璢琉のボード
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璢琉 (プロフ) [2015年11月16日 17時] 2番目の返信 [違反報告]昔の話をしましょう。
私の住んでいた町の外れには、森があったの。
暗い、大きな森。
決して入ってはいけないと、両親から強く言い含められていた森が。
あれは夏祭りの夜のこと。
町の中央の広場では音楽が奏でられ、人々が陽気に踊っていたわ。
私は、リンゴの蜂蜜漬けを買ってもらって、はしゃいでいた。
そして、両親とはぐれてしまった。
いえ…、今にして思えば、私はそこに行きたかったのかもしれないわね。
13歳。
私は、子供だった。
子供でありつつも、禁を犯すことの悦楽に憧れていた。
気付いたとき、私は森の入り口にいた。
森の奥からは、甘い匂いが漂っていた。
お腹の奥が、じんわりと熱くなるような、甘い匂い。
自分の身体が火照っているのが分かった。
そして微かな声と、禁忌の気配。
森に入ってはいけない。
森の奥には恐ろしい悪魔がいて、女の子を串刺しにして食べてしまうから。
母親の言葉を思い出す。
それは随分と直喩的な寓話だった。
遠くで、太鼓の音が響いていたわ。
そして、私の目の前には闇があった。
温かで優しそうで、けれど恐ろしくて、だけど抗えない闇が。
誰かが、私の手を掴んで森の奥へと引っ張った。
瞬間、私は恐怖に襲われた。
たくさんの夜の悪魔が、こちらを凝視していたから。
闇の中、至るところで「現実」は壊れていた。
なぜ、こんなところでそんなことをしているのか、私には何も分からなかった。
蒼白い光が、人のかたちとなり、私をそっと包み込んだ。
私は「それ」に抱きすくめられながら、恐怖と同時に期待を感じていた。
「それ」は私にこう言った。
「生き残る唯一の方法は、思考を停止することだ」と。
私は、その通りにした。
私はもう、少女ではなくなっていた。
半年後、私は魔女の疑いをかけられ、贖罪の塔へと投獄された。
父も母も、私とは目を合わせようとしなかった。
ただ、冷たい目で私の腹を眺めていた。
私は自白を強要されることはなかった。
つまり、魔女である明らかな証拠があったから。
父親の分からない子供は、悪魔による妊娠。
悪魔と交わうことは、魔女である動かぬ証拠と言われていた。
人の所業ではないでしょう。
そこで何が行われたかは、言いたくないわ。
想像されることすら、忌まわしい。
本当の悪魔は、人間たちよ。
璢琉 (プロフ) [2015年11月16日 17時] 3番目の返信 [違反報告]思えば、そのとき既に私は人ではなくなっていたのでしょうね…。
私の中で死んだ子供が、私を狂わせたのかしら。
それとも、私が生まれたのかもしれないわね。
私自身から。
干し草の匂いがする風が吹いていた。
処刑台からは、ずっと遠くのほうまで、見渡すことができたわ。
とても空気が澄んでいて、その中にいろんな悪意が混じっているだなんて信じられないくらい。
こんな美しい風景も、目に見えない人間の悪意に毒されている、だなんてね…。
そうして私は、首を刎ねられた。
世界が回転して、静止する。
私の瞳は、人間たちを見ていた。
私の処刑を見せ物でも眺めるように集まった人間たちの、狂気に満ちた風景を。