Vices and virtues

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鈴美 (プロフ) [2019年10月18日 2時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

事の発端はなんであったか、と寒空の下。一台のワンボックスカーの中。思考を巡らせれば、スーパーコンピューターのごとき処理速度を有する天才の頭脳は、時候に左右されることなく解を導く。
引きこもり生活中の美徳の頭領たる針館ウ井。とある幹部が彼女を外へ連れ出し、幹部達の集まる会議に出席させたことである。今後の方針や予算の兼ね合い、人員の入れ替えなどを采配し終えたその日のことである。
ヘトヘトになった針館がさぁ早く帰らせろ映画の続きを観させろと、彼女を引きずってきた幹部に帰路の手配をさせようとしたところで、会議室内に着信音。その幹部が通話した内容によれば、その持ち場で一件面倒事が発生してしまったとのこと。針館は対処をその幹部に一任したが、その意図は信頼かそれとも帰宅することしか頭に無いのか。恐らく六割は後者が占めていただろう。
そして急遽針館の帰路のボディガードとなったのが彼女の配下・美徳の幹部たる啓であった。適当な笑みを貼り付けたような冷やかな表情の彼に向けて、針館は呟きのような言葉を発した。
「この窓ガラスは古くなっていたっけ?さっきの会議で買い換えも提案すれば良かったね」
こつ、こつ、と。自身のすぐ側。ヒビが入ったばかりの防弾製の窓ガラスを針館はノックした。
針館と啓、他運転手一名を乗せて走るこの車体。三つ目の弾創を生んでしまったところであった。あぁ、プラス1。たった今、四つ目が。

鈴美 (プロフ) [2019年10月18日 2時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

針館は、ゆっくり溜め息を吐いた。それは酷く気だるげであり、煩わしいという感情を目一杯に車内に放出させるものだった。
「たった一人くらいなら、とっても痛いけど、私が処理できるよ」
針館は思考の全てを語ろうということはしなかった。啓に対し、暗に思案中の行動を悟らせようとしていた。
一つ、先の「とっても痛い」という台詞。そしてもう二つ目は針館ウ井の過去の行動に由縁する。

一年前のことである。状況は現在と似ていた。
美徳頭領目掛けて、姿の見えぬ間者から能力物質による投擲。側近の者の計らいにより彼女には傷一つなかったが、それを庇ったその人が深手を負った。
その折。愛しい配下が傷ついて、自堕落な王はその力を震った。途端彼女の体はよろめいた。無論部下が支えた。同時に決着はついていた。同時に一度空になった、か弱き頭領が叫んだ。叫んで、敵と、自身の分身が発現した場所を告げて微睡んだ。
手明かしはこうだ。投擲物の放射線を遡り、記憶済みの周囲の景色と照らし合わせ、針館ウ井の頭脳は間者の座標を特定した。そして、その体躯を狙い、分身を発現させた。
状況を確認した者はそれを「惨いものだ」と言った。針館同様に華奢な分身は、正しく狙い済まして、的の体と、融合していた━━。

という具合を用いれば、話は早かった。敵対勢力が一人ならばの話だが。
車の前方に、こちらへ敵意を向ける人影が一つ。
「啓くん。君、なるべくなら私の本体、無防備にしたくないよね。あと私、早く帰って映画の続きを観たいんだ」
ふふ、と軽く微笑んで、暴君は言外に囁いた。早く処理してしまえ、と。

鈴美 (プロフ) [2019年10月23日 5時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

ひゅう、と口笛を吹いて称賛を表した。迅速で、準備も手際も最高。優秀な幹部を持つことが出来て楽チン、訂正。幸いだ、と思い針館は慈愛を孕んだ目で啓を見つめる。
「へい、啓くん。おいでよ。頭を撫でてやるぜ?」
ふふんと鼻を鳴らして頭領は言った。安い褒美のつもりだろう。腕を軽く広げて、それでは抱き締める仕草だろうに。
通常車内では、シートベルト無しでは簡単に吹っ飛んでしまうことを恐れて針館はそんなことをしない(何で死ぬかわからないような体なのだ)。けれど今は道路の前方に刺客がいるため往生している。つまり停止しているから、彼女は珍しく興を起こして見せたのだ。
啓が嫌がっても素直に応じても、彼の選択は、針館にとってはどちらでも良いことだった。そもそも大の大人にそんなことを、言う。立場も考えればこれは命令であり、もっと言えば男女間であり、年の差も存在する。命じた主は底意地が悪いに違いない。
そして、どちらでも良かったのだけれど、結果はどちらでもなかった。
啓に向かって伸びた針館の細い腕。瞼を開閉するその一瞬ほどの時間。そこにするりと滑らかに、刃が生えた。否、下方。車体の床のその下から、長く、細く、しなやかな刃によってそれらは一つに貫かれていたのだ。
針館の張る目に、傷口から滴る血液が映った。

鈴美 (プロフ) [2019年11月1日 14時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

走る車の中。小さく、断続的に呻きながら針館は負傷した腕を押さえていた。ほんの数分前に啓に止血をしてもらったものの、当然まだ痛むらしい。俯いて、細く長く息を吐く様子には威厳も感じられない。
「う゛う゛う゛う゛け゛い゛く゛ん゛ん゛ん゛~゛~゛~゛~゛!゛!゛」
それどころか泣きじゃくっていた。先ほどまで成人男性をからかおうとしていた上司の成人女性が、年甲斐もなく。顔は涙と鼻水でぐずぐず、ぼろぼろ泣いてしゃっくりまで始まった。
「も~~やだぁ~~!!だから私は家から出たくなかったのに~~!私が何したって言うのさぁ!ぐすぐす、ひっく」
着ているジャージの袖で顔を拭う様は子どもじみていてだらしがない。しかし彼女に羞恥は一切無いのだ。怪我をする度、分身が傷を負う度にこんな姿は晒しがちだった。街中で剥き出しでないことは(針館はきにしないので彼女以外にとって)幸いだったろう。
チーーーン!と。針館はティッシュで鼻をかんだ。怒りも悔しさも悲しさも痛さも収まらなくて、涙も鼻水も今だ止まらない。
「今のは、『物体を透過する能力』だろうよ、ぐすん」
少し赤みがかった目元の頭領は、それでも言った。
「ぐすぐす……君の蝶で見えなかったんだ、ひっく。なら、見えないところ……道路の『中』を潜って、ぐすん、この真下まで来たんだろう。それじゃあ、私の手足の力及ばないのも仕方ない」
嗚咽まじりに彼女は言う、言う。そう、先ほどの泣きじゃくりようを本性だなんて……思われても仕方がない。が、彼女の『本質』こそはこの分析能力の高さ。
天才と謳われた彼女の頭は、どんな精神状態であっても、鋭く、速く、解を
明かす。
「でもねぇ、ぐすん。まだ私《キング》は生きている。くよくよしてる場合じゃあねーぜ、ナイトくん」
すびっと鼻を啜ると、ぐしゃぐしゃの顔で、針館はくしゃりと笑った。
「さぁ、反撃をしようか」

鈴美 (プロフ) [2019年11月12日 1時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

お気になさらず!こちらも返信の方、まちまちですみません(;>_<;)
ゆっくりお待ちしております(*^-^)

鈴美 (プロフ) [2019年11月27日 16時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]
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