音楽の天使の卵

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家にいるのが窮屈で飛び出した。
外出したとしても行く場所はない。買い物をしたいとも思わない。
ただ陽の光を浴びたいだけ。
ぼーっと街を歩いていると、小さな公園が目に入った。少ない遊具に心を奪われる子供はいないようで、遊び盛りの子供やペットの散歩をさせている人もいなかった。
ちょうどいい場所だな。
子供が来たら黙ればいい。大人が来たら逃げ出せばいい。
ベンチの端に座り、先程自販機で買った麦茶を一口だけ飲む。
自販機というものを作ってくれた人に感謝したい。なんて素晴らしい技術なんだろう。店員に話しかけることなく飲み物が買えるなんて。
「ふう…」
息を吐く。そしてまた吸う。
歌詞を口に出す。そこに音を乗せていく。
歌ってるときだけは、嫌なことも好きじゃないものも全部忘れられる。
親からの仕送りに縋るのはもうやめたい。いい加減自分でお金を稼ぎたい。
人と話せるようになりたい。
その悩みは歌っているうちに消えた。

海月 (プロフ) [4月12日 17時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

「…見つからないな」
ボソッと独り言を呟いた。
理想のプリマドンナを探し求めて何年も経つというのに、未だビビッとくる子は見つからない。おとぎ話ならそのうち運命の人に出会えるかもしれないけど、そう簡単には___
「…ん?」
ふと、綺麗な歌声がどこからともなく聞こえてきた。窓の外に目をやると、遊具に囲まれた青年が一人で歌っているのが見えた。
その歌声の美しさは、とてもじゃないが言葉では言い表せなかった。何を歌ってるかまでは判別できないが、微かに聞こえるそれだけで凍りついていたものが雪解け、機械的に動いていた心臓がドクドクと高鳴るのを感じた。
「…そこを左折して、この公園の近くに止めてくれるかな?」
あの歌が終わる前に、彼がいなくなってしまう前に、一言だけでも…プリモ・ウォーモなのは少々意外だったけど、彼こそが僕の音楽に必要不可欠な存在なのだと直感が告げていた。
指定した場所に止めてもらい、ドアを開けて足音を立てぬよう背後から近寄る。ちょうど終わりに差し掛かっていたようで、半分ほど歩き切ったところで歌をやめた。
「___実に素晴らしい歌声だよ」
拍手をしながら、声をかけてみた。

3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信 (プロフ) [4月13日 20時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

やっぱり歌うのって楽しい。外だから声が響かないってところもいい。
あと2曲くらい歌ったら家に帰ろう。家に帰ったら声楽の勉強とかしようかな。ずっとやってみたいって思ってた。アルトくらいなら歌えるはず。
確実に無理だけど、いつか音楽でご飯を食べていきたい。確実に無理だけど。
だって恥ずかしいから。
恥ずかしいから聞かれたくなかった。なのに。
「ひっ!?」
歌い終わって満足したとき、急に後ろから拍手の音がした。
心臓の音が耳のすぐ側で聞こえるような不気味な感覚。頭が一気に白くなる気味悪い感覚。手足が震えて自由が利かなくなる嫌な感覚。これが全部一気に押し寄せてきた。
「あ、えぁ、そのっ…」
だめだ、いつもみたいに喋らなくなる。言葉が出ない。相手が何喋ってたかも分からない。なんでこの人はこっちに来たんだろう。きっと歌聞かれたよね。どうしよう、どうしよう。
頭が痛い。
「う…な、なん…ですか」
なんで赤の他人と話せるんだろう。しかも俺はいい歳して公園で独唱してるという、とんでもない変人だ。
そんな人に話しかけるなんて、一体どんな教育を受けてきたんだろう。身が縮こまる。

海月 (プロフ) [4月13日 21時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

「失礼、驚かせるつもりはなかったんだ。あまりにも素敵だったからつい…」
逃げ出さなかったことに安堵しつつも、彼の反応に申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「僕はムジチスタ。ムジチスタ·ピアノフォルテ」
怖がらせないよう距離を保ちつつ、名前を名乗る。二分の一の賭けにはなるけど、この名前を出せば怪しい者ではないと分かってくれるだろう。名前を聞き出せなくとも、少なくとも向こうも何か返さなければいけない空気は作れるはずだ。
「ここで歌ってるってことは…君、音楽が好きなんだろう?それもかなり」
彼の様子を伺いつつ、少し間を空けてから再び口を開いた。
「…ねぇ君、音楽活動に興味はあるかい?もし先客がいなければ、僕のところに来ないかい?僕で良ければ、君の活動を後押しさせてもらいたいんだけど…」
警戒心が強そうな彼に笑いかけると、名刺を取り出して彼に渡した。黒紙に金の文字が施された、いかにも高級そうなデザインだ。ピアニストだからか、真っ赤な薔薇が添えられたピアノの絵も入っている。
「もちろん、すぐにとは言わないさ。人世を左右することだからね、ゆっくり悩んでくれ。ここで決められないなら、決まった時に連絡してくれれば良いよ」

3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信 (プロフ) [4月14日 3時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

話の内容に頭がついていけない。
質問に答えるための時間が欲しくて、取りあえず差し出された名刺を受け取る。震えてる手で受け取るなんて、相手からはどんな目で見られてるんだろう。
高級そうな名刺で、この人の名前が金色の文字で書かれていた。
ピアノフォルテ?すごい名前だな。でも、これを見て驚いたのは初めてじゃない気がする。いつだっけ。
「俺は…リグノールって、言います」
名字だけでも名乗っておけば礼儀としては悪くないはず。
音楽は好きだ。歌うのが特に好きだし、聞くのももちろん好き。楽器の演奏は出来なくてもやってみたいと思った時期なんていくらでもある。この人が言う『かなり音楽が好き』に当てはまりはする。
でもなんで俺に?もっといい人は山ほどいるはず。俺に対して活動の後押しをして何になるんだろう。そもそも活動の後押しって何をしてくれるんだろう。
「えっと…」
この人、明らかにお金持ちだ。しかも話しかけてくれた。歌ってるとこを聞かれたけど。
この人に着いていけば、もっと楽しく歌えるようになるかな。自信を持てるようになるかな。
人間嫌い、直るかな。
「人前とか、そういうときとか…全く歌えないんですけど…」
歌えないから才能はないよ。そう言いたかった。
技術の才能を認められても人前で歌えなかったら意味がない。才能がないから、着いていきたいと素直に言えなかった。
歌えるけど歌えない。それが俺だと思う。

海月 (プロフ) [4月14日 14時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

相手はおずおずと名刺を受け取り、名乗ってくれた。そりゃ怖いよね、知らない男に歌を聞かれてただけでなく、今後に関わる話を持ちかけられたんだから。
技術的な面など見れば、確かに舌を巻くほど優秀な人材はゴロゴロいる。もちろん、誰かに刺さる歌にそれなりの技術は欠かせない。けどそうじゃない。僕が求めてるのは、それよりもっと大事なこと___この子こそが、と僕が思えるかどうかだ。
歌の上手い下手は僕が指導しなくても…というか、最悪独学でもある程度はどうにでもなるけど、僕が求めるものは、僕自身で一から育てる必要がある。それもビビッときたとびきりの。そしてその卵がこのリグノールという青年だったというわけだ。本人は不思議そうだけど。
「ああ、別に構わないよ。あがり症なら対策していくし、それ以外に何かあるならこっちも考えるから」
何でもないことのように笑みを浮かべながら告げる。今の時代、生配信とかその場にいなくても歌を届ける方法はいくらでもある。必要なら仕掛けでも作れば良い話だし。
「もちろん、君からお金を巻き上げたりはしないよ。代わりに…なーんて囲うつもりもない。若い音楽家を相手に悪魔みたいなことをするほど、僕は落ちぶれてないさ」
あはは、と笑ってみせた後、その顔に少し真面目な色を滲ませた。
「…どうだい?悪い話じゃないだろう?前向きに考えてもらえると嬉しいんだけど…」

3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信 (プロフ) [4月16日 3時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

「え…?」
お金を巻き上げたりしない。その言葉に目を丸くする。子供の頃の嫌な感じが一瞬だけ頭をよぎった。
キャッチセールスみたいな一種の詐欺かなって疑ってたけど、そうじゃないのかな。名前に聞き覚えがあるし、きっと有名人だ。名刺をつくるくらいだし。そんな人が詐欺なんてするわけないよね。
もう一度名刺をちらりと見る。ピアノが得意な人なのかな。いいな、ピアノ。弾けたら音取りとか弾き語りとか、一人でできるよね。
人前で歌えないっていう欠点もどうにかしてくれるらしいけど、暴力とかで脅したりして力ずくで歌わせたりはしないよね…?不安だ。
何も問題はないって言いたげに彼は笑う。
いいな。素敵な笑みだ。
いつの間にか彼は真面目そうな表情をしていた。目が合った。やっぱり人と目を合わせて話をするとか苦手だ。俯く。
「じゃあ、お願いします…えっと、着いて行かせて、ください」
麦茶が入ったペットボトルを握る。
もっと歌いたいのもあるし、いい加減人との会話に慣れないといけない。もしかしたら彼に着いていけば職を見つけることができるかもしれない。
希望と同時に不安もいっぱい頭に浮かんでくる。
もし相手が実は悪人で、お金を騙し取ったり包丁を向けてきたらどうしよう。
とりあえず後で彼のことを調べよう。本人に聞くとか絶対無理だから。

海月 (プロフ) [4月16日 10時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

今日のところは引こうかと考えていると、俯いてはいたが頷いてくれた。
僕の誘いに首を縦に振った、すなわち何年も何年も探していた、僕の音楽に必要なものがようやく…その事実に背筋がゾクッとする。良かった、素直に受け入れてくれて…仮に断られても、時間をかけてじっくり囲ってくつもりだったけどね。手間が省けて助かった。
「…君ならこう言うと思ったよ」
本音混じりの笑みを浮かべると、言葉を続けた。
「近くに車を止めてあってね、今から来てくれるかい?…心配しないで、僕は君を騙す悪者なんかじゃない。不安なら、ここで証明してみせようか?」
どこか不安げな彼の様子を見てふっと微笑むと、手元のスマホで自分の名前を検索した。
「改めて、僕はこういう者でね…知らなかったら、信じてくれるまで検索してくれて構わないよ。読めなかったら設定から変えるから、その時は教えてほしいな」
楽しげに目を細め、検索画面を貴方に見せるように渡す。スマホを持つ細長い指は白く、手入れが行き届いていた。ところどころに残る薄く小さな傷痕が、彼が音楽にどんな風に向き合ってるのか静かに語っている。

3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信 (プロフ) [4月18日 6時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

「い、今…から…?」
出かけるならもっと綺麗な服を着たいし、髪も整え直したいし、麦茶とかいらないから置いていきたいし、彼の検索も…
「あ…」
気づけば俺の方にスマホの画面が向いていて、そこには彼の名前が載っていた。
数々の写真、彼を紹介する記事、大量の演奏の動画。ラグドールのアビー。
ピアノのアポロン。
「あ…!」
ああ、そうだ。思い出した。
昔、友達が話してた。音楽の先生として来てくれたらいいのに、とか馬鹿げたことを笑いながら話してた。毎日演奏の動画を見せてきて、こうなりたいって楽しそうに語ったり。俺もつられて調べて演奏を聞いたり…
頭がだんだん白くなる。
なんでこんな大スターがここに?そんな人と俺が釣り合うの?なんでそんな人が俺を必要としてるの?なんで忘れてたんだろう?
なんで…?
着いていくの、やめたほうがいいかな。今なら嫌だって言える。どうしよう、どうしよう…
「えっと、その…」
すごい人に出会えて声をかけられた感動と一緒に、自身の能力の情けなさと弱さが一気に押し寄せてくる。もちろん後者のほうが大きい。
俺なんて凡人以下なのに。
「ほんとに、俺なんかが…いいんですか…?」
また俯く。視界の端に彼の白い指が目に入る。

海月 (プロフ) [4月18日 17時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]

「あぁ、やっぱり急だったよね?すまないね、そしたら都合の良い日に…」
話してると唐突に貴方が声を出したので黙った。どうやら知ってくれていたらしい。音楽以外にもアビーちゃんの話とか結構してるから、もしかするとそういうイメージの方が強かったのかもしれないけど。
「…信じてもらえたかな?」
クスッと余裕のある微笑を浮かべる。と、まだ不安そうな様子で、本当に自分で良いのかと尋ねられた。仕方ない、少し強めにいってみるか…
真面目な顔に切り替え、スッとしゃがんで跪くような姿勢になる。決して安くないズボンに砂が食い込む感覚がしたが、気にも留めなかった。
「君が良いから誘ってるんだよ。リグノール、他の誰でもない、君の歌声に惹かれたから」
嘘偽りのない真剣な眼差しで、静かに説得する。
ここまで来てやっぱり辞めますだけは絶対に言わせない。言わせたくない。
「…君の歌は、僕の音楽に必要なんだ。今日でなくても良い、明日でも明後日でも構わないから、僕のところに来てくれ…お願いだ…」
懇願するような声色で「断らないよね?」という圧を包み隠しながら、頭を下げる。彼が手に入るなら、このくらい安いものだ。

3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信 (プロフ) [4月19日 0時] 10番目の返信 PCから [違反報告]
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