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「………」午後5時。丁度、おやつ時が終わって、後ここに尋ねてくるのは殆ど友人たちだけ、というような時間帯。喫茶店の店主である蘭は、店内のスピーカーから好きな曲を流しながら鼻歌を歌い、皿洗いなどをしていた。「きょーうーは……そういや、凛が来る、なんて言ってたかなぁ」
「だから俺は興味がないと……!」己の腕を引く青年に何度も噛み付くがなあなあで流され、効果がない。かといって悪意があるのかと言えばそうとも感じず、彼にしては珍しく、こんなところまで引き摺られてきていたのだ。相手の膂力が人間にしては強いことも災いしたのだろう。公衆の面前で力を晒すわけにもいかず、蓮は見知らぬ店の前まで引っ張ってこられてしまう。「いい加減にしろ! 俺は店員でお前はただの客だろ?! なんでここまで引き摺られてこなけりゃならん!!」
「えぇやんえぇやん!な!」話を聞いていないのか、それとも聞いている上で無視しているのか、凛人は相手を半ば引き摺りながら、店の中に入ってくる。その様子を見て、蘭は苦笑した。「あーらら?凛が不幸な犠牲者連れてお出ましだぁ。」「まーた、蘭はそないなこと言う!」
「そう思うならこいつを止めろ! 迷惑も良いところだ!!!!」手を振り払おうと悪戦苦闘しながら店主と見た青年に噛み付き、蓮は警戒心を露わにした様子で威嚇し始める。フーフーと唸るが凛人には効果がないため、まあ無駄なのだが。
「あーあー、凛はまた凄い子連れてくるねぇ。どこでそんなに友達作ってくるわけ?」噛み付いてきた蓮は軽くスルーして、そんなことを飄々と珈琲をいれながら凛人に言う。最早凛人の友人の選ばなさは、蘭としては感心してしまうばかりだ。
「こっのクソ野郎……!」さらりと毒を無視した彼に歯を剥き出しにするような勢いで唸り、蓮は引き摺られて席へ座らせられる。それでもしばらくガタガタとやっていたが、上手くいかないと悟るとぐぅと唸って抵抗をやめた。座ってしまっては上手く力を出せない。隙を見て逃げるか、と脳内で考えつつ大きく溜め息を吐き出した。変な場所に来てしまったというのが正直な感想だ。
「はーい今日のオススメのカフェオレでーす」そう言いながら、蘭はグラスに入ったカフェオレをそれぞれ2人の前に置く。「なあーこれ俺のお砂糖入っとるー?」「んー、入れたよ?」「ならえぇけど……」その次の瞬間、蘭が嘘だけどね、と言うのと凛人がカフェオレを吹き出したのはほぼ同タイミングであった
馬鹿が、と鼻で笑い溜め息を吐いてから蓮は諦めたように出されたグラスを手に取った。そこには多少品の良さ、のようなものがあるが、まあ蓮自身が意識していないのだからないも同じである。そろりと口を付け、思ったよりも味が良かったことに眉を寄せる。「……はぁ」性格の悪さと作るものの味は関係しない。そのことの溜め息を吐いた。
「おっま、おま…!おまえぇぇぇ!!」「あははっ!やめてよー、凛ー、お兄さんの首締まっちゃうよー。」胸元を掴まれてもなお、蘭はカフェオレを拭きながら飄々としている。「いい加減慣れなよー、お兄さんは嘘しかついてないでしょー?」
ザマァ、と呟けばカフェオレをまた飲み、蓮は凛人をジト目で睨む。それでもカフェオレが悪くない味だから、と取り敢えずは留まっているようだ。こくりと嚥下し、ふう、と息を吐く。「連れてきたからには奢れよ」凛人にそう吐き捨て、頬杖をつく。
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