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笑って、嘘を吐いて客の相手をする。虚しくない、わけはないのだけれど、それでも蘭は笑って繕って仕事をする。昔よりもこんなことをやることばかり、上手くなっている。大人になるって嫌だねぇ、と呟いた
飽きたというか、呆れたというか、疲れたというか。蓮は限界なのかもしれない。そういう言葉ばかり浮かんできてしまう。同族を諦めたし、家族に疲れた。血族のことは呆れたし、自分をどうにか支えようとしてくれていた番に応えられない自分に、飽きた。だからここまで来た。だからこんなところにまで来た。クズのようなことをしている。「……成人しても、何もないんだな」
そうやって、嘘を吐いて虚しく思ったり思わなかったりしている内に、蘭の一日は過ぎていく。ふと洗い物をしていた手を止めて、外を見てみれば、僅かに夕焼けになっていた。「……もう夕方、かあ」
ふと目を上げて外を見た。あまりに沈潜しすぎたらしい。もう夕刻。「……」もぞ、と床に丸めていた体を起こした。関節から音が鳴る。することもなく、考えるべきことも無く、ただ無為に時間を潰した。それだけのことで、もう夕方だった。溜め息を吐き出す。
閉店時間になり、蘭は店の入口を閉め、プレートをCLOSEにかけかえてカーテンを閉めた。今日も一日お疲れ様でした、とルーティーンにもなっているような言葉を呟いて、蘭は家の方に戻って行った
体が固まっている。溜め息を吐き出す。心の中のわだかまりも、どうにもならないのに。髪を掻き上げる。己の毛並みと同じ色の髪を、いつも、疎ましく思う。そのくらい見境なく、何もかもを嫌っているのだ。同じくらい、自分も。
自分の本心を完璧に知っているのは自分だけ。自分の嘘がどうにもならないことを知っているのも自分だけ。誰かにわかってもらいたい、慰めてもらいたいと思ったことは何度もあるけれど、今更そんな願いが叶うことがあるわけないと、蘭が一番よく知っている
「……わからないな……」結局、いつまで経っても蓮は自分自身のことも分からないままだ。この寂寥も、蓮からすれば名前のない感情でしかない。
「……やだねぇ」こんなのわかりたくないよ、と苦笑しながら零して蘭はソファに身を預ける。本当は苦笑なんかじゃなくて、泣きたい気分なのだが、性質上それも出来ずに息を吐き出すだけだ
虚脱感に苛まれ、蓮は深く息を吐き出す。泣ければ、もう少し楽になれたかもしれない。けれど泣くには言葉が足りなかった。何が悲しいのか表せない。だから泣けない。深く息を吐く。肺の中を空にするように。「……わからない」
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