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「……鋼稀が心配だったから」邦彦はそれ以上は何も言わず、鋼稀の胸元に顔を埋めた。
「そっ、か。でも俺は大丈夫だぞ?」この通りな、と無理して鋼稀は笑う。
「……嘘吐いて笑わない」むっとして鋼稀を見上げる。「青良くんと涼斗くんは寝てるから、僕の前でくらい、無理して笑わないで」
「っ、良いよ、忘れさせてくれ。もう忘れたいから考えたくも無いんだ」首を振り、鋼稀は邦彦の言葉を拒絶する。
「鋼稀、それじゃあんまりだよ」僕が悲しいんだよ、とすがる。
「嫌だ、止めろ今は触るな……っ!」邦彦の手を振り払い、鋼稀は一歩後ろに下がった。
「あっ……うん、ごめん」頭冷やしてくる、と玄関から外へ出ていく。
「良い、良い外に出るな……っ」鋼稀は邦彦を家の中に押し込み、自分が外に出る。
「やだっ、行くなっ……」追いかける。
「っ、嫌だ、俺は汚れてるから……!」唸るように言い、更に下がる。
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