ミラ姉(かざま。)さん用
「さぁてと、お掃除終わりー」しょーじは竹箒をしまい、んー、と伸びをする。するとなんだか石段を上ってくる足音。この足音は……「すぅ姉!」相変わらずよくわからないネーミングである。石段を上ってきたのは桜舞ミラである。
「わあ、すぅ姉の好きなやつだぁ。いいの?」こてんと首を傾げてみせる。疲れるとか、お腹がすくといった感覚が鈍いしょーじは食べ物をあまりすすんで食べることはしない。意外と謙虚なのである。
「えへへ、すぅ姉の手、きもちい~」撫でられるままになりながら、いただきます、といちご大福を頬張る。粉まみれにならないようそこそこ気をつけて食べ終えると、「そだ、お茶淹れるよ。すぅ姉も一緒に飲もう」
「そうだねー」湯飲みに口をつける。少し深めに淹れたけれど、すぅ姉の口に合うだろうか。「すぅ姉は天気晴れてるの好き?」他愛のない話題を振った。
「桜かぁ」早く咲くといいね、とすぅ姉の心情を読み取ってか、しょーじが呟く。「でも、夜桜とかの方がぼくは好きかな」
しょーじが珍しく顔を曇らせる。「……あんまり遠出はできないよ、ぼく」もう、神域の加護なしでは、ほとんどのものが見えないしょーじ。神社の外に出られないわけではないが、それでも近くがせいぜいで。「……近くに桜あったっけ」
「あー、あれ桜だっけ。物忘れがひどくていけない」容姿に似合わぬ年寄り臭い物言いをして、しょーじは笑う。「右近の桜、左近の橘だっけ」どこかで聞いた知識を引っ張り出した。
「白い花だよ。確かいい匂いがするんだって。桜と並べられるくらいだから、相当綺麗な花だよ」ちゃんと見たことはないけれど、そういえば、桜の木の反対側にあるのは橘じゃなかったっけ。「橘は夏に花が咲くんだって」
「えへへ。意外と灯台下暗しだよ。桜の近くにある」少し楽しそうだ。「橘って、花は夏の季語で、実は秋の季語なんだって」少し得意げでもある。
「うんうん。ぼくも作ったことないな」きっとすぅ姉は季語とか無視して変な詩を作るだろうな、と想像して、しょーじは少し笑った。
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