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上限越えたので来ましたお先にお願いできますか?
了解です
ええと、黒柊さんと雷輝とのですよね?
そうですね、お願いしますっ
了解しましたっ
ふっと、息を吐き出して雷輝は歩き始める。見慣れた道。仕事の帰り道。報酬の封筒を鞄にしまうと、雷輝ははあと溜息交じりに前髪を掻き上げた。「……何も、詰まらない物ばかり……詰まらない……」
『今年は少し時期が遅いか…』ポツリと呟き道通りに咲く桜の木を眺めていた。少ししてから下駄をカラカラと鳴らし、軽く目を閉じてなにかを呟いている男の横を通りすぎた。先頃になれば鳥たちが教えてくれるか…。
雷輝は目を見開いて、そして先程自分の横を通り抜けた相手を振り返った。人離れした美しい容姿に、露出の少ない黒の着物。雷輝は見惚れ、そして僅かに笑みを零した。「気に、入った……」
『……平穏だな』寄ってくる鳥たちと他愛ない話をしながら一人山奥に入っていく。彼は人ではないし、知られている神でもないから人にはそうそう見えないのである。
「……」じいっと黒柊を見詰めたまま、雷輝は気配を殺して後ろをついて行っていた。彼が何である、とか、倫理観、とか……その他諸々は雷輝の枷にはならないのである。ただただ愉しげに目を細め、恍惚とした表情を浮かべるだけで雷輝は何も言わなかった。
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