鈴凛のボード
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鈴凛 (プロフ) [5月27日 1時] 1番目の返信 [違反報告]金魚病。いつからかあって、かかる原因も、その治療法も確立されていない、そんな病。
「はあ~~! 商売上がったりだ! ここ最近は金魚病がどうだとか言って、金魚買う奴だって少なくなってやがる。その上金魚すくいも祭りの参加者からのクレームだって? そんなこと言ってる奴らの方が、よっぽど差別的だろ」
タオルをひねったものを頭に鉢巻のように付けた男性が、ドンと机をたたいた。その顔には青筋が浮き、茹蛸のごとく赤く染まり、瞳孔が開いている。手に持っていた受話器を床に叩き付け、ドスドスと歩き、扉を壊れんまでの勢いで開け放った。
「お父さん煩い」
食卓の椅子に座った男の子が手元のゲームから目を逸らさず、冷淡な口調でそう言う。
「はあ!? じゃあオメエ、金魚をこんな扱いする奴ら許せんのか!?」
怒り心頭と言った様子の男は机を再びドンと叩いた。揺れが伝わったのに眉を顰め、男の子は強い口調で言う。
「どこにでも、そんな頭の狂ったやつはいるんだからグチグチ言ったって意味ないだろ」
鈴凛 (プロフ) [6月2日 23時] 2番目の返信 [違反報告]幼稚園の頃から同じクラスで、更にいつも自分と同じように朝早くから夜遅くまで幼稚園に居る子だった。いつも最初に来るのも二人、最後に残るのも二人となれば、仲良くなっていくのは当然で、テレビの話や遊び方、今流行りのおもちゃまで、娯楽の事はなんでも湊から教えてもらっていた。
それとはまた別に、湊は水生生物が大好きでいつも話していて、普段は負けず嫌いが発動して、勉学について教えられたがらない樹もその話をいつも熱心に聞いていて、それをきっかけに樹も水生生物にハマっていった。
『ネコザメの卵の形はドリル状』だとか、『イルカとクジラは大きさでしか分かれていない』だとか、『メダカは自分の卵を食べちゃう』だとかそんな話をいつもしながら、二人で図鑑や画像集を開いて、顔を寄せ合い覗き込んでいる事が増え、いつしか数年が経っていた。
樹たちが通っていた保育園では、毎年夏まつりが開催されていた。夏になると毎日のようにみんながそれを待ち望み、前日にはテンションが上がり過ぎて怪我をする子もいる。そのくらい、保育園児にとっては大きなイベント。その夏祭りに参加できるのも最後の年長になったとき、新しく追加された屋台が『金魚すくい』だった。
二人は興奮して、顔を見合わせて歓声を上げた。だって、それは保育園でしか会わない二人にとって初めて一緒に見た魚だったから。
お互いに大きくなるまで、いつか亡くなってしまう日までちゃんと飼おうと約束して、初めて使うポイと格闘しながら、やっと捕まえた数匹を光に掲げた。
赤、黒、斑。透明なビニールの世界で空を泳ぐ姿に、樹は恋をして、一番大好きな魚が決まった。
また数年が経って、金魚も二回り、三周り大きくなった、小学二年生の終わりに、湊が転校することになった。
小学二年生というのは、無力なもので、手紙の出し方だってイマイチ分からない。お互い携帯電話なんて持っているはずもない。学校で会えなくなってしまえば、話す事も、連絡する事すらも出来なくなる。だから、樹も湊も周り皆を困らしてしまうくらいに泣いて、泣いて、泣いて。最後にまた大きくなった金魚と一緒に会おう、金魚の寿命は思っているよりウンと長いから、きっと、きっと、また会える。そういって引っ越しする前の金曜日、二人は小学校で別れた。
鈴凛 (プロフ) [6月6日 1時] 3番目の返信 [違反報告]中学一年生頃だっただろう。世情に疎い僕は、何も知らず生きてきて、それの存在を知る事さえ、ウンと遅かった。
『金魚病』
吐き気のするその名前。金魚のような形をした何かが体内に発生し、やがてその金魚に内側から皮膚を破られて死ぬ奇病。
気味が悪かった。大人というのは心底馬鹿なのだと思った。そんな名前を付ける事がどう影響するのかも分かっていない。少なくとも自分の周りでは、それが原因で金魚を苦手とする人間は珍しくもなかった。
あの子達を愚弄するのかとそう、強い怒りを覚えた。
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「星野は〇〇高校志望なのか、まあ、お前の学力なら十分狙える範囲だな」
「ありがとうございます」
書類に目を落としてそういった先生は、だがなあ。と言葉を続ける。
「もっと上も狙えるんだぞ」
訝しむような表情。コツコツと机をたたく音が響く。学習塾の教師でも無い、只の公立中の先生だから、進学実績の面ではなく、単に不思議だっただけだろう。
「向上心が無い訳ではないのですが、母子家庭で出来るだけ近場の公立を選びたいので、都内の私立は難しく・・・・・・」
そう言い淀めば、「そうか、悪い事聞いた」と話を切り上げられた。
どちらも口を開かない沈黙に、話題は無いかと先生の目が泳ぐ。ふと、目線が合い、先生は思い出したように口を開いた。
「あ~、星野は、医者になりたいんだったか?」
「正確には医学の研究ですね」
へえ、と返事とも相槌とも取れぬ言葉を返されて、又、気まずい空気が流れ、辟易したのか「もう戻っていいぞ」そう言われた。
「失礼しました」
扉の前で待っていた番号順次の人に声を掛けて、教室へ戻る。その最中にも他のクラスの面談の声が微かに聞こえた。からん、コロン。どこかで風鈴が鳴る。お世辞にもいい音と言い難いそれは、誰の自由研究だったか。よく覚えていないのだから、そう大した発表でもなかったのだろう。
「体育は中か」
蒸し暑い空を見上げる。大きく発達した入道雲が灰がかってきていた。
鈴凛 (プロフ) [6月6日 1時] 4番目の返信 [違反報告]「それで、県立高校から此処に来れてるんだから天才だよな」
やれやれ、と首を振る彼に、肩をすくめて見せる。
「人一倍努力しただけだよ」
ホントか~?そう言いながら、アイスを一つ手渡される。まだ五月も開けていないのにずいぶん気の早い人間だ。
「でもさ、塾行ってなくてそれだろ? 塾行ってたらそれこそ、理三目指せたんじゃねえの?」
「そうかもね」
手元の変わった形をしたアイスを開けるのに四苦八苦していると、ヒョイと奪われ、既に開けていた方と交換された。
「なに、パピコ食べたことねえの」
「普段、飲料型ゼリーの形したのしか食べてない」
え!?と大袈裟に驚く姿に思わず口を開く。
「芸人?」「お前それ、馬鹿にしてんだろ」「さあ」
む、としたらしく、足を踏まれる。動揺して転びかけて、頭上から慌てた声が聞こえた。「や、悪かった」そう言われても、一度されたことはなくならない。少々距離をとって歩き始めると、「ゴメン!」と何度も謝られる。
「良いよ別に」
「お前、全くいいって顔してないからな」
小走りで近づいてきて、また隣に並ぶ。早足で距離をとっても直ぐに詰める。数度繰り返しているうちに、段々と馬鹿馬鹿しくなってきて、思わず笑ってしまった。
「仕方ないな」
「お、許してくれる? 今日早いな」
「機嫌損ねようか?」
「悪いって、ホラこれやるから」
そう渡されたのは切り離した部分の少しアイスが残っている所。
「これが?」
「ここが一番うまいんだって。分かってねえな」
ふぅん。と受け取って食べる。確かに、ほんの少し美味しい気がした。
鈴凛 (プロフ) [6月10日 1時] 5番目の返信 [違反報告]教授の手の中で、金魚が無色透明のホルマリン液に浮かんでいた。途轍もなく気味が悪くて、吐き気がする。陸の上にいるはずなのに、船の上にいるような足元の心許なさに、ぐらりと身体が揺れた。
「っ、え、う」
「ちょ、星野!?」
声が遠くに聞こえる。嘔吐くも空腹の胃からは胃液ばかりが出てきて、それが通った喉が痛みを訴える。頭では息が浅くなっていると分かっても、体は言う事を聞かない。ぼんやりとした五感の中、唯一背を擦る感覚だけは鮮明で、縋る様にその白衣の袖を掴んだ。
「・・・星野?」
困惑した声色に、思わず手を離す。
「わる、い」
「いいから、謝んな」
なんて言っていたのだろう、声がしたことと、脇の下に手を通し起こされ、誰かの肩に凭れ掛かる体制になり、再び背を擦られたことだけは確かだった。
鈴凛 (プロフ) [6月10日 1時] 6番目の返信 [違反報告]次にしっかりと意識が戻ったのは簡易ベットの上だった。体を起こし、辺りを見回しても誰もいない。いつも使っている仮眠室な事は確かだ。時計を見るとまだ講義中のようで、周りに人がいない理由も分かった。
「あー、情けな」
思わず、頭を伏せて蹲る。隠し通すと決めていた癖に、不意打ちで来られるとこれだ。普段、ネズミの解剖だろうと何だろうと顔色を変えないのに、今回だけこうなっていては不審がられる。どう言い訳しよう。カチカチと時計の秒針が考えを急かす。受験の時もそれで上手くいかなかったと、どうでもいいことを思いだした。
普段、A判定の大学に落ちた。大学のA判定は受験資格と分かっていてもショックだった。いつも、校内テストで一二を競っていた人間は受かっていたのだから余計に。
コン、と控えめなノックに意識が戻る。体制を戻し、はい、と返事すれば引き戸の扉は簡単に開いた。
最低限に開けた扉の隙間から、するりと入り込んでくる。少し伏せがちな顔は、意識を失う前に見た時より生気が無い。
「あ~、大丈夫か? 一応ノート取っといたから」
「分かった、ありがとう」
今の僕よりも白い顔をしている癖、呆れたように笑った。
「大丈夫か、の方に応えろ、阿保」
「君に阿保と言われる筋合いは無い筈だけど? 学科上だよ」
「そういう事じゃねえ、阿保より馬鹿か」
馬鹿と言われる所以も無かった筈だ。そう口を開こうとするが「学業の話じゃねえよ」と先回りされた。出鼻をくじかれ、押し黙る。
言い返してこないことを良しとしたらしく、僕が寝かされていたベットに腰かけ、持っていたノートを手渡してきた。
「ま、言い合いできるなら、大丈夫か」
鈴凛 (プロフ) [6月10日 1時] 7番目の返信 [違反報告]そう息を吐いて、それまでの会話の緩さとは真逆に、真面目な目で僕を見つめた。
「なにが駄目だった?」
「いや、寝不足と疲れが祟ったのかな、普段は平気なんだけど迷走神経反射が起きたみたいで。特にこれと言った原因は無いよ」
ふ~ん?と信じて無さげな表情を見て、付け加える。
「あるとしたら、教授の課題の多さかな」
それでも、表情は変わらなかった。今の、笑うと思ったんだけどな。当てが外れた。
「ま、それならいいけど」
そう、彼は目を逸らす。だけど他に原因があると疑っているようで、自覚症状が無いだけじゃ。と呟く。その姿に、原因を隠した事を心の中で謝った。
鈴凛 (プロフ) [6月24日 15時] 9番目の返信 [違反報告]原因不明の未知の病気。致死率100%。それでも、国からの助成金は少なく、それも得体の知れない高額な薬に消えて行く。
「緩和治療の為にかけられる費用が多過ぎる」
そればかりに金を取られてしまっては本末転倒甚だしい。ここは研究機関であって、病院では無い。
ハア、と大きな溜息を吐いた。コレは解決策も、その発生原因も見つからない事に対する八つ当たりだと、頭では分かっている。
「第一、僕は」
そこまで言って、はたと看護師がいることに気づいた。
「何、どうしたの?」
人好かれする笑みを浮かべてそう聞く。看護師は、それに少し緊張を緩めて、「検診が始まります」と言った。
鈴凛 (プロフ) [6月27日 1時] 10番目の返信 [違反報告]「そう」
面倒臭いなと思いながら、画面上にカルテを表示する。あの病気は一体何なのだろうか。伝染病か、寄生虫か、癌の一種か、或いは、精神病なんて事もあるかも知れない。
「呼んで」
引き戸の扉が開かれる音がして、「失礼します」とそう入ってきた。
、
何時ぶりに見た結果だろうか。あの気味の悪い化け物が、大きくなる予兆があった。
、
「じゃあ、そういう事だから。余命は恐らく2、3日。心残りがあるなら、今のうちにどうにかした方がいいよ」
目の前の奴は顔面蒼白で、生気がなかった。それでも暴れ出さないのは、自分で予兆でも感じていたのかもしれない。
淡々と説明は進んだ。説明も終わり、その人が退出する所で、ふと思い付いて口に出す。
「ああ、それと。死んだ後の希望があるなら、遺書作成程度は手伝うから」