忌まれ子

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藜兎

666 (プロフ) [2017年5月24日 23時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

俺が生まれたのは、小さな小さな村だった。
古い考え方と風習の強く残る、閉鎖的な風通しの悪い村。
俺はその村出身の父親と、都会から移り住んできた母親の間に生まれた。因みに父親も一度都会に住んでいた人らしい。両親が出会ったのは医学の大学だと聞いている。

俺は生まれつき、瞳が蒼色を宿していた。
俺は生まれつき、力が異常に強かった。
両親はだが、隔世遺伝という事にすぐ気付いて俺をひっそりと育ててくれた。……村の排他的な目から巧い具合に隠して。
だが……それも最初の三年程度で終わりを告げた。俺が動き回れるようになったから。
最初は両親もカラーコンタクトなどで隠そうとしてくれた。だが小さかった俺は意図を汲めず、むくれて膨れて無言で抵抗した。
両親は折れ、そして母親は俺にこう言い聞かせた。
『貴男は優しい子だから大丈夫だと思う。けど……虐められて、排斥されることは殆ど確実なこと。だから、だからこそ……誰も恨んでは駄目よ。優しくなさい。きっと、何時かは解ってくれるから』
父親も母親に頷いて、俺に優しく言い聞かせた。
『俺達はお前を護る。それは約束しよう。だから、辛くなったら何時でも言うんだ。絶対に』

果たして両親は間違っていたのか。
……俺には解らない。

俺が学校に通い始めると同時に、村は酷い不作に襲われた。日照や豪雨、暖冬が続いたせいで。
そして俺は、それの原因として敵視された。両親はそれを科学的に否定しようとしたが、大衆の力には勝つことが出来なかった。
……そして俺は、人身供物……人身御供として殺されることに、生贄にされることに決まった。確か9才の時だったと思う。

『止めなさい! 何でこの子がそんな無意味な事の生贄にされなければならないと言うの!? そんな事をするというなら私を代わりに殺しなさい!!』
『藜兎を生贄にするくらいなら俺を殺してみろ。……それで不作が解消されたら、この子は悪魔の子ではないということだ。……そう信じると誓え』



……結果的に両親は殺され、不作はおさまった。
俺は祖父母の家に両親の遺言で送られ、そして考斗と出会ったんだ。

666 (プロフ) [2017年5月24日 23時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

両親が俺の身代わりに死んで、遺言で祖父母の家に送られて。……八年は何事も無く暮らすことが出来た。
祖父母の家があった土地は、あの村と違って開放的で、進んでいたから。
俺はだから両親のことを想いながら……それなりに暮らしていたんだ。

そしてそれが終わったのは俺が18になる年、高校三年生……考斗が入学してきたあの年からだ。



今でこそ明るくなったが、当時の考斗は酷くなよなよした自信のない青少年だった。
まあ、容姿は良かった。緩くウェーブの掛かった茶褐色の髪に、俺とは違って優しい、琥珀色の瞳。……ヘテロクロミアにしてしまったのは、とても申し訳なく思っている。

問題だったのは、中途半端に優しかったこと。

考斗は家が所謂上流階級の人間で、親父さんも政界の大物。……道具類は大体高級品だし、ブラウスもズボンも毎日新品みたいにぱりっとしている。
ただ馬鹿みたいにへらへらしていて、その上中途半端に優しくて。

嫉まれてた。

最初は物を隠されてた。
上靴から始まって筆箱、筆記用具、教科書、気に入りの本、携帯端末。
その次は無視、陰口。
……机の上に真っ白い菊の花が置かれていたこともあった。流石にその時は俺が考斗に見せないようにと処理したがな。

見ていられなかったから。

俺は結局、見棄てることも見ない振りもすることが出来なかったんだ。
それは卑怯者のする事だ、と決めつけて掛かって。……その選択を誤りだなんて言うつもりは今更無いが、もう少し違う選択はあったのでは無いか、位は考えることもある。

だから、だから考斗を疵付ける羽目にもなったんだから。



ある日、考斗は俺に告白してきた。何時も守ってくれてありがとう、可能ならこの想いを受け取って、応えて欲しいと。
……俺は、半分反射で断った。
『俺が考斗、お前を庇っているのは……好意とか、そう言う類のものから来るものでは無い』
……考斗は解ってました、と少ししてから微笑んだ。
その笑みの理由が解らなくて、俺は首を傾げたが……考斗は何を言うことも無くありがとうございますとだけ告げる。

そして、どこかに向かって去って行ったんだ。俺は家に帰るものだとばかり思って……



そして、あの出来事を未然に防ぐことも出来なかったんだ。

666 (プロフ) [2017年5月28日 9時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

<考斗の独白>





俺は今でも悔やんでる。アカザさんを、藜兎先輩を巻き込んだことを。
確かに俺は右目の視力を失って、尚且つヘテロクロミアになった。それは事実だ。でも俺は藜兎先輩に感謝こそすれ、恨みなんて持った覚えは……一切無い。



『親の七光り』
その頃の俺がよく言われていた言葉だ。
成る程確かに俺は成績が良かったわけでは無い。だが頭が悪かったわけでも無いハズなんだ。
ただ、その頃の俺はどうしようもない弱虫で。……だからただ堪えるしか無かったんだ。
物を隠されたとしても、机の上に菊の花を置かれたとしても……殴られて蹴られて水を掛けられても何をされても!!!!
……それが藜兎先輩に迷惑を掛けないことだと、俺は盲信していたんだ。

あの日までは。

俺は廃工場に呼び出されて、嬲られていた。
そしてぼろぼろになったところで広場に引き摺り出された。
何をされるんだろう、なんて半ば達観して……諦観して放り出されたまま地べたに転がっていたんだ。……そしたら声が聞こえた。大好きなあの人の……藜兎先輩の声が。
『コウヘの虐めを止める代わり、か……俺に何をしろと?』
信じられなかった、信じたくなかった。
何でこんなところに居るんですか、何で僕への虐めを止める代わりとか言ってるんですか、何で、何で何で何で何でなんでなんで!!!!
『俺達のオモチャになれよ? そしたらアイツは見逃してやるさ』

『……成る程、お前らのオモチャか……構わない、その位で良いならな』

やがて聞こえてきたのは殴る音、蹴る音、そして罵倒する声。
楽しそうに、愉しそうにアイツらは嗤ってる。藜兎先輩を僕の代わりに嬲って、遊んでる。僕が先輩を頼ったせいで……先輩に庇って貰ったせいで、先輩を好きになってしまったせいで、先輩と出会ってしまったせいで!!!!

666 (プロフ) [2017年6月1日 9時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

『れいとせんぱい!!!!』

痛む体を無理に引き刷り起こして、俺はそう叫んでいた。
背後でざわりと揺らぐ空気を無視してでも止めなきゃと思って、俺は後先考えずに飛び出していた。
藜兎先輩が居る場所に出て、そして俺はそこで後頭部を勢い良く殴られた。……藜兎先輩が息を吞む音が、やけにハッキリ聞こえた気がする。
意志に反して崩れ落ちる体。
『なんで……コウ、そんなぼろぼろ……なんだ?』
藜兎先輩の言葉に嗤い始めたアイツらの声が反響して、耳を痛いほど打った。
『そりゃ遊んでるからだよ! あ、どうせなら反応で遊ばせて貰おうかなぁ? お前も俺達のオモチャだからな!』
わざとらしく愉しそうな声で誰かがそう言って、手を叩く。……カチカチカチとカッターの刃を出す音がした。誰かが体を羽交い締めにする。
『止めろ……』
カッターの刃が腕を切り裂く。
そんな中で藜兎先輩の掠れた声だけが響く。
『止めろ……!』
カッターの刃が首筋をなぞっていた。……たらりと垂れた血が、鎖骨からシャツに染みを作る。
『こいつ叫ばないなあ』
『目とかやれば流石に泣くんじゃね?』
『あ、それ良いな』
奴らの声はもう、遠くて。
……迫って来た刃がぼやけるまで、俺はただただ放心していたんだ。そして、

視界が真っ赤に染まる。



『やめろおおおおオオオォオォォォオおォおおぉおォオオおぉお!!!!!!!』
狂ったような、それでいて悲痛な叫び声がしてニブイ音が響き渡ったんだ。
半分にぼやけた世界の中で見えたのは、何人もを殴っている藜兎先輩の姿。何人も殴り、蹴り飛ばして血が出ても骨が折れても構わないように……嗤ってた。
目を見開いた状態で口元を歪めて、そして嗤い声を上げ始めたんだ。鳥肌の立つようなあの、冷たい声を。

『ァは……っあハハはははハハはハハハはははハハハははははは!!!!』



結局藜兎先輩は何人も再起不能にして、俺までも殴る直前で我に返った。その後何度も謝られた。……俺は動揺して何も言えなかったけど。

事件の後俺は親父に頼み込んで、説明して、交渉して……世間に事件のことを広まらないようにした。
藜兎先輩のあの行動は全部、本来俺を守ろうとしたことだったから、マスコミに面白がられるなんて耐えられなかったんだ……。

でも先輩は、俺から一歩距離を置いた。
名前を呼ぶなと言い、俺の渾名を呼んでくれなくなった。……直接目を合わせ無いと言うつもりなのか、伊達眼鏡までかけて。



……哀しいけどね、それが藜兎先輩の、アカザさんなりのけじめだって言うなら……俺は何も言えないかな。

666 (プロフ) [2017年6月1日 9時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]
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