名隠しの町

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この町は空気が澄んでいてとても心地好い。
今日は快晴であった。
青々と茂った木の上で道を照らしていたお天道様は、もう半分ほどしか顔を出していない。代わりに青白い顔をしたお月様が、美しくグラデーションする空の中で遠く光っている。
今日も一日が終わっていく。何事も無く、平和に、いつも通りの日々が終わり、また始まっていく。それはどこか無機質で寂しい感じもした。
憂鬱な気分を振り切るために、しゃーっと気持ち良い音を立てて勢い良く、長い長い坂を下った。
地元を離れてもう一年が経つ。未だに友達は数える程しかいないし、気の許せる存在も居ないから息苦しい。でも、肌越しに感じるこの風はそんな心を癒してくれる。秋の顔をした風が傷みを知らない短髪が掻き上げられ、体の芯の芯まで清々しい。この風は自分の味方だと、そう思えた。
そんな事を考えていたら、あっという間に坂は下り終えて、自分のアパートの近所に位置する、大きな民間の公園の前を通り掛かった。
ここの公園の桜並木は、改めて見ても立派だ。しかし春ならば薄桃色した花弁が風に混じって舞うのだろうが、秋である今ではなけなしの葉っぱが枝の上でひっそり揺れているだけである。昼に見たら少し残念で寂しくなる。でも、夕暮れ時に見ると、帰ろうとする親子たちと相俟って不思議と風流で美しく思えるのだ。
やっぱり、登下校するこの時間が何よりも至福だ。美しい自然は空いた心を潤してくれる。
橙色に染まった美しい空を見上げ、感嘆を吐くように溜息を付くと、中の悪い気は抜けてまた頑張ろうって思える。何故か少し泣けてしまった。
虚ろな目で桜を見ていると、空に黒が差し掛かってきた。太陽が沈むのは早い。それに今は夕時、この世とあの世が最も密接する不気味で美しい時間。
「急いで帰ろう」
そう独り言を呟くと、彼は自転車に跨った。
(専用)

きるみい (プロフ) [5月13日 16時] 1番目の返信 スマホ [違反報告]

嘘みたいな色の夕焼けに包まれながら落葉樹の並木の一つにもたれ掛かる、雪景色に桜が咲いた様な傘を手に提げた白髪の青年。それはまるで無声映画の一幕の様な光景であった。
「……………迷子だ」
そんな一見厭世の匂う様な、文学的とすら言える雰囲気を先ほどまで纏っていた青年はぼそりと口にした一言でそれをぶち壊す。
白髪の青年ーー名は蜜と言うーーは朝から災難続きであった。
人の子だと思って驚かせた相手が異なる者…異形であったのはよくあることだ。しかし、その時友人と呑み明かし、しこたま酔っていた蜜は驚かせた拍子にふらつき、そのままその異形にもたれ掛かってしまった。その異形は『喧嘩なら喜んで応じるぜ』という言葉を蜜に掛けファイティングポーズを取った。故に蜜はそのつもりは無い上に自分は非力だと言うことを相手に伝える為、『…ああ、お前様は私と喧嘩をしたいのか?…だが残念だったな、私と喧嘩をすれば、お前様はきっと数秒のうちに返り血に染まってしまうからな。それは出来ない約束なんだ』と言った。酔っ払い、気が大きくなってしまっていたのである。すると相手は何か重大な勘違いをしたらしく、『そんなに言うなら力を見せろ!』と叫び蜜の腹に一発入れようと追い掛けて来た。酔いの醒めた蜜が慌てて『違う!返り血を浴びるのはお前様だと言っているだろう!私がお前様にぼこぼこにされると言っているんだぞ!』と相手に負けず劣らない声で叫んだが相手は全く聞く耳を持たず、蜜を追い掛ける足を止めなかった。そうなれば蜜もひたすら逃げるほかはなく、逃げ続けてようやく撒けたと思えば全く知らない場所だ。しかももう夕方である。今日はここ数十年で一番無駄な日であったやもしれない。
どうしたものかと頭を抱えていると、もたれ掛かって見えていた側とは反対側の桜並木の出口のあたり、桜並木を越えた先の道路に制服を着て自転車に跨がった人の子が居るのが見えた。先ほどから一人も人を見ていなかった蜜はこれ幸いとばかり、そちらにゆっくりと歩み寄りながら、学生であろう人の子に声を掛ける。
「おうい、そこの方。道を教えては貰えないだろうか?迷ってしまったんだ」

み~ちゃむ (プロフ) [5月13日 17時] 2番目の返信 スマホ [違反報告]

「ひっ!?」
突然聞こえた声に仰天したのか、西煌は大きな声を出して肩を震わした。普段から人と関わる事が少ない彼はいつの間にか常人よりも臆病になり、こんな些細な出来事でも驚くようになった。例えば、背後に立って声を掛けたり、突然肩を叩いたり。なんて事無いような事でさえも飛び上がり、バクバクと心臓を鳴らす。そんなビビリな様子から、彼はよく友人から小動物に模されていた。
まあそれは置いておいて。
さて、彼は目の前の人物を振り返った。基調とされた白が目を引く知的な男であった。しかし、じいっと見つめていると、どこか普通の人間とは違う空気を感じ取る。
___ああ、彼はきっと異なる者だ。
無意識なうちに自分の力が開花して青年の姿を見せているのだろうか、それとも青年自体が人を揶揄う為に見られようと姿を表しているのだろうか。それはどちらでも良いのだが、どうやら彼は異なる者で間違い無いようだ。しかし、彼に攻撃の意思などは見えない。それに悪さをしようと企む悪意も感じられない。西煌は別に攻撃をしたいわけでもないし、彼ら異なる者を抹殺したいわけでもない。彼らが悪意無く人間と生きていくのなら邪魔はするつもりは無いし、むしろ協力したいぐらいだ。だって、彼の地元での友達は姿の見えないものだったし、彼らの全員が全員悪意を持った者じゃないということも知っている。西煌は人間が好きな彼らの事を好いていた。だからこそ、ここに住む異なる者も愛そうと思ったのだ。その精神に則り、ここは素直に案内してやろうと決心する。
「え、と……どこに行きたいんですか…?」
つい最近異なる者による盗難に遭い、買い換えたばかりでピカピカ光る黒色の自転車を停めて、前カゴに置いた重たそうなリュックサックを背負った。細身な西煌は重みで若干蹌踉けるものの、何とか立て直して向き合う。そんな自分の様子を心配そうな目で見る青年に少しはにかむと、恐る恐る上目遣いで見つめた。
「あ、の、何なら一緒に行って案内しますけど…」

きるみい (プロフ) [5月14日 19時] 3番目の返信 スマホ [違反報告]

「本当か?それはありがたいな!」
突然見知らぬ輩に声を掛けられびくびくと怯え上目遣いで此方を見上げる、愛らしい人の子の『何なら一緒に行って案内する』と言う言葉に蜜は破顔する。恐らく此方を異なる者だとなど考えもしていないであろう人の子に、蜜は今すぐ『ばぁ!』と額の眼を見せて驚かせたい衝動に駆られるが、そんなことをすれば折角帰ることの出来るチャンスをものにしたと言うのにそれをみすみす逃してしまうことになる。その上、道案内を買って出てくれた人の子の厚意を無駄にしてしまう事になるとすれば、此処は我慢一択だ。
「いやはや恥ずかしい限りでな、この年で迷子になることが有るとは思いもしなかったぜ。君が通り掛かってくれなければどうなっていたことか…」
蜜は恥ずかしげに視線を下に逸らし、人の子の『どこに行きたいんですか』と言う問い掛けに対する的確な解答を考える。自宅の側に有り、尚且つ名前で場所を特定することが容易な施設。二つの条件に当てはまる施設の名前を思い当たり、蜜はそれを口に出した。
「…藤代と言う名の小学校が近くに有る所に行きたいんだ。…君は知ってるかい?」
僅かに首を傾げ微笑んだ蜜は今が逢魔が時であることを、物が机から落ちる様に、ほとんど普遍的に自動的に知覚した。
薬袋ではなく別の場所に住処を構えていた頃は、異形を感じる才の全く無い人の子にも姿を見せることの出来るこの時間帯を大層待ち遠しくしていたものだが、この薬袋では逢魔が時やら丑三つ時やらを気にせず驚かすことが出来る故、最早時間はあまり意味を成さない。あまりと述べたのは、人と言うのは暗闇と言う魔の時間を疑えば心のうちに居もしない鬼を生み出す生き物であり、そう言った人の子は此方が驚かす気が無くても勝手に驚いてくれる。その現象を蜜が『棚からぼた餅』だと考えているからでしかなく、他意はない。
少なくともふと道を間違えた愛らしい人の子を家まで送り届けこそばすれ、手を引いて連れ帰る気などさらさら無い蜜にとっては……前述した様に魔の力が強かろうと強くなかろうとどちらにせよ変わらないのである。………例えと現在の状況が真逆であるのがなんとも皮肉な話だ。

み~ちゃむ (プロフ) [5月14日 19時] 4番目の返信 スマホ [違反報告]

「藤代…はい」
大丈夫です、知ってます、とインディアンのように辿たどしく答える。
彼の数少ない友人の一人に、大家族を抱えた男子生徒がいる。彼はその家の長男坊らしく、弟や妹達の送り迎えなどを積極的に行っているそうだ。西煌も以前、その友人に手を引かれるままに青年が言った藤代小学校へ彼の弟妹を迎えに立ち寄っている。幸いなのが彼はとても記憶力が優れており、藤代小に向かって数ヶ月経つ今でもその位置を覚えていた。
再び停めた自転車を押し、青年と共に歩き始める。背中にずんとした重みを感じつつ、ゆっくりと歩を進めた。
「……。」
しかし、ここから藤代小まではかなりの距離が開いている。
何度も言うが、残念ながら西煌は人との対話能力に著しい欠けが見られる。その短所はここでも顔を見せた。人見知りに典型的な『よく見知っていない人との無言の間は、むず痒く辛い。』というやつだ。現に西煌は何か話そうと藻掻いているし、かと言って何を話せばいいのか分からず、冷や汗がダラダラと流れている。
ここから先、歩いていけば30分ほどは掛かるだろう。夜もとっぷり更けてきた。これからこの街は異なる者達の楽園となる。
(結界……張っておくべきなのだろうか。でも既に側には異なる者がいるし、逆に寄ってこなかったりして……)
会話慣れしない彼は、すぐに自問自答を始める。隣の青年なんて知らぬ顔して、すぐに自分の世界に入ってしまった。

きるみい (プロフ) [5月14日 20時] 5番目の返信 スマホ [違反報告]

黙りこくってしまった人の子を蜜はじろじろと、斜め後ろから不躾に眺める。この細身の人の子の行動や態度、雰囲気からはなんとなく気弱く頼りない印象を受ける。
そんな子の大半は声を掛ければそそくさと逃げて行ってしまうものだが、何故かこの子はそうではない。
この人の子は気が弱いにも関わらず逃げずに、こうして自分の時間や体力や諸々を使って蜜を助けようとしている。それが蜜にはとんでもなく愛らしく思えた。そんな愛らしい人の子を思う存分驚かせたいと言う蜜の衝動はぎりぎり罪悪感に押し止められ、それを実行に移すことは阻止出来た。
「…しっかし、『異なる者』って言うのには野蛮な輩が多いよなあ…君もそう思わないか?」
つい数時間前まで死闘ーー蜜が一方的に死闘であったーーを繰り広げていた相手の異形を思い出し、蜜は思わず身震いする。
無論、異なる者にも温厚な者は居るし、人の子にも野蛮なのは居る。しかし、パーセンテージが明らかに違うのだ、パーセンテージが。
蜜が会っていないだけの可能性もあるが、人の子の中には少しぶつかってしまっただけの上に謝罪している相手を何時間も追い掛け回す様な奴は居なかったし、ましてや人の子を見境無く頭からばりばり食べる様な輩も存在しない…と思いたい。後者は又聞きだが、実際に友人が顔を青くして『食っていた』と言っていた故事実なのだろう。
ああ、想像するだけで嫌な話だ。

み~ちゃむ (プロフ) [5月14日 21時] 6番目の返信 スマホ [違反報告]

「…!」
思わず拍子抜けした。
異なる者そのものである彼が、まさかそんな事を言ってくるとは思わなかったからだ。結界を張る張らないの話よりも、西煌の頭はそちらへと気が行ってしまった。
「そう、ですね」
まるで独り言を呟くように、蚊の鳴く声で青年の問いに答える。
俯きがちな彼の瞳は長めの前髪に隠されてよく見えない。が、少なからず、先ほどよりかは光を放っているように見えた。
「僕、他の人とは違って、特別な力を持っていますから……狙われやすいんです、割と。その…、異なる者達から。でも、 それでも、親切な子は親切なんです。時には僕を護ってくれる子だっていて……。」
彼の声に少しハリが出来た。少しばかり感情的になっているようで、先程は小声程度でよく聞こえなかった彼の声は実は綺麗で透き通ったものだと分かるほどにまで大きくなっていた。目は爛々と光っている。
「だっ、だから、 異なる者達だって悪い子ばかりじゃないんですよ!そんな、野蛮だなんて……」
思わず感情が上ずったのか、そのまま勢いでばっと顔を上げれば、青年とバッチリ目が合ってしまう。その途端に急に恥ずかしくなったのか、風船が萎むが如くどんどん彼の顔は下向きになっていく。
「で、でもっ、……その、貴方だって……」
それでも諦め悪く、まだぽつりと彼は話す。
「…気づいてましたよ、貴方が、その、異なる者だって。でも、貴方は僕に危害を加える様子が感じられなかったから……、貴方も悪さをしない “良い子” なんですよね…?」
そこまで言い終わると、長い前髪越しから様子を伺うように青年を見つめた。その瞳からは不安の色を感じた。

きるみい (プロフ) [5月14日 21時] 7番目の返信 スマホ [違反報告]

蜜は一瞬、人の子の『異なる者だと気付いていた』と言う言葉に意識を持って行かれ人の子の真意を、伝えたかったことを有耶無耶にしてしまうところだったが、人の子の大きな黒い瞳を見つめているうちに、彼が何を自らに伝えたかったのかを理解した。
「そうか…君は、私を……庇ってくれたのか」
蜜の『異なる者は野蛮』という言葉から、この人の子は蜜自身を庇ったのだ。
…なんだそれは。自分で結論を出しておいて、蜜はその結論に困惑する。野蛮であろうがなかろうが、人の子は異形を嫌う生き物だろう?それは蜜が生まれた頃から全く変わらぬ事実であるのだが…
「何事にも、例外は有ると言うことか…」
蜜は持ち前の思考の柔軟さでそれを受け止め、独り言ちる。…それにしても、人の子から『良い子』と評されることが有るとは思いもしなかったぜ……などと考えながら。まったく、良い子はどっちなのだ。
蜜は、目の前の人の子の頬を掌でぺたりと挟み込んだ。目の前の人物が、本当に人の子であると確かめる様に、確認する様に。それは思いの外触り心地が良く、もちもちとした感触の下に生命の脈流が有ると考えると、大層不思議な気分になった。
思考が追い付いていないのか単純に無抵抗なだけなのか、無遠慮に頬を撫でくり回されているにも関わらず大人しい人の子に蜜は語り掛ける。
「まだ…君の名前を教えて貰っていなかったな」
人の子に名を問い掛けるのは何年振りだろうか、と蜜は考える。蜜の中で人の子は人の子でしかなく、何がどうであれ愛おしい存在と興味の対象ではあったが、その中で名前を覚える程特別な個体と言うと数は各段に減り、名前を覚えるほど親しい人の子の中で蜜の正体を知っている者となるとただの一人も居ない状況である。
「…教えて、貰えるかい?」
蜜は自らの口許に片手を戻し、もう片方の手の指先で引き続き彼の頬をもちもちとつつき、簡単に変形する彼の頬を愛おしく思いながら問うた。

み~ちゃむ (プロフ) [5月15日 18時] 8番目の返信 スマホ [違反報告]

「……。」
青年の紡ぎ出す言葉を聞きながら、ぼうっと青年の顔を見ていた。頭を撫でられる事すら愚か、滅多に顔を触られる事の無い西煌は、自身の頰で遊ぶ事を牽制する事も、冗談めかく笑う事も出来なかった。目と目を合わせて対話しているということへの緊張感からか、変に体が強張って金縛りのようになってしまったのだろう。
それに、目の前の青年があまりにも楽しそうに笑いながら頰を触っているものだから、止めてやろうにも止められなかった。何より彼の表情はどうも止めるには勿体の無いものであったから、尚更。
「あ、え、えと……名前…?ですか…」
突然会話を振られ思わず挙動不審になるも、しっかりと声は出せるようになった。さっきの焦りが効いたのか、何となく西煌の対話能力は少しばかり上がったように感じる。青年が話し上手なのか、本当に西煌が成長したのか。それはまあ、どちらでも良いだろう。どちらにせよ、また西煌は異なる者から良い結果を与えられたのだから。
「にしき、枩下 西煌って言います。あの、西の空に見える夕暮れの空のように美しく煌めくって意味で…」
西煌の名前は太陽を模して付けられたのだが、どちらかというと彼は月の方が似ていた。落ち着いていて何処か儚げで、空気と共に溶けて消えてしまいそうだ、なんてよく彼の祖母は彼に言っていた。でも確かに、彼の痛みを知らない黒髪は夜空のようだし、夏明けだというのに日焼けの跡も見えない白い柔肌は月そのものだ。だからこそ西煌は名乗る時、「太陽が僕なんて柄じゃないですけど」と付け足すのだ。
大好きな祖母の言葉をなぞる様に。
「あ、はは、…なんかちょっと恥ずかしいですね。この歳にもなって、きちんと自己紹介するのって。」
名乗り終わった後、西煌は頬を淡く桃色に染めて笑った。青年の前で屈託なく笑ったのは、今がはじめてかもしれない。あまり人に対して心を開かないはずの彼が笑ったという事は、青年と会話していくうちに少しばかし氷の鍵が溶けたのかもしれない。

きるみい (プロフ) [5月15日 20時] 9番目の返信 スマホ [違反報告]

まつしたにしき、まつした…西に煌めくで西煌か、と頭の中で名前の音と由来から想像できた風景をひとつひとつ転がしていた蜜は、自らの手から程近い部分で小春日和の様な笑顔を浮かべた西煌にぎょっとし、思わず固まった。
いや、ぎょっとしたと言う表現は正しくなかったかもしれない。しかし蜜はこの感情を表現する語彙を持ち併せておらず、こう言った表現をするほかはなかったのだ。大目に見てやって欲しい。
因みに蜜のこの感情を表す言葉の模範解答は『心の糸が緩んだ時にふと見上げた空がとんでもなく美しかった時の様な嬉しい驚愕と若干の感傷』などである。そしてとてつもなく簡単に言うと『ドキッとした』である。
「私の名は蜜と言うんだ。好きに呼んでくれて構わない。名の由来は……そうさな、見た方が速いか」
蜜は片目を瞑りぺろりと紅い舌を出し、少しだけ上体を前に傾け額の瞳を露出させた。かわいこぶった仕草は妙に板についており、今どき女性アイドルでもなかなかやらなさそうなほどあざとい仕草だと言うにも関わらず、違和感が無い。
「三つ目の蜜さ。覚えやすいだろう?…………ところで、異形に名など教えて良かったのかい?私は本当はとんでもなく悪い子で、ただ性質を偽っているだけなのかもしれないぞ?」
随分と人の良い彼に老婆心が湧いてしまい、蜜は体制を戻してから西煌の瞳を見つめ、肩を竦めつつ苦笑し、そう言う。
この子がどの異形にもこうだとしたら、『その気』のない異形まで『その気』にさせてしまいそうな物だが。そこで蜜はああ、と合点する。先ほど西煌は『特別な力を持っているから狙われやすい』と言っていたが、狙われやすいのはその善い性質故も多分に含んでいるのだろう。悪食も居るには居るが、魔の物は大抵無垢で純粋な、成長の幅を残した者に惹かれる存在なのである。
最も、本人はそれに全く気付いて居ないのであろうが。

み~ちゃむ (プロフ) [5月16日 0時] 10番目の返信 スマホ [違反報告]
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