家が決めた婚姻は冷めきったものだと身をもってよくよくわかっていた私にとって、彼という存在はイレギュラーだった。
彼は天使のような顔のつくりで、薄い唇はいつも弧を描き、私を気遣う言葉を紡ぐ。想定していたよりずっと優しい彼に不満はない。
ただ、
「……どうしたの?」
「いいえ、なんでもありません」
「そう?きみは頑張り屋さんだから、無理してはいけないよ」
「お心遣い痛み入ります。英智さん」
四六時中、私を試すように、品定めするように、瞳の中に閉じ込めた絶対零度の氷で彼は私を見ている。
その視線が、私は苦手だった。