風来せし蛟

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狂気気味な巫

馬刺 (プロフ) [2016年5月16日 15時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

荘厳な黒城の最深部、深く暗い闇に包まれた地下牢。
足下を照らす程度の頼りない吹けば消える弱さの灯火しか光源がない頑丈な鉄格子と脆いながらも何十もある木製の格子に閉ざされた部屋にいるのはその城の主、命霊 倭留であった。

「泣かないでおくれ珱。暴れないでおくれ卂。私はお前達と同じだから。柘、襤、天、開、巻。おまえと私は表裏一体だ」


彼女は自分に言い聞かせるように焦点の定まっていない虚ろな瞳で虚空を眺めていた。
誰もいない空間のはずだが、彼女は多くの存在と喋っていた。
幻聴か幻覚か。気が狂ってるようにしか思えない行為だが、これは彼女流の精神安定剤である。
薬を吸ってハイなテンションになっているという訳では消してない。

彼女の体には無数の生命体が宿っている。
それは巷では陰と呼ばれ、人の御霊を喰らう存在である。
だが、陰は悪しきモノと扱われるが何故悪しいのか。
人の御霊を喰らわなければ死ぬ。そういう存在だからか。
疑問を持った彼女は命の神として、そして生きとし生けるもの、万物を愛する彼女は陰を祓い、殺 すのではなく御霊を喰わずとも生かせられるように己の中に入れた。
神としての力を使えば、一つの器に多くの御霊を入れる事など造作ない。
勿論代償はある。
陰に自身の精神が押しつぶされ、消滅する可能性。
自身が陰と同調し、陰に染まり堕ちる可能性。
そして、自身が神遣の座から堕とされる可能性がある。

しかし彼女にはもう陰を祓い、殺 すことは出来ない。
身に取り込んだ陰がそうさせない。
自分の意識が他者に奪われる感覚。
自分が誰か別のものに奪われる。
既に彼女は陰と化していた。
だが、神遣であるという誇りと能力によって完全に堕ちようとはいなかった。
否、出来なかった。

彼女は嘆く。
だれの手も煩わせたくないと。
この部屋から出て陰を一人でも救いたい。けれどもわたしが暴走したら示しがつかない。
惑う民を救いたいが救えない。
完全なる陰になれば愛するモノを救えないと。

しかし、彼女は同時に決意する。
いつ己が陰となろうとも、大切なものを守り抜くと。
かつて背を預けた盟友に牙を向けないように自分を封じこめると。
取り込んだ陰は永久の時を掛けて浄化すると。

陰を浄化しきる頃にはこの体は役目を終え、城の主は知らない者となっているのだろう。
不死の体ではない彼女にとって、この生で得た多くが零になり、人とは今生の別れとなるだろう。
転生すれば、今まで出会った人間との関係は消える。
別人となって人として降臨するのだから当然ではあるが転生を繰り返すうち、人に似過ぎた彼女はかなり心に堪える。

だが、これは自分の役目。
この体が息絶えれば永久の時間をここで過ごさずにすむ。
だが、取り込んだ陰は野に放たれるだろう。
取り込んだ際に浄化するため分け与えた彼女の力を持つ陰が野に放たれれば都は一夜にして滅びるだろう。
未熟な自分が情に流された結果が現状であることは分かっている。

彼女は城の奥に鎮座する。
陰を浄化し、己の罪を償うために。
もうここから一歩も出れはしない。
陰が暴走しないよう、ここで押さえ込む事にのみ集中して。

馬刺 (プロフ) [2016年5月16日 16時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]
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