私と後悔
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自分には、いい加減うんざりしている。
ろくでもない男と付き合い、あっさり振られた挙句、サイフを盗まれるなんて。なんて不運体質なんだろう。こんなことじゃ、家への帰り道ですら分からない。あっけなく追い出されたホテルの前でうろつく。タクシー、却下。バス、却下。徒歩、却下。どの方法でも自分の家にたどり着けないことを確信し、僕はうなだれる。
元はと言えば、近くのホテルに入ったのが間違いだったのだ。自分の家から離れているという事実に、気づかなければならなかった。後に振られてしまうということを知らない少し前の僕は、浮かれて手なんて繋いでいた始末だ。
今思えば、人の多い街中で男ふたりが嬉しそうに手をつないでいたら、ゲイの僕だって見て見ぬ振りをするだろう。そりゃあ、見ていていい気はしない。お仲間だなんて思われたくもない。それは僕だって同じだ。
誰もが自分を明らかに避けている中、元カレにでも合ったらそれこそその場で振られていたかもしれない。そう思うと、行為の終わったあと、二人きりの部屋で話してくれたことは感謝する。勿論、親指の第一関節分くらいしか感謝はしていないが。
はあ、とため息をつき、その場にしゃがみこむ。夜が明ければ、状況も少しは変わるだろうか。否、そんなことは無い。それは僕が一番よく知っている。むしろ動きにくくなるだけだと、僕はまた確信しているのだ。
誰か拾ってはくれないだろうか。いや、拾ってくれなくたって構わない。体を売って金が貰えるのなら、喜んで売春しよう。そんな願いが叶うはずもなく、道行く人々は僕を哀れな目で数秒見つめ、通り過ぎてゆく。誰も僕に声をかけてくれやしない。
なんだか、暖かいと思っていたこの街が、僕を拒絶したようだ。痛みを和らげるように、胸に手を当て、静かに涙を流した。


いや、おとぎ話ではないんだ。こんなところでかっこいい王子様が拾ってくれるわけないじゃあないか。そう自分に言い聞かせ、僕は全くと言っていいほど知らない道を、ふらふらとおぼつかない足取りで歩く。
そんなことを言い聞かせたって、心のどこかでやはり強請ってしまうのだ。僕を助けてくれる心優しい男性が…いや、女性でも構わない、いるのではないのかと。
「そこのお兄ちゃん、遊ばなぁい?」
生憎、こんな惨めな僕に声を掛けてくれたのは、どこかのかっこいい王子様などではなく、そこらへんで酒に酔ったおじさんだ。僕はうんざりして、僕の意志なんかお構い無しに組んできた肩を跳ね除ける。
酒臭い。嫌いな匂いだ。僕ももう成人しているため何度か酒は飲んだが、こんなに酒臭い人は初めてだ。僕がそそくさと帰ってしまうせいもあるのだろうが。
とにかく、僕はこの酒にまみれた臭いが、超がつくほど苦手、いや嫌いだ。簡単に跳ね除けられた腕を、懲りずにもう一度組もうとする男性に、僕は半ば呆れながら反抗する。
「…やめてください」
僕の声は小さ過ぎたのか、隣の男性には届いていないようで、相変わらず肩を組もうとしている。抵抗するだけ無駄か。これでお金が貰えるなら僕は____

