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666 (プロフ) [2019年2月26日 17時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

ふ、と息を吐く。夏の生温く青臭い風に髪をなぶられて悠夢は目を伏せた。人の気配が二つしかない帰り道。声を掛けるほどに仲が良いわけでもない女子生徒。特に好悪の感情を抱いていない。
彼女はこちらに帰るのか、というどうでもいいことをぼんやりと考えながら、悠夢はきっちりしめていたわけでもないワイシャツの首元を緩めた。ぱたぱた、と胸元へ人工の風を吹き込みながら無心に歩いて行く。暑い、けれど、夏だから。
「……」
と、ふと悠夢は顔を上げた。前の方から声が聞こえる。自分が後ろに居ることを分かった上での声か? それとも、ただの一人言か。
迷って、けれどまあ話し掛けているわけでもないからいいかと目線を落としたところで彼女の声が耳に届いた。問い掛けるような言葉。
「俺は違うと思うが」
返答して、後悔する。ばっと振り向いた彼女の顔がとても驚きに染まっていたためだ。これは一人言だったな、と反省と共に黙り込むと、どうしようもないような沈黙が降りてきてしまう。

666 (プロフ) [2019年8月5日 21時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

無慈悲な太陽、色彩の明度が微かながらも鮮やかな空。動物の鼻息、つまりは温い息を思い返す、湿度のこもった風が後ろに掛けていく。結った一房を掠めていく。
そんな温くて、暑い。明らかに矛盾している。その炎天下の中で心は深層に浸かっていた。
肋よりずっと奥の、心臓より深い海の底で何気ない言葉を並べては自虐交じりの自己問答。
数日前からはち切れんばかりの種が根底に植えられてしまったからだ。己の奥に燻る火種、その気になってしまえばこの身を焼き尽くすような、熱情の種。
たぶん【彼】に逢わなかったら、【彼】のような美しくて透明な人間がいるなんて、知らなかったら、こんな感情を知らないままで居られた。この矮小で賤しい、つまらない『■■■』という人間の一生。
【彼】の透明度に、艶やかさに魅せられてから、まるで、とり憑かれているようで忘れられない。
_『まるで、頭の悪いスウィーツ女だな。甘ったれた幻想を抱えて、そんなお前は「人嫌い」?ほざけよ。』
……そんなに、夢みがちじゃない。わかってるよ、人の醜悪さなんてとっくの昔に。
_『……認めたら?それは一目惚れという奴だ。現に彼の姿を、情景をたっぷりと脳に押し込めているだろ。』
憧れに近い偶像崇拝を、恋なんて呼ばない。
_『なら、どうして焦がれる?』
それ、は、
_『飛べもしない青空に憧れるのが当たり前なら、何故頑なに認めない?何を意固地になっているんだよ。』
「だって、私はどうしようもない、屑だから。……分かりきった事でしょ?」
夏の蒸し暑い夜、蛍光灯に寄り付く蛾のようなものだ、眩い所に惹かれてしまうのは人の性で虫と変わらないなんて。自虐的な笑みで口元が上がってしまう。嗤わずにはいられない。
所詮は私も人の身だ。あんなに呆れて忌み嫌ったとしても、結局の所同族嫌悪。人間だから。なんて今まさに、結論付けてしまった。
「俺は違うと思う。」
後方から飛んできた、少しの涼しさを感じる低音で不意を付かれて勢い良く振り替えってしまう。
初めに目についたのは、灰色の跳ねた髪に片手間で扇ぐシャツから覗く健康的な肌色、少し日に焼けてる。それにこちらをじっとり見るも、ほんの少し後悔と気まずさからか、逸らされた左目。
__悠夢……だっけ?名字は、わからん。
汚ギャル共の玩具にされているのをよく……頻繁に見掛けるが、同じクラスの人間と言えど話した回数なんて片手の指以下だし、気が向いた時の挨拶くらいなものだ。
この暑さをなんとも思わないような涼しげな仏頂面に……気付いているのか分からないが、少し首を傾げてる所が、なんとなく梟に似ていると場違いにも思った。
「あのさ、」
お互いの気まずさを断ち切るように、口火は私から切った。
とても温い、まるで内側から微熱が灯るような__酸素を吸い込んで、語りかける。今後はちゃんと問いに為れるような、教室の片隅に淀む黒い、仄暗らい感情を微かに混ぜて。
「……さっきの、なんで、そう思うの。」
『俺は違うと思う』なんて。あんまり、関わりもないのに。
「それとさ、」と前方を指さしながら、言葉を続ける。
奇しくも【彼】と邂逅を果たした、あの古びた駅が先に見える。
無人のホームに提げられた風鈴、レトロでまるっこくて、あざとい可愛さを何処と無く感じる自動販売機、踏切の手前に潰されたオレンジジュース缶の残骸、揺らめく向日葵一輪が目印のように音を立てて笑ってる。
「立ち話も何だし、駅で話さない?」
流石に日向は暑いし。と続けて言えば、小さく頷く姿。
人の顔色を読んで、話す。それが私の立ち回りだが、その顔色がある程度しか見えないのだから、やりずらいったらこの上無い。
いつもの私なら「なんでもない。」なんて誤魔化して、気にも留めず素直に下校を続けていたのに。どちらとも言わないで、二人して隣に並んで歩き出す。軽やかな風が風鈴の音を運んで届けるものの、この不可思議な空気を取り払ってはくれなかった。
__火種はまだ胸の奥底でつっかえている。

飴ん子 (プロフ) [2019年8月6日 12時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

返答を言葉で出来ない己の口下手を面倒に思う。こくり、と頷いて示す先へ歩き出した己を俯瞰で考え直して悠夢は溜め息にもならない己の不甲斐なさを呼気に混ぜた。
夏の香りがむんむんと充満する風に汗をはらりと流して目を伏せる。「さっきの、なんで、そう思うの。」とか、考えても、返答が用意できるわけではない。ただそう思ったから、そうやって言葉にしただけで。……説明は無理だと言ってしまえれば良かったのだけれど、立ち話もなんだし、日向は暑いし、と古い駅を示されてしまえば嫌とも言えない。
目を上げる。古い駅の近くに、同族のようにひっそりと佇む古びた型の自販機を見付けた。その丸みを帯びたフォルムに、意味もなく愛嬌を感じる。錯覚か、はたまた感性の問題か。そんなこと考えたところで仕方はないのだけれど、考えることがあった方が、いつもの仏頂面で居られる。
青空は、蒼穹は、変わりゆく中でも美しく在れるものを代表しているように思う。
悠夢は変われない人間で、変わろうとしても難しくて、何度も失敗しながら好きなように利用されたりして、少し、疲れてしまう。人間が嫌いなわけではない。人付き合いを避けたいわけではない。
ただ、上手くいかないから疲れてしまう。……気付かれることもないけれど。
からん、と何かを蹴飛ばして、枕木の手前に転がしてしまう。進行方向の正面にあるからとそのまま歩み寄って、拾い上げて、遮断機が下りる前に踏切を渡りきった。それから拾ったものを見る。ラベルを読む。オレンジジュースか。
適当なごみ箱へ投げ捨てて、落ちたから方眉を上げて進行方向を変えた。自業自得に溜め息を吐き出してごみ箱へ。
日影に行きたい。暑い。
「あつい」
呟いた言葉は、特に同意を求めているわけではない。ただ事実を並べただけである。
駅が作る日影に足を踏み入れる瞬間、思考が纏まってん、と声を漏らした。どうして彼女の言葉を否定したのか。系統立てては離せないけれど、まあ良いだろう。
「俺は」
壁に居場所を見付けて体を傾け、日影の恩恵を肺一杯に流し込みながら口を開いた。
一輪だけ揺れる向日葵のような寂しさで涼風を呼び込む風鈴に視線を固定し、悠夢は目を細めた。ようやく言葉になったものをなんとか声に写していく。
「まだ、学生だ。……お前も。だから、それ以上のラベルなんて、まだ今の俺たちには不要じゃないか、と思う。……屑だとか、不要だとか、そういうことを考えるには……まだ、若い。……若いだろう、俺たちは」
夏の後に秋が来るように、価値観だっていつかは変わる。悠夢はそのことを、なんとなく感じ取っている。だからそんなことを言える。
微笑んだりは、出来ないけれど。

666 (プロフ) [2019年8月6日 15時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

微笑みはしない癖に、声音が気を使うように優しくて。なんとなく気恥ずかしくて逸らしてします。
「……なんかアンタって、じいちゃんみたい。」と憎まれ口しか叩けない。
私はきっと、コイツみたいな物分かりのいい子供大人じゃないから、その時にならないとわからないだろう。……投げ掛けて答えをくれた癖に、お前は素直じゃないな。と湧く自己嫌悪を振り払うように踵返して、自動販売機と向き合う。
自動販売機の一覧、お茶と水が品切れなのは考えることは皆同じだと苦笑い。ガマ口の小銭入れを取り出し口に投げ込めば、ピッと軽い音を立てる。
オレンジ、ブドウ、甘味料炭酸、リンゴ、コーラ……どれも甘ったるいものばかりだが、背に腹は変えられない。炭酸を飲めない私は、果肉入りのブドウジュースにしようと円いボタンを軽く押せば、重い音を立てて出てくる。屈もうとしたら、赤い点字スロットが777と揃った。パンパカパーンとラジオっぽい、雑音交じりの音源が流れて、オマケの一本が付いてくるみたいだ。
「どれがオススメ?」
目線を投げ掛ければ、また少し首を傾げては悩む素振りをして、言葉を溜めてる。
「……サイダー。」と風にかき消されそうな声量で返してくる。
迷うことなくサイダーを選べば、重い音を立てて出てくるもんだから泡が噴き出しても知らね。と思った。
汗をかいてるように結露が流れる缶ふたつを掴んで、ふたつの冷たさに癒され、サイダーを渡す。不思議そうにして受け取らないものだから
「受け取れ。」と掌に置く、ふたつも甘ったるいものなんて要らない、ダイエットもしてるし。
小声の感謝の声は聞こえなかった事にして、プルタブを引いてイッキ飲みする。……甘ったるい、やっぱり水とかの方が良かったな、なんて。
脳が、喉奥が冷えて、壁に寄り掛かればありふれた。でも都会人からすれば軽く感動するんじゃないかという風景。
向こうの蒼と見事な入道雲、道標のような電波塔に青々と茂る山、果てしなく続く線路、喧しい程によく鳴く蝉の輪唱を聴きながら、ふと思う。
__この想いも、あの情景も。嫌になるクソ暑さも、彼の透明さも、何もかもが遠い、……在りし日の思い出として変わっていってしまうのか。だとしたら、
「お前、何に悩んでんだ?」
好いてる奴でもいんのか。とその声がやけに大きい声に聞こえたものの、理解が追いつかない。
好いてる奴?好いて??好きな奴???
そこで漸く理解して、ムキになる理由もないのに、はぁ!?と予想以上の声を出して荒げてしまった。
クソ暑い熱気にやられてか、心なしか火照るように熱くなる。なんか火種が破裂したようで此方が困惑するしかなかった

飴ん子 (プロフ) [2019年8月7日 12時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

じいちゃんみたいだ、と言われて嬉しくはないが、ただの憎まれ口だと判断して悠夢は彼女の言葉を流しておく。
日影で汗が流れ落ちるに任せておき、レトロな自販機で何かを買おうと画策する彼女のことを眺めた。ぱっと見た感じ、お茶と水とスポーツドリンクは売り切れのようだ。この暑さでは当然でもある。では何を買うか。
見ていれば、彼女は苦く笑ったあと紫色の缶を選んでいた。確かあれは、ブドウジュース。
「どれがオススメ?」
最近では少なくなってきたルーレット仕様の自販機の当たりを引いたらしい。悠夢に意見を求めてきた。何がいいのだろう、この暑さではあまり甘さを感じない方がいいのではなかろうか。そんなことをぱっと考えて、「……サイダー」と選んだものを口にした。
がこん、がこん、と重い音が落ちてくる。サイダーの炭酸が抜けたらどうするつもりなのだろうと思いつつも、その缶の爽やかな色合いに少しだけ清涼感を感じ取った。
と、手の平に置かれ、疑問に瞬くと受け取れ、と言われる。……奢りではない分、断りにくい。いや、断らない方がいいのか。
ありがとう、があまりに小さすぎた。
聞こえなかったのか返事をもらえず、そんな自分に内心で眉を寄せつつカシュリとプルタブを起こした。むわ、とした熱気の中にサイダーの炭酸臭と砂糖の甘さが混ざってきて、ああ、やはり夏だな、と。
元いた壁に背中を預け、缶を浅く傾けると悠夢は彼女の方を見た。遠くを見る、何かに焦がれるような目。
「……何に悩んでいるんだ」
恋煩いか何かかと考え、「好いてる奴でも居るのか」と尋ねた。穿ちすぎたかと一瞬危惧したが、彼女の反応にそうではないなと判断する。
飲んでいたブドウジュースの缶を握る手に力が入り、怒ることでもなかろうにはぁ!? という怒声をもらってしまった。言い当ててしまったか、と内心で頷いて、現実では肩を竦めておく。表情には何も出ていないはず。
「暑いな」
彼女の顔の赤さを見なかったことにしてやり、そんな言葉を代わりに投げてやる。相談なら乗るけれど、言って欲しくなければ黙るけれど、と小さく付け加えていき、それから悠夢は溜め息にも似た呼気を吐き出した。
「まぁ、所詮。俺たちは、学生だ。……惚れた腫れたの話も、悪くはない」
決めるのはお前でしかない、なんて、そんなこと分かりきっているだろうから言わないけど。

666 (プロフ) [2019年8月7日 13時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

何を言い出すと思った。対して関わりのない異性に(異性だぞ、異性!)恋愛相談すれば?なんて。
読めない、何一つ読めない。サイダーをチビチビと飲んでる姿から何ひとつ。善意か、あるいは興味か。或いは打算も含めて?リークでもするつもりか、恩を着せて女子を紹介させようとしているのか。と過ったが、いつも派手目の汚ギャルやDQNを筆頭にマウント系陽キャの踏み台役として合コンとかにも呼ばれていたりするし、必要ないのかも。
……よく考えてみたら、逆に関わりをもってない人間だからこそ、気を使わなくてもいいのかもしれない。とさえ思い始めた。
これがあの三人の友人(仮)なら、食ってかかって「誰?」「どんな人?イケメン?」などとピーチクパーチク、蝉と同じように喧しく、好き勝手に囃し立てて、求めてもないエグい(えげつない、或いは下世話なものだ)アドバイスを語ったと思ったら、愚痴大会(多分、■■■による転校していった高木との遠距離恋愛ネタetc)に入るだろう、目に見えてる。
それと、この年頃の女子の友情(笑)なんざイケメン絡みだと崩壊、または軋轢しか生まないから駄目だ。今更人間嫌いから人間不信に進化したくない。
かといって、家族といった身内に打ち明けたくもない。寧ろ願い下げだわ。
そう思ったが最後、えい、ままよ!どうにでもなれ!と一気にブドウジュースを飲み干し、嚥下した後、酸素が足りなくて息を吐いてから、ぽつぽつと話す。置いた缶が思うより強く、かん高い音を立てた。
「……つい最近、学校の補習の帰り道、ここの駅で見かけない男の人が居たんだ。」
そうだ、じめじめとした熱気の、蜃気楼。この踏切で彼を見てから、この火種が生まれた。
思わず、1つに結い上げた髪に触れる。
「目を奪われるくらい綺麗で……格好いいじゃなくて、綺麗だったんだ。」
そう、金糸の猫っ毛に黒のスラックスに映える透明度のある白魚の肌、紺碧の眼と形容すればひどく陳腐で在り来たりな物に為ってしまいそうだ、表現出来そうにない。
けどその輝きは、一幕は瞼に焼き付いてる。
「き、気持ち悪いかもしれないけど、本当に綺麗だって思ったんだ。」
汽笛の音が、風鈴の音が、缶の転がった音が嫌に耳から離れない。
「それから、あの人の事が忘れられなくて。ずっと、覚えてるんだ。」
意味もなく、温くなり始めた缶のプルタブを人差し指で弄る。
「だけど……だけど、恋だとは思えないんだ。だって証明が出来ないし、一回見ただけで惹かれて、好きになるって理由としては軽すぎるって思ったんだ。」
それに私は釣り合わない。見た目が凡平凡で目付きの悪さに定評がある三白眼。
取り分けお洒落でもスタイルが良いわけでも、性格がいいとも言えないし、何より私の深層は歪んで、ひねくれてる。可愛げがない。
自分でもこう思うんだから、他人から見ればもっとそう見えるんだろう。
「だから、きっと、これは恋とかじゃない。」
そう言えば最後、恋愛相談じゃないと思ってしまって嗤った。
恋ってなんなのかね?と声に出して、自嘲するしかなかった。
瞬間、ぶちりと何か切れる音に、風を遮断するような肩回りの妙で慣れた重さ。はらりと耳にかかる擽ったさ。
__ゴムが切れるとか最悪。
千切れたゴムの残骸を拾うこともなく、乾いた笑いだけを遺して。

飴ん子 (プロフ) [2019年8月7日 16時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

何を考えているのかと思えばぐい、とジュースを呷って彼女は話し始める。かん、と置いた缶の音が思った以上に響く。湿っているせいだろうか。
訥々と流れ落ちていく言の葉に目を伏せ、サイダーの弾ける感覚に息を吐いた。綺麗だと表現した。格好いいとは違ったと言う。……けれど理由が軽い気がすると。
自己完結してるな、と小さく口にした。うん、と髪が落ちた彼女が自嘲混じりに頷いた。
「……恋とは、思いたくないんだな」
地面に落ちた髪ゴムを疲労でもなく置いたジュースの缶を捨てるでもなく尾を引いた乾いた笑いを消さないままの彼女に、少しだけ目を向けた。表情に出さない自分を彼女は捉えにくいと思うかもしれない。けれどそれでもいい。そういう存在だと既に自分を定義できているから。
なら、それでいいだろう。
口にしたそんな言葉に彼女は驚いたようだった。恋とかそんなラベルを貼りたくないがために、それ以外の選択肢も考えられなかったのかもしれない。
サイダーを飲み干して、続きを促すような彼女に延長を申し立てる。
かしゃん、と缶を握り潰すと近くの錆びた鉄のごみ箱へそれを放り投げて、ようやく口を開いた。
「俺は、さっき言ったから分かるだろうが。……ラベル付けというものに拘りがない。まだ、高校生だ。……まだ、まだ、これから先、長い。今、言葉に出来ないことも、それでいい。……言葉にしたら、失われることも、あると思う。なら言葉にしなくていい。……“恋”と呼ばなくて良い。恋でないなら、と名前を探す必要もない。もう少し、待てば良い。それでいつになっても、分からなくとも……そういうものなのだ、と言葉にならない宝として抱けば良い。……今、そこに、その想いに、言葉が必要なのか?」
珍しく長文を口にしたからか。それとも問い掛けられたからか。“彼女”は思案するような素振りを見せて、困惑するような表情を見せて、それから、「……違うと思う。」という言葉を選んだ。ああ、なら、それでいい。
頷いて、じゃあ決まりだろう、と目線をずらした。
線路の向こうへ。枕木の合間の陽だまりへ。陽炎かと見紛う、向日葵畑へ。

666 (プロフ) [2019年8月7日 17時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

「大人になれば分かるかな。」
答えに行き急ぎすぎだ、お堅い、発想力が乏しい、二択でしか考えられない。と今は亡き祖父に言われたのを思い出したのだ。だから、
「やっぱり、ジジイみたいだ。」
心底、そう思ったのだ。独りだけ年食ったオトナみたい。
その言葉を向けたものの、当の本人は鼈甲飴の畑を眺めてる。
一方で私は、丸い果肉を取り出せないか、ひっくり返して掌の上で振る、ポンと軽い音はするが、やはり出ない。
いよいよムキになって必死に振るが、うんとも寸とも言わず。三時を過ぎたとは言え炎天下。無駄な運動で汗をかいて胸元のシャツを摘まんで扇ぐ。
「あつい。」
誰かに当てた訳でもない、ただの独り事。
そんな独り事、蝉より大きな声をあげて、かん、かんと点滅しながら鳴り響く遮断機は縦から横に、来るもの隔てるとうせんぼ。風鈴が風を告げて……。
__あ、あの時と、同じだ。
もしかして、と予感めいたものを覚えて、姿を探す。望んでいたものはそこにあった。
既視感を覚えてクラリとくる、幻影、或いは白昼夢。一枚の現代画。切り取って閉じ込めた一幕。胸を占めるのは歓喜でも切望でもなく……弾けそうな■■。火種はもう付いて、もえあがる。
__線路内の、影ひとつ。
金糸のような猫っ毛は風に吹かれて顔を隠す。あの目は見えない。透き通る蒼穹は見えない。だけど、間違いない、あれは__焦がれてやまない彼だ。

飴ん子 (プロフ) [2019年8月7日 19時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

やっぱりジジイみたい、とか、嬉しくはない。嬉しくはないが、それも一つの褒め言葉なのだろう。達観しているとか、諦観しているとか。綺麗な言葉で飾るなら成熟している、だろうか? 悠夢はそこらのラベルに興味がないのだけれど。
ムキになってジュースの缶を逆さに振る彼女を、おかしなものを見るような目で見て、それから意識を向日葵畑に戻した。太陽であり太陽の神であるアポロンに焦がれた女性の神話が基になっているというあの花は、夏という、最も太陽が強い時期にしか命を続かせられない。焦がれすぎたために、命すら太陽に委ねてしまったのかもしれない。
下らないとは言わない。けれど、そんな人生は単一すぎて、何かに寄りかかりすぎて、重いものになるのではなかろうか。そんな風に思う。実際のところは、神話の中の当人たちに聞かないと分からないけれど。
「あつい。」と彼女が自分と同じような意図で言葉を零した。ぱたぱた、と胸元を仰いでいる。汗も流れ落ちた。……やはり、この夏は、暑い。悠夢は夏という季節を、どうしても愛すことは出来ないだろう。好きではあるのだけれど。
ふと、風が吹いて、古ぼけた駅には不似合いの風鈴が音を奏でた。遮断機が下りる音がする。かんかん、かんかん。赤と黒の警報器。踏切が線路と道路を分ける。がしゃん。古びた道具はいつも、いつも軋んでいる。
「……あ」
と、音が消えたような錯覚に陥った。流れ星の尾のように細い金髪。風に揺れているせいで瞳は見えない。けれど、その表情は笑み、のように思える。
一瞬が間延びする。写真のシャッターを下ろしたかのような光景。向日葵畑がただの背景に成り下がる。
彼女が待って、と叫んだような気がした。
「っ」
ごうっ、と通り過ぎた鉄塊に意識を引き戻され、途端に混乱する。待て、待て、待てと。
俺は今“違和感を覚えていなかった”。線路の“内側に居る”あの青少年に、何一つ“違和感を覚えていなかった”。
自分のことなのに理解、出来ない。
けれどそれが彼女の言った相手だと、感じたから、口を開けなかった。アドバイスをした直後なのだ。
「……あれなのか」
問えば「うん。」と返ってくる。それが、むしろ安堵を呼び起こした。
綺麗な景色ではあったのだから。

666 (プロフ) [2019年8月7日 22時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]
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