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666 (プロフ) [2018年7月26日 8時] 1番目の返信 [違反報告・ブロック]「……僕の願い、か」
ベランダから淡い夜空を見上げ、青良は小さく呟いた。弟である涼斗は明日から学校ということで宿題の確認と荷造りをやっているらしい。先程までは青良と夜空を見上げていたのだが、今はもう室内にいる。
あまり綺麗とは言えないかもしれない硝子窓に背中を預け、青良は夜空を眺める。考えているのは涼斗が先程言っていた、「流れ星に願い事を三回唱えられたらその願い事は叶う」なんて簡単なおまじないのこと。
「何も願い事はないの?」
「そんなことはないよ」
「じゃあ、なんでこんな顔をするのかな」
「……どうしてだろうね」
「叶わないって、思ってる?」
「それは、……あるのかも、しれないね」
自問して、自答して、青良はするりと髪を解いた。夜風に髪を流せば、なんとなくだけれど、自分の傍らに今は亡き兄……赤羽が居るような、そんな気持ちになれて。
つるり、と天球の外側に光る筋が落ちた。ああそうか、流星群だ、と青良は呟く。ニュースが確かに言っていた。今日から三日ほど流星群が見られるのだ、と。
「涼斗、リビングの電気を消してくれるかな」
「はーい」
部屋の中に声をかければ気のない返事が聞こえて、少ししてからベランダに差し込んでいた光はすべて消えた。眼下に広がる町には確かにまだ光があるが青良達が住むのは高級マンションの上階であるため、そこまで大して影響はない。
もう一度、夜空を見上げる。人工的な光がほとんどなくなった状態で見る天球はあまりにも暗くて、星々はあまりに細かすぎて。……方角を確認してまた空を見上げれば、またつるりと流れ落ちていく光の筋を視認する。あれは確か大気圏で燃え上がる星屑なんだよなあ、と青良は夢も何もないような雑学を頭の中から引っ張り出してくる。
青良は赤羽を除いた兄弟の中では一番考えることが好きで、得意で、頭がいい。だから夢に縋ることが上手くできない。親が屑のような存在だったせいもあるのかもしれない。そのせいで希望というものはどうにも信じられなくて、無力感や疎外感のみを経験的に知っている。
「……四人の兄弟で笑い会える日が、また来ますように」
「兄貴が、鋼稀兄さんが……幸せに、なれますように」
「赤羽兄さんが、兄貴を止めて、くれますように」
「……僕や涼斗が、何かを成す力を持てますように」
「………………あの頃に戻りたいとは言わないから、どうか、普通の兄弟に……なれますように」
それが青良の願い。鋼稀には幸せになってほしいし、自分達に鋼稀を守れるだけの力がほしい。普通のような兄弟になって、笑い合いたい。それ以上は望まないし、実際青良にはそれ以上を望めない。
だって青良は、何もできなかったのだから。
「赤羽兄さんのようにとは言わない」
「兄貴のようにとは言わない」
「……あの二人の兄ちゃんのようにとは言わないから、どうか……僕に、何かを成させてください」
ベランダの手すりに体を預け、青良はそっと口にした。涼斗に聞かせる必要のない、青良の願い。青良の本心。
無力感まみれのアイノウタ。