えすえすおきば
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夏は苦手だ。暑くて、うるさくて、鬱陶しい。汗でベトベトするし、日焼けを気にするのも面倒くさい。おまけに、この世界には冷房がない――
そう、冷房がないのだ。文明の恩恵の権化とも言える冷房が、ここテイワットには存在しない。最初にここへ来たときは冬の入り口くらいの頃で、暖房とはいかなくとも暖炉があったから寒さに悩むことはなかった。しかし今、この茹だるような暑さの中扇風機すらないというのは、地球人の私には堪える。あぁ、あの風が懐かしい......
「おーい🌸、聞いてる?暑くてぼーっとしちゃった?」
「......あ、たるたりや............んん、そうかも」
「ははっ、今日はやけに素直だ。おいで、いいものをあげよう」
いいものって何だろう、と訝しみつつ彼に身を寄せると、タルタリヤは徐に自身の腰へ手を伸ばした。大きな手が私の手を優しく掴んで、何かを握らせる。......なんだか、なんとなくだけど、ちょっぴり涼しくなったような気がした。
「?......見てもいい?」
「もちろん」
私の手のひらの上で、青色の神の目がキラリと夏の陽光を反射する。これは、......タルタリヤの「神の目」そのものだ。水面のきらめきみたいな反射がまぶしくて、もう一度ギュッと手に握った。
「水元素だから?これ、程よく冷たくて気持ちいい......」
「だろ?夏にはピッタリなんだ。君のお気に召したみたいで俺も嬉しいよ」
言葉通り嬉しそうなタルタリヤを見上げると、彼は私の手に自分の手を重ねて微笑んだ。この顔を見ると、愛されてるんだなあ.......とはっきり実感できてしまうから不思議だ。それと同時に、私にも好きな気持ちが溢れてくる。まるで魔法使いみたいだと思った。目に見えない愛を、見えるようにしてしまう魔法使い。
「私、まだこの世界に来てから初めての夏で.......きっと、慣れないことがまだまだいっぱいある。だから、――この夏はずっと一緒にいてくれる?」
「酷いなぁ、この夏と言わずずっと一緒にいてくれないの?」
「......あ、た、たしかに......?」
「答えはもちろんイエスだよ、俺に任せてくれ。君と過ごす夏は楽しいものになりそうだ」
ふわりと撫でられた髪に降り注ぐあまりにも優しいキスに、夏への期待が込み上げた。
箸レーゼ (プロフ) [2024年7月21日 1時] 1番目の返信
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