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「……」廊下ですれ違う。そのときにいつもいつも同じことを抱いている彼への不満が溢れて、櫂は呟いていた。「人の暗いとこ知らんからと恨むんはお門違いや。ど阿呆」
「……」廊下を歩きながら、淕空は他の生徒達を睨んでいる。話しかけてこようとする生徒に対して睨んでそれを牽制し、ヒソヒソと話している生徒に対しては舌打ちをする。何も知らない人間からすれば不良のような行動を、淕空はとっていた。「……あー…最悪や」
まるで不良のような振る舞いは、櫂の好むものではない。腹の中で悪態をつくのはいくらでも構わないのだが。「自分に自信がないんやったら威嚇しはるな。負け犬にしか見えへんで」淕空の隣で、淕空にしか聞こえない音量でそう呟くと櫂は通り過ぎていく。
「っ!」聞こえた声に、淕空は顔を顰める。そして其方を見て声の主がわかるとこれまた嫌そうに顔を顰めた。そして言葉に対して淕空は息を吐き出して口を開く「……余計なお世話やど阿呆」
「さよかぁ?」へらりと、見ようによっては馬鹿にしてるともとれる緩い笑みで淕空の方を振り返り、櫂はいつも見せている人好きのする顔で問い返した。「わしは、お前に必要やと思うもん言うただけやでぇ」
「せやからそれが余計なお世話や言うとんねん。わからんのか?」眉間にシワを寄せて、淕空は言う。この笑顔がホンマに腹立つ、と思いこそすれ口には出さず心の中で言うに留めて息を吐き出した。
「ああ、そうやったん? わし馬鹿やから、自分でもあらへん曽田の気持ちなんぞよぉ分かられへんかったわ~。すまんな!」ケラケラ笑いながら軽く謝り、ほな今度から気を付けるわ、と馬鹿にしたように言う。
「っ……」イラついたようにひくり、と一瞬表情を動かす。これやからホンマに他人って碌でもないわ、と誰にも聞こえないように小さな小さな声で呟くと、櫂に背を向ける。他人を拒絶するような雰囲気を醸し出す背中を向ける。「……わかられへんなら、話しかけんな。俺に関わろうとすんなや。気分悪いわ。」
「一人じゃ生きられへんくせに一匹狼気取るのもアホ臭いでぇ」逃げるつもりか、と内心馬鹿にしながら言葉を重ね、櫂は背中を向けた淕空の背中を眺める。まあ、結局は他人なのだから淕空の態度を変えてやろうとは思わないが。櫂は櫂で人間不信に近いところもあるのだ。淕空の心理は肯定しないにせよ、理解はできる。「ま、ほんまに一人で生きられるんやったら済まへんな。せやけど、何にも関わらんと馬鹿になる一方や」
「……やかましいわ」櫂のことを睨みつけて、淕空は言う。「大城戸はえぇやろなぁ?キャプテンでエースで、皆から慕われてはるもんなぁ?俺の気持ちなんぞ、ようわからへんのも当たり前やろなあ。……わからんなら知ったような口聞くな。」その言葉を最後に、淕空は去っていった
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