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「だって笑顔はいいものだろう?」こてんと首を傾げてELEは語る。それに、と続けた。「僕が笑顔じゃないと、カナが心配する」それは今にも泣きそうな笑顔だった。
「……笑顔は時に不安を煽るぞ」お前が笑顔で居ようが泣いていようが、弟は心配するだろう。そう言って、零斗はELEの頭をわしわしと撫で始めた。
「えっ……」でも、だって、と往生際悪く言い訳しようとするが、最終的に涙をぼろぼろと流してしまう。「ぼく、ぼくは……」
「……お前が弟を大事に思ってるのは充分わかっとる。だが方向性が違う」もう少し悩めば良いんだ、と零斗はELEを優しく見つめる。
「……まるで正解を知ってるみたいな言い種だね……」全然、わからないよ、どうしたら負担にならずに、と譫言のようにこぼしていく。涙と共に。
「まあ……俺は俺の答えを持っているからな。少なくとも俺の中には」お前は固定観念と自責の念だけで盲目に為っているんだろう、と言いながら零斗は溜息を吐き出す。
「固定観念は認めるけど……自責?」よくわからないなぁ、と言いながら涙を流し続けるも、浮かぶのはやはり笑顔だった。
「……ああ」解らないんじゃ無くて解りたくないんだろ、と零斗は唸るように呟く。……その目はELEを真っ直ぐ捉えていた。
「……み、ないで……」呻くようにELEは言った。それは別人が放ったようにも聞こえるほど違う声だったが、泣いているのは……確かにELEだった。
「良いや、俺は見る。……お前が泣いてることを覚えていてやる」だからお前は好きなだけ泣け、と言うと零斗はELEの肩を掴んだ。
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