランティアをしすぎたことが原因らしい。

俺の唯一の友人、俺が恋慕ったただ一人の人間、そして、俺が殺そうとした、その彼がいる場所。居た場所。……まあこの学校は、建っている場所が違うらしいが。

「……折角ですが辞退します。俺には、もう勉強や研究は必要ないので」
行くわけがないだろう。向かいたくない訳ではないが……自主退学を選んだ身だ。舞い戻るつもりはない。
『な、何故だいっ! 君のような逸材は、このような野蛮な世界に居るべきではないだろう!?』
「……はあ?」
呆れて物も言えない。何様のつもりなのだろう、彼は。魔法学校は誰が創設したと思っている? 学ぶ場所がほしいと願った、冒険者だ。冒険者を野蛮と、冒険者の世界を野蛮な世界だというのなら、あの魔法学校だって……同類だ。
一応俺も元生徒。少し頭が痛くなってきた。

殺しかけた彼への贖罪には遠いかもしれないが、それでも何かしたいと望み、始めたのが冒険者。
受けるクエストは基本的に危険なものだけ。報酬は基本、あまり受け取らない。生活費は賭場で稼いだものと報酬の一部から捻出、余ったら寄付。
属性は氷と闇、武器は両方ともSランク。何回か狙われ、結局裏ギルドとの繋がりもある。
なるほど、俺は確かに逸材だろう。
だがそれがどうした?

「冒険者によって作られたのが魔法学校でしょう? それを知らないというのなら……あなたは教師失格ですね」
固まった彼を食堂に置いたまま、俺は外に出る。さて、そろそろ町を変えようか。

666 (プロフ) [2018年1月29日 10時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

親からもらった名前に自分は沿えていない。幸葵の名の意味するところは葵のように美しく幸せを誇れ。母親が父親に出会えたようなそんな出会いが俺にもあるように、と……そんな優しさから付けられたのがこの名前。
俺は罪人。闇属性を生まれつきその身に宿し、傲慢ゆえに唯一俺を見てくれた人を殺しかけた。殺さなかっただけ良かっただろうが、それはなんの慰めにもならない。俺に幸福は許されない。あるのはただ、罪と罰。

「……」
俺は両親に似て容姿が整った部類だ。
俺は母親に似て頭が良い方の部類だ。
俺は父親に似て能力が高い方の部類だ。
そして俺は二人に似ず、心に巣食う傲慢に飲まれた部類の人間だ。
「神童様はやっぱ違うなあ?」
「てかドラゴンソロ討伐とか……闇属性の賜物ってことか?」
「しかも氷の精霊と契約してるんだとさ。俺達のような野盗とは違うんだよなぁ?」
野盗に囲まれ、その顔に覚える既視感から答えを叩き出す。彼らは俺の、魔法学校での先輩。俺に面子を潰され、いつのまにか自主退学をしていたという話だったが……どうやら、俺への復讐をするために裏稼業に身を落としたらしい。
俺自身稼ぎの大半は賭場から得たものであるから似たようなものだが、ここまで強欲な方法でではない。……というよりも、そういう方法は俺の傲慢を呼び起こすから選ばなかった。

俺はあの日"彼"を殺しかけた直後に自主退学を選択した。彼に会わせる顔もなかったし、なにより自分の傲慢と闇が恐くなった。俺はそれまで、自分の闇をコントロールできていると思い込んでいたのだから。
だからこそ俺は自分の傲慢を良しとしたし、際限なく闇属性を利用した。むしろ自分の力を底上げするために闇属性を進んで受け入れた節もある。……皮肉なことに、その過ちに気付いた頃にはもう、もう一つ身に宿していた氷の力すらも俺の手には負えなくなってきていた。契約してくれている氷精が居るからこそ躊躇いなく力を行使できるが、もし彼女がいなければ俺は高いリスクを負わずにはどんなに量の少ない魔力も使えず……使い方を誤れば辺りを永久凍土に閉じ込めるような、そんな事態に陥っていただろう。
だが俺は闇属性を、捨てられなかった。俺はこの力のリスクとリターンを曲解した。
母親が俺に、ちゃんと闇を飼い慣らせと言った意味を曲解した。
今の俺はもう、闇を捨てようとすればただのマリオネットになり下がるだろう。

「……今さら言い訳する気も謝る気もありません。お帰りください」
徹底的なまでの実力差を見せ付けて、そして俺は野盗に堕ちた先輩たちを見下ろす。感情は抱かないように。
ただ、傲慢とは呼べない冷たさをその身に宿して、闇の代わりに氷を俺のものとして、口にする。

傲慢も強欲も色欲も、俺たち人間が心の隅に抱く大罪。そして俺はそれらの大罪の捉え方を誤り、さらに大きな罪に手を染めた。……心など、抱くものではなかったのだと……俺は、考える。

「……」
野盗の彼らがいなくなったのを確認すると剣を納め、僅かにずらした感情の蓋をきっちり閉め直す。感情は確かに力を増させるが、それは闇属性のリスクと隣り合わせ。俺はもう力を制御しきれないゆえに、感情を殺した。
もう要らない。彼を殺しかけた俺に力など、感情など要らない。

もう、要らない。



どうか誰も、俺を許しませんように。

666 (プロフ) [2018年5月1日 7時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]
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