.. - . 狩 人 .

彼は言った。
「今夜は月が綺麗だから」
僕はその日、月なんてどこにも見つけられなかった。
僕らはまるで違う世界で生きているみたいだ。
この感覚が嫌で仕方ない。何で？僕ら同じ星に住んでいるのに、何でこんなにも遠く感じてしまうのか、と。彼と僕との距離を考え、その言葉たちの遠さを思う度寂しくて仕方ない。
だから僕は嘘をついた。
嘘つきの僕には月が見えた。
少しだけ彼との距離が縮んだ気がして、馬鹿な僕は何度も嘘をついた。
何度も、何度も。
嘘をつく度君が近づき、嘘をつく度穢れていった。
見えもしない心をあぁだこうだと想像し言っては満たされ、渇いていく。
きっと誰も望まないこと。
個人の欲を満たす為の愚かな嘘。下らないと笑われてしまっても仕方の無いような僕を、彼は果たしてどんな目で見ていたのだろうか。
醜いと思われていただろうか。
彼はきっとそんなこと、思っていても言わない。
彼は他人が傷付く言葉を知っている。
今夜も月が綺麗だ。

抹茶 (プロフ) [2018年11月23日 8時] 3番目の返信 [違反報告]