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ざわり、と風が騒ぐ。けれど東暁はそれを気にも止めない。ただ剣をすらりと抜いて、笑うだけだ。「さあ……躍りましょう風龍。俺の炎を消し去れるように」そして闇属性を帯びた炎を放った。
「『アイススピア』」1人でクエストに来ていた征花は、襲ってきた獣型の魔物に氷の槍を突き刺す。尚動こうとする魔物を面倒くさそうに一瞥すると、氷の槍に触れる「『ライトニング』」氷に電気を流して、片付けるとその場を離れ、進む
草原の魔力が乱れる。風龍は草原の主であり、それを許さない。乱す原因となっている東暁に対し、風龍は攻撃を開始した。「ああ、いいですね、いい。けれど、まだ弱い……」
「……っ…?」魔力の乱れを感じ取り、征花は足を止める。魔力の乱れ、それと同時に嫌な魔力も。征花は知っている、この嫌な魔力を知っている。自分の兄達が使う魔法と同じ、闇属性の気配がする。「………仕方ない」行ってみるか、と呟いて征花はそちらへと方向を変えた
「堕ちれば良い。堕ちるが良い。そして自己を省み絶望すれば良い!」笑いながら抜いた剣に闇属性を纏わせ、東暁は風龍に斬りかかる。東暁の闇属性は、後天取得のものにしては根が深い。意図的に他者を堕とすことも、不可能ではないのだ。「『獄炎』」黒い炎が風龍を舐める。闇が濃くなっていく。それに、東暁は愉しそうに笑った。
「う、わ……っ」そこに近づき、燃える黒い炎を見て征花は眉間に皺を寄せた。龍、ましてや草原の主を堕とそうなどという思考らしい術者の神経を征花は真剣に疑う。「……まぁ闇属性持ちって正しくは、あんなもんなのかな」兄たちはそれぞれ先天性と後天性で闇属性を持っているが、それにしてはかなりマトモなのを征花は知っている。
『ぐおおおお!』闇を帯び始めた魔力を振り払うように魔法を使う風龍のその行動は、実は東暁の思う壺だった。魔力が減ると言うことは魔法に対する抵抗力が僅かながらも落ちていくということ。「『炎闇』」闇が形を変え、赤く染まる。赤い闇。灼き尽くすような闇。それを大地に滑らせて、東暁は自分たちのいる空間の闇属性魔力をさらに濃くする。闇属性でなければ息もしにくいような空間で、さらに東暁は剣を振る。
「おいおいおいおい………」流石にまずいだろ、と思いながら征花はその様子を見ていた。「………仕方ない。」術者は炎と闇、炎なら自分の属性で有利が取れるし、闇属性は兄達のお陰基原因で多少の耐性がある。「『アイスシュナイデン』」氷の魔法を発動させながら征花は槍を持ってその空間に突っ込んだ
空間の支配者である東暁には、侵入者に反応することもできた。緋色に染まった瞳をそちらに向け、東暁は不快そうに眉を寄せる。こんなにも愉しい遊びの途中で邪魔をされるのは、遠慮願いたかった。もう一本の剣を抜き、二振りの剣に闇属性を巡らせる。「あともう少しなんですよ。邪魔しないでいただきたい」そして自身の闇をこれでもかと込めた一振りの剣を、風龍に向かって投擲した。
「っ、まずい」投擲された剣を視界にとらえ、氷のナイフでそれを撃ち落とそうとする。そして自分は術者に向かって、冷気を纏わせた槍を構えて突っ込んだ「迷惑な行為は、やめていただきたいんですがっ……!」
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