鳥居ノ下デ、さようなら
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睦 (プロフ) [2017年3月2日 22時] [固定リンク] [違反報告]夜。静寂に包まれた闇の中。その空間を照らすのはお堂の前にある大きな提灯だけ。提灯の光は闇に反して暖かくその場を照らすのみ。光としての役割を担っていない。
そんな夜の世界の中で。ボリボリと咀嚼音が聞こえてくる。普段は蚊の音ほど小さな音だったが、夜の静寂の中では音が反響し合って良く聞こえた。
「ハズレ、ハズレ、当たり、ハズレ」
そんな声が咀嚼音と混じって聞こえてくる。音を辿れば青年が一人。赤い敷き布が引かれたベンチの上で座っていた。何故、こんな場所にいるのか。その質問は青年にとって愚問でしかなかった。
青年の手元には雛あられと印刷されたお菓子の袋が。咀嚼音の元はこれだろう。
青年は袋の中にあるあられを一粒口に放り込むと『当たり』また一粒入れると『ハズレ』と。分別を付ける様に次々口の中へと入れていく。
『当たり』のあられを食べると青年の顔は緩んでいって、とても幸せそうな表情をするのだ。
何を基準にしてあられを仕分けているかは分からない。
ふと、青年の口と手がぴたりと止まる。視線の先には見覚えがある、自分と歳が近そうな少年が立っていた。
青年は彼を知っているような気がした。何故か名前が思い浮かば無いのだが、視線の先にいる彼が自分にとって、とても愛しくて大切な存在かと思えたからだ。
「こんな夜遅くにどうしたの?」
彼に声をかける。彼なら返事を返してくれる。そんな気がして。もし、彼の元気で明るい声が聞けたならば自分も明るくなれる様な気がして。
「眠れないの?それともお腹空いた?」
などと陽気な声で青年は彼に声を掛けながら。また一粒口に入れる作業を再開し、『ハズレ』と呟くのであった。
心臓ちゃん (プロフ) [2017年3月3日 7時] 2番目の返信 [違反報告]夜はあまり好きじゃない。だって何にもなくてつまらないじゃないか。
その日はいつにも増して夜の帳が濃く、耳鳴りがするくらい静かで。心細くなって神社の方にいけば、見知った背中を見つけた。声をかけようとすれば『ハズレ、当たり、ハズレ……』と、なんだか面白そうなことをしている。
ソワソワと後から覗いていたら、相手の方がこちらに気づいてくれた。
どうしたの、と愛おしげに紡がれた言葉が、
優しい瞳と声にすこしだけ安心して。
『たひゃはー!きぃはねー、眠れなくて!あんちゃんはこんな時間にどしたの?』
大きく口を開いて笑い、髪の間から見える相手に首を傾げる。
睦 (プロフ) [2017年3月3日 14時] 3番目の返信 [違反報告]夜が大好きだった。静寂と闇がより孤独という寂しさを引き立ててくれるから。
「きいちゃん、」
そう、きいちゃん。可愛らしい名前の彼を思い出す。三番目に生まれたからサブロウ。安直に付けられた自分の名前よりもとても可愛くて愛の籠もった名前だから、羨ましくも思った事があった事も思い出した。何故。そんな彼の名前を忘れていたのか。その疑問に青年は答えを出せないでいたが、ニコニコと元気に笑う彼を見ていると、心が癒やされ今はいいかと。軽く流す事にした。
「僕はね。お腹が空いて目が覚めちゃったんだよね〜」
どうしたのと訊ねてくれる彼に期限良く答えた。そして、
「きいちゃん、きいちゃん」
彼を招き寄せるよう手招きをしてから、青年の隣にぽっかりと空いた空席をとんとんと叩いた。座れという事だろうか。
「一緒に食べよ。お腹いっぱいになったら幸せになって、眠たくなっちゃうよ〜」
などと陽気に言ってしまうと、ゆっくりと微笑む。味に飽きてしまった小粒の雛あられを弄びながら。
心臓ちゃん (プロフ) [2017年3月4日 20時] 4番目の返信 [違反報告]きぃちゃん。とその口から紡がれる自分の名前は、なんだか凄く暖かくて。
呼びにくいから、という理由でつけられた名前でないその呼び方に心が満たされる気がした。
『お腹ぺこぺこな感じ?お腹がすいて起きちゃうなんてあんちゃん意外と食いしん坊~?』
少しからかうようにケラケラ笑うと、手招きされたカレの隣に腰を下ろす。そのまま甘えるように相手の肩に頭を預けると、ぐりぐりと擦り付けて。
『きぃにもその可愛いのちょーだい!きぃもたべるたべるー!』
相手が弄っていたひなあられを横から掠め、口に放り込んで咀嚼し。
甘ったるいのになんだか幸せな味に自然と頬がほころんだ。
睦 (プロフ) [2017年3月10日 19時] 5番目の返信 [違反報告]あまりに幸せそうな顔をして雛あられを頬張る少年の様子にぞわぞわとした、何だか君の悪い感情を青年は感じ取れた。
「もっと食べなよ。きいちゃん」
小粒のあられを少年の手の上に落としていく。まるで、小動物に餌を与えている様な気分になって今にでも少年の柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でて見たいという欲求にかられる。
「きいちゃんは可愛いな〜」
などと呑気な事を言いながら、自分も一つあられを口に入れて見せた。一噛みすると、口の中に甘い味が広がる。
「(あ、当たりだ)」
嬉しそうに味を堪能する。甘いと当たり、それ以外がハズレ。青年の認識はその2つだ。だが、好きな味ほどなかなか手に入らないのが日常というものである。こうして、自分の好きな味と会えた時ほど幸せな気持ちを感じるということはないのだった。
「きいちゃん。きいちゃんのあられはどんな味がするの?」
などと、唐突にこんな質問を切り出したのはこの様な経緯があったからである。いつもそうだ。青年の話に前置きが無いのは自分の頭の中では話の前置きが作られているから。自分にしか分からない話の流れだからこそ、あまり人とは合わないし、話が途切れてしまう。そんな事がしょっちゅうだ。
睦 (プロフ) [2017年6月27日 0時] 7番目の返信 [違反報告]「そうかーきいちゃんは深い事を言うね」
青年は幾度か首をこくこくと頷かせた。幸せの味に慣れる。全く持ってその通りだと思った。どう考えるかはその人次第だが、無邪気に言い放つ少年の言葉は酷く胸に突き刺さった。
「幸せは美味しい内にたくさん食べなよ。飽きてしまえば、持って帰ればいい。あられはまだまだ取り返しが付くからね」
青年は薄く笑いながら、自分の側にある減りそうに無いあられの袋を揺らしてみせた。色とりどりの小さなあられ達は食べて欲しそうにごそごそと体をぶつけ合って音を鳴らし合っているかの様に思えた。
ふと、少年は首を傾げる。
「そう...?そういえば、きいちゃんはいくつになるんだっけ?」
少年の歳をよく知らない。今振り返れば、こんなに長く話し合うのも今日が初めてだった訳で深く知ろうとは思いもしなかった。見た目の年齢からして、明らかに青年の方が年上に見えるのだが先程の皮肉を交えた様な現実味のある話しはどこか引っ掛かりを覚えてしまった。
ただ考え方が無邪気で何も考えずに言っているだけかもしれないが、逆にその子供ならではのあざとさが青年を疑問に駆り立てた一番の理由だったかもしれない。
睦 (プロフ) [2017年7月10日 13時] 9番目の返信 [違反報告]何歳かという質問に青年の手が止まる。はて、自分はいくつだったかと考え込むように少年から目を逸した。数秒黙り込んだ後、青年の重たい口がゆっくり開いた。
「とし、歳か.....17..いや18だったかなあ?祝ってくれる人がいないから直ぐに忘れちゃうよ」
ごめんね。と、消えそうな小さな声で後付た。それは申し訳無さからの謝罪では無いのだろう。ただ歳も答えられない不甲斐なさで皮肉気みた答えを隠したかっただけかもしれない。青年は話をそらす様に言葉を紡ぐ。
「きいちゃんは俺と少ししか変わんないんだね...16歳って事に驚いたよ」
くすくすと悪戯っ子ぽく笑ってみせた。青年より幼く見える少年は何かに魔法をかけられたと思えるくらいだった。それぐらいに無邪気で、純粋で青年はとても羨ましく思える。
「俺が大人っぽいんじゃなくて、きいちゃんが子供らしいだけでしょ?でも、きいちゃんはそのままでいて欲しいなぁ...大人なんかにならないで欲しいな」
と、言いながら愛し子を可愛がるかのように目を細めるのだった。
心臓ちゃん (プロフ) [2017年7月12日 0時] 10番目の返信 [違反報告]『だねー?きぃとあんまし違くないねー。きぃ子供っぽすぎだーって言われんだよー?きぃももーすぐ大人だもーん。』
左手の指をVサインにして振りながらニコニコと笑ってみせると、彼の陰りの指した顔を見つめ。
思考は外見に比例しないとはよく言ったのだ。片や達観したように大人びた彼と、片や何も考えてすらいない自分。どちらが楽かなんてわからないけど、少なくともきぃより大人っぽくてかっこいいなぁ。なんてひねりのないことを考え。
『えー?そうかなぁ。きぃ子供っぽい方がいい?でもあんちゃんは大人になるんでしょー?きぃ、仲間はずれはやだだよー?』