えすえすおきば
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カレンダーに付けられた印に心が踊る。今日は万文集舎の新刊入荷日――つまり、行秋と会う日だ。
いつもより早起きして、身支度をしっかりと整える。新調したワンピースは爽やかな海色で、アクセントカラーの金色が彼の瞳みたいでお気に入り。髪は括るか下ろすか迷ったけど、本にかかると邪魔だから結局一つにまとめた。
今日も璃月港は活気に溢れている。鼻歌まじりに飛び込んだ快晴の空の下、軽い足取りで慣れた道のりをたどる。朱塗りの階段に足を掛けたとき、突然後ろから呼ばれた。
「**!……せっかくだから一緒に行こう」
軽やかに二、三段駆け上がった行秋がくるりと振り返り、私に手を差し出してきた。その手を取った途端にぐいっと引っ張られて、その力になんとなく男の子だなあ、と思った。
「待ってよ行秋、本は逃げないよ」
階段を駆け上がりだした目の前の少年に言うと、行秋は心底楽しそうな笑顔で振り向いた。
「僕が君と、――こうしていたいだけだと言ったら?」
繋がれた手を掲げてそう問いかけられれば、私は降参するほかない。行秋に甘いと友人たちからはよく言われるが、全くその通りだ。そもそも行秋だって私に甘い、お互い様といえばそこまでの話なのである。
ただ、……この繋がれた手も、他の女の子よりも少しだけ近い距離感も、その理由をはっきりと教えてもらえているわけではない。昔からの付き合いで当たり前になってしまっているから。
私はこんなにも、君の行動ひとつひとつで心をかき乱されているというのに。まるで気づいていないみたいな行秋の態度にやきもきしてしまうのは、致し方ないことだろう。
箸レーゼ (プロフ) [2024年10月23日 11時] 1番目の返信
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