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『………執拗い』苛立ったような声がする。実体はないが、侑斗に取り憑いている悪魔のものであることは間違いない『ユートを嫌っていた貴方が、ユートに固執する意味は、無いでしょう』
『そうであるな、だが我が嫌いなのは此奴自身ではない……貴様がとり憑いて、狂った状態の此奴だ』牙を剥き出して唸りながら、界蓮は靄を引き剥がそうとする。だが根本から引き剥がすのは流石に無理らしく、何度も噛み砕こうとしているがうまくいっていない。
『狂わせることの、何が悪いの。ユートは楽しそうだったじゃない』侑斗が正気の状態の時、狂った状態をよく思っていないことを知っていながら、そんな支離滅裂なことを言う。しかし悪魔の方も、多少力が奪われているのか、界蓮を無理に止めることは出来ないようだ
『狂ってから正気に戻った者の苦しみも知らず、よく言えるのである!!』苛立ったようにそう言い、界蓮は怒りに任せて靄を一部喰い千切った。全ては剥がせなかったようだが、それでも取り敢えずは処理をするつもりか噛み千切った靄をがりがりと噛み砕く。
『づっ……最悪…』喰いちぎられたことで力が削がれ、形を保つのが難しくなったのか靄は薄くなり、声も聞こえなくなる。同時に、僅かに魘されていた侑斗の様子は穏やかになる。矢張り負荷がかかっているのだ。
『まったく、本人のことも考えずに狂わせるな、なのである』そもそも壊れた方が楽なとき以外に狂わせるのは意味がないであろう、と言いつつ界蓮は靄を飲み込む。夜で力が一番出やすい時間帯のためか、飲み込むために必要な時間も少ないようだ。
「ん……」侑斗は寝返りをうつこれだけ魘されても、侑斗は起きていなかった。普段からよく眠れていないからだろう、夜中に毎度毎度力の負荷がかかっては、よく眠れないのも当たり前だが。
『気の毒な人間であるなあ、お前は』寝返りを打った侑斗にそう呟き、界蓮は憐れみと同情の混じった視線を向けた。そして一つ溜め息を吐き出し、雑巾を掛けながら部屋から出ていく。やるべきことは取り敢えずは終わった、ということなのだろう。
「……」侑斗は眠り続けている。あれだけの事が起こりながら、侑斗は起きるような様子は見せていない。この分なら朝、自分が言っていた時刻まで目が覚めることなく眠っているだろう
しばらくして、朝。白羽は自分で言った通りに朝食としてフレンチトーストを作る準備をしていたが、それを界蓮は引き留めた。『まだ眠っているのである。多分、まだ眠いはずであるから……あと二時間は寝かせてやるのである』『何かあったのか?』『負担がかかっていたようであったのであるから、靄をいくらか喰ったのである』
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