東京は小説より奇なり

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12月24日。その日は所謂クリスマス・イヴだった。

早崎 (プロフ) [2023年12月5日 0時] [固定リンク] スマホ [違反報告]

目的の日まではまだしばらくあるものの、成瀬冥はどうにも落ち着かずに街へと繰り出していた。そう、年が開けると成瀬冥にとって最も大切な1日──不知火牢の誕生日──があるのだった。明日牢と共に食べるためのスイーツの材料の買い出しも兼ねてショッピングモールへ向かう。
「あ、せっかくならクリスマスプレゼントも買おうかな。」
楽しみ事の準備をする足取りは軽い。ワインレッドのケープが揺れた。冥にとってオシャレは武装だった。特に1人で出かける時はその意味合いが強い。より美しく、魅力的な姿は他者からの悪意を好意に変える。それは冥にとって何よりの武器だ。ショーウィンドウに映る自らの姿に冥は背筋を伸ばす。
ふと視界の奥に見覚えのあるシルエットがあることに気付いた。あの茶髪に赤い眼鏡、間違いない。声をかけるか素知らぬ振りして通り過ぎるか、悩んでいるうちにすぐそばまで来てしまっていた。これは声をかけない訳にもいかないだろう。でも「やあ」なんて親しげに声をかけるのもなんだか違和感がある。一巡りの思考の後、成瀬冥は息を潜めて青年の背後に立ち、背伸びをして、目いっぱいの低い声で「動くな、朱彗翔太」と呼んでみた。

早崎 (プロフ) [2023年12月5日 0時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

熟考の中に突然飛び込んできた声に、朱彗翔太は泡を食って振り返った。妙に神経質な一面はシンシンとした冷気のためか、若干増長されている。振り返って真っ先に目に入った姿が見覚えのあるものーーーとはいえ、休み中はご無沙汰だったがーーーで、翔太はすぐに態勢を持ち直した。
「っんだよ、成瀬か……。ビビらせんな」
友人でもないので当たり前だが、制服以外の姿を見たのは久しぶりかもしれない。ケープのワインレッドが色素の薄い肌と合わさって、妙に目に沁みた。

中村 (プロフ) [2023年12月6日 0時] 2番目の返信 PCから [違反報告]

「うわびっくりした。動くなって言ったのに即行で振り返るじゃん。反撃でもする気?こわ……」
なんて軽口をたたいてみた。辺りを見渡しても普段ならあるはずの姿が見当たらない。珍しいことに彼は今1人のようだった。朱彗の見ていた場所に視線を移す。やけに真剣に見ていたようだが一体何をそんなに見ていたのだろうか。

早崎 (プロフ) [2023年12月6日 0時] 3番目の返信 PCから [違反報告]

露骨に狼狽の色を見せた成瀬に一瞬訳もなく押し黙る。知り合いじゃなきゃ殴ってたぞとごちれば、相手が野蛮なモノを見る目を向けてきたのが分かったが、大変結構だーーー無論、皮肉である。
「…にしても、こんな日のこんな時間に珍しいな。今年は出来合いで済ませんのか?」
成瀬は甘いモノを作るのが得意だと聞いている。意外にも彼と鉢合わせた現在地点は、最近オープンしたケーキ屋の前だった。
こんな場所で鉢合わせて、しかも向こうが自分に気がつくとは、意外も意外だ。付き合いの長さ故だろうか。ちなみに今宵の翔太は、年末帰省した姉と母の2人に命じられ、クリスマスケーキを買いに来た経緯であるーーーー今年もささやかな抵抗を試みたが、もはや翔太が買いに行くのが恒例行事になってきていた。

中村 (プロフ) [2023年12月7日 1時] 4番目の返信 PCから [違反報告]

"プライド"という程のものでもないのだが、なんとなく朱彗の発言にムッとして
「は?バカにしないでよ自分で作るに決まってるでしょ」
なんて言ってしまった。よりにもよって、そのケーキ屋の目の前で。
──しまった、牢君がいたら怒られてたな……。
「まあ、ここのケーキも美味しそうではあるけど」
と一応フォローしておいた。これでよし。
「朱彗君こそ、ケーキなんてどうするの?1人で食べるの?」
なんて、ちょっとからかってみる。
ショーウィンドウに目を向けて今年はブッシュ・ド・ノエルにしようと決めた。

早崎 (プロフ) [2023年12月7日 1時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

翔太としては特に「出来合いのもんで済ませる」に妥協やアイロニックな意味合いはなかったがーーーというか、始めて1年そこらの料理の腕で流石にホールケーキは難しい、というのが本日の翔太的内情だがーーーが、パティシエからすると、少々抵抗があったらしい。「たまにはプロの味を堪能してもいいんじゃねーの」と、なんとなくダメ押しフォローをしておいた。
「ざけんな、母さんと姉貴に頼まれて来てんだよ」
成瀬は特に急用があるわけではないらしい。いつの間にか隣に並んで、同じようにケーキを見ていた。

中村 (プロフ) [2023年12月7日 12時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

「ああ、なんだパシリか」
とショーウィンドウを眺める。プロのケーキ自体に不満は無い。実際目の前にあるどのケーキもとても繊細で美しい。でも、もしこれを牢君が食べて「美味しい」なんて言ったら?冥は身震いした。絶対に、嫌だ。牢君が食べて美味しいと言うのは僕が作ったものだけであって欲しい。……なんて、叶うはずのない夢物語なのだけれど。でも、せめて、スイーツだけは誰にも譲りたくない。
ふと、家族に頼まれて来たという言葉に気になるところがあった。
「朱彗君、今年は蒼雅君と過ごさないの?」
何か約束をした訳では無いが、自分達は今年のクリスマスはどうする?と当然のように共に過ごす流れになっていた。てっきり彼らもそういうものなのだと思っていたから、少し意外だった。

早崎 (プロフ) [2023年12月7日 21時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

成瀬の的確かつ無難な問いに、翔太はまたもや一瞬声を詰まらせた。昨日の水雪と泥が混ざった地面を靴先で叩きながら、ばつが悪そうに口端を落とす。
「今年のイブは先約があんだよ……。別にいーし、当日は遊ぶ約束してるから」
先約があるなんてもっともな言い回しをしたが、実際は、少々事情が異なる。
キリスト降誕祭前日であるクリスマスイブーーー12月24日は、日頃世話になっている友人の誕生日だ。本日の主役である彼は滅法消極的ーーといっても最近は引かなくなってきていたがーーーだが、見るからに花梨のことが好きで。本日ばかりはさしもの翔太も身を引いて、主役に花を持たせた次第である。最も、午後だけだが。
目の前の青年にそれを知られるのは、未だなんとなく気恥ずかしかった。

中村 (プロフ) [2023年12月7日 23時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

「ふーん」
なんとなく、今日蒼雅君と一緒じゃないのが本願ではないと言っているような気がして、何を返すべきか迷う。心無しか寂しそうなように見えて調子が狂いそうだ。真っ白なホールケーキに視線を移す。……そうだ。
「じゃあケーキだけ家に置いたら僕に付き合ってよ。明日牢君と食べるケーキの材料と牢君へのクリスマスプレゼント買うんだ」
タルトにしても喜んでくれそうだな、などと考えながらショーウィンドウを眺める。いっそ複数種類作るのもありかもしれない。いや、そんなに2人では食べきれないか。
何か良い案は無いものか……。

早崎 (プロフ) [2023年12月8日 9時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]

「あー?ああ……別にいいけど、気の利いた展開期待すんなよ」
成瀬の方から珍しく提案を受けて若干動揺して、微妙な受け答えになってしまった。どうせケーキさえ買ってしまえば夕飯まですることもないので、暇潰しぐらいにはなるだろう。花梨や不知火が一緒の時こそ食い気味で同行すれど、花梨と不知火の両者ががいないパターンは滅多にない。蔑ろにするのも好意を跳ね除けるみたいで後口が悪いし、まあ、こういうのも偶にはありだろう。
「適当にケーキだけ選んじまうから、ちょっと待っててくれ。……まぁ、なんなら、普通に食って行ってもいいけど」

中村 (プロフ) [2023年12月8日 20時] 10番目の返信 PCから [違反報告]
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