忌まれ子

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東暁

666 (プロフ) [2017年8月3日 21時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

物心ついた頃、俺は親父さんに拾われていた。

666 (プロフ) [2017年8月3日 21時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

丁度一番最初の記憶だな。
よく覚えてる……あの日は冬で、なのに雨が降っていた珍しい日だった。俺は確か血塗れで、そして毛布を被ってた。誰がくれたのかは解らない。親父さん曰く俺の本当の親だろうとのことだが……別に、今さら気にするつもりはない。
もう興味を失ったことだからな。

666 (プロフ) [2017年8月3日 21時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

親父さんはあの日の俺に尋ねた。
『餓鬼、生きる気力があるか?』
多分、その時の俺は即答だったと思う。そこら辺はあやふやだ。何せ、もう24、5年は前のことだからな。
『なきゃ、生きてない』
……それが、俺自身の声の最初の記憶だ。それ以前のことは一切覚えてないし、思い出したいとも思わない。なんたって親父さんが面倒は忘れておけって言ったから。
だから、俺は自分のことのみは省みないことにした。

666 (プロフ) [2017年8月3日 21時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

義父さんは軍の諜報と拷問を専門に扱う軍人だった。かなり優秀な人らしくて、僕がその事を知る前からよく襲撃を受けていた。
今はそれを受けて随分と国境整備も整えられたけれど。
僕は、毎日毎日遅くまで帰らないで仕事……孤児院の視察などを含む軍の多くの実務仕事をこなす義父さんを、いつしか誇らしく思っていた。
僕を捨てた両親が居るだろうけど、この国は僕の大切な故郷だから……それを守ろうとする義父さんの格好いいこと。

だから、僕が軍人を目指すのは自然の摂理だった。

666 (プロフ) [2017年8月4日 8時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

俺が軍人を目指したいと親父さんに言ったとき、親父さんは何て言ったと思う?
……笑えるよな、『自分は沢山の命をこの手で奪ってるから、そんな世界に俺を連れていきたくない』だぜ? 何を今更ってやつだ。
俺は元々死に掛けで、親父さんが拾ったから生きてる。名前なんかも当然なくて、東暁って言うのも親父さんのくれた名前だ。だから、俺がそんな世界だろうとなんだろうと行く覚悟は持っていた。
親父さんが沢山の命を奪うのも、親父さんの命がよく狙われる理由も、全部知った上で俺は言ったんだ。それに……恩は義をもって返せって親父さんが言ったんだぞ?
……ま、そんなこんなで俺は親父さんからの教育を受けて軍に入ることになったんだ。

666 (プロフ) [2017年8月4日 9時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

別れと言うものが唐突なのは、よく知っているつもりだった。戦友を亡くしたことも何度かあったし、その悲しみも乗り越えてきたから。
だから俺は何があっても俺として過ごしてきた。過ごせていけると思っていた。……それが勘違いだとも知らずに。



義父さんの下から離れ、自立した生活を始めた僕に舞い込んできたのは義父さんが大病を患ったという……なんとも信じがたい知らせだった。
しかしながら僕にそれを報せたのは義父さん直属の部下で……。
そこで考えた。あの、殺しても死ななさそうな義父さんが……死ぬ? 僕の居ないところで?
居ても立ってもいられなくて、後先を考えずに家を飛び出した。

よく考えれば罠だってわかったはずなのに。

666 (プロフ) [2017年8月6日 19時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

まずは本当なのか親父さんの安否を、残った理性で確認しようとした。……結果は芳しくなかった。少し前から諜報活動の一環で国の外に出ていたから、情報が掴めなかったせいだ。
次に他の部署で親父さんの不調が噂になっているかどうか。…………信じられないことに、諜報以外の部署でも親父さんが死に掛けであるなんていう噂は流れてた。
俺は若かったんだ。噂が流れてるってだけで頭ん中が真っ白になった。……もう止まらなくて、無理に情報をつかんで、そして……親父さんに会いに行ったんだ。

親父さんは、普通に生きてた。
説教されたよ、俺は。久し振りの怒声に、思わず泣いちまったなぁ……それくらい心配で、怖かったんだ。
だが奴らは感動の余韻には……浸らせてくれなかった。



一発の銃弾が親父さんの体を貫いた。飛び散る紅色。一瞬、思考回路は止まって……そして視界は真っ白に染まり直した。
気付いたら俺は主犯の男の頸を握り潰さんばかりに掴んでいて、そして親父さんは俺のその腕を……血を吐きながらも止めていた。
「や、めろ……ひであ、き……」
「なんで止めるんだ、親父……!」
解らなかった、本当に。
ただただ憎くて、殺したくて堪らない……なのに親父さんは俺を止める。
だが親父さんは焦れる俺に、こう言った。
「そいつは……おまえの、ちちおや、だ……ころ、すな……こうかいする、ぞ……っ」
思わず手の力が緩んだ。崩れ落ちた相手も……目を見開いていて。

ちちおや、父親? 俺を棄てた、親……?
親父さんはそして、相手を見た。自分を殺そうとした相手を……慈しむような優しい瞳で。
「おれをにくむ、きもちは……わかる。だが……ゆきなの、おまえの、こだ……こいつは、こいつだけは……みのがして、やれ……」
相手は目を見開いたまま俺を見て、そして名前を呼んだ。東暁なのか、と。疑問と恐れが混じった、小さな声で。
頷くしかなかった。
だから、放心状態のまま頷いた。

親父さんはそれを見届けるとその場に膝をついて……そして俺達に謝り始めた。

666 (プロフ) [2017年8月6日 20時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

雪奈、という女が居た。
あいつはそりゃもう……良い女だったよ。
桐斗もそうだが俺も惚れた。まあ雪奈が最終的に選んだのは桐斗だったが……とても幸せそうな空気を出す二人を見て、俺は嫉妬は捨てたな。
笑ってくれんなら良いだろう……ってな。

それが壊れたのは雪奈が懐妊した、と周囲に知れた頃だ。

ま、最初は単なる妬みだったんだろうなぁ……。あいつら二人の子が生まれる前に流産させようなんて動きがあった。
そんなんは勿論俺も桐斗も許すはすがなくて……ま、片手で捻り潰してたわけだ。二人とも実力派の中佐だったわけだし、年も30だったしな。

まあなんやかんやで雪奈は無事に出産し、それでいて俺は二人の子供に東暁って名前を付けた。……つまり俺は名付け親って訳だ。
だがなあ……悲劇はそこからだったんだ。



ある日、雪奈は倒れた。当然桐斗は慌てて医者を呼んだが……原因は解らなかった。
俺も驚いて軍の医療書を漁ったが、雪奈の病状に当て嵌まるような病気はなかった。

それからは酷かったな……桐斗は荒れに荒れ、手当たり次第、それこそ敵国たるある国にまで手を伸ばした。
医学の進んでいるっつう奴らの甘言に乗ったんだな……。
馬鹿な奴だ、と桐斗を罵ることはできる。だが、それが何になる? 手段を選ばないだけで桐斗の行動は……人として間違っていなかった。

俺は、桐斗の行動を黙認した。



軍から指令が下った。
雪奈を殺し、裏切り者である桐斗を捕らえよ、と。

666 (プロフ) [2017年8月6日 20時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

笑っちまうよな……解ってた筈なんだよ、桐斗を放っておいたら何が起こるか、なんてさ。
指令部は俺にその命令を、名誉挽回のチャンスとして下した。
俺はほぼ強制的にその指令に従わなくてはならなくて……桐斗に逃げろと言うことも出来ずに雪奈を……



殺した、この手で。苦しまないように……薬を、飲ませて。



雪奈は俺に謝って、そして許してくれたが……まあ、桐斗が俺の、そして軍のそんな行動を許すはずがなく。
逃げた。
三歳になったばかりの東暁を毛布に包んで、二人で。

666 (プロフ) [2017年8月6日 21時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]

勿論の事みすみす二人を逃がせる筈もなく、だがこれ以上俺は使い物になら無いだろうっつーことで、俺は任務を下ろされた。

悲しくて、一人でふらふら歩いてたんだよ、俺はだから。
冬のあの日、ホントは俺の方が生きる気力がなかったんだ。

でも、薄氷の下から覗く瞳は力強くて、優しくて。……まるで雪奈のようだった。
だから声を掛けた。

『餓鬼、生きる気力があるか?』

666 (プロフ) [2017年8月6日 21時] 10番目の返信 スマホ [違反報告]
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